第61話 きっかけ
クライ女王国3日目、王城内の訓練場には異様な光景が広がっていた。騎士団の全員が訓練の手を止め、何かをずっと見つめていた。その中心にいるのは1人の少女。その場にいる全員が彼女の動きを見逃すまいと真剣に観察していた。「豹さん、すごーくやりにくいんですけど…」
「仕方ないですよ、みんな強くなれる可能性には貪欲な方々ですから」
豹は少し面白がっていた。そしてミヤはため息をついた。そのきっかけとなったのは2日目の朝だった。
「ミヤさん、すみません、お手合わせお願いしたいのですが」
騎士団員の1人がミヤに手合わせを申し込んでいた。
「え、えっと…」
ミヤはやっていいのかどうかわからずおどおどしていた。するとそこにトルネが来た。
「ミヤさん、ぜひ手合わせしてあげてください。彼の練習にもなりますから」
「わかりました。ではやりましょう」
ミヤは少し考えた。
(せっかく手合わせするならこの人の苦手な部分を少しでも改善できるといいな…よし。鑑定)
鑑定結果(使用者に必要な情報のみ表示します)
リュート レベル45 騎士団員 称号:なし 踏み込みの甘さが目立つ。踏み込みの幅が一定になっている。踏み込む幅を改善することで剣の威力が上がる。そしてその結果、戦闘の幅が広がる可能性がある
(なるほど、踏み込みか…なら、そこをついて戦ってみよう)
「では、ミヤさん、よろしくお願いします」
ミヤは鑑定結果をもとに徹底的に踏み込みの甘さを狙って攻めた。
(ミヤさん、強い。というより自分のしたいことを徹底的に潰されている感じがする)
リュートは踏み込む瞬間を全て潰され防戦一方となっていた。この手合わせを見ていたトルネは薄々ミヤの意図に気づいていた。数分の手合わせが終わった。
「はぁはぁ…ありがとうございました」
「ありがとうございました」
(伝わったかなぁ…言葉にした方が良いのかな…でも余計なお節介になるかなぁ…)
ミヤが悩んでいると、トルネが声をかけてきた。
「ミヤ殿、リュートとの手合わせ、いかがでしたかな?何か気になるところがあれば、言ってやってください。些細なことでも構いません」
トルネはミヤが悩んでいることに気づいて、声をかけてきたのだった。
「あ、えっと、踏み込みがずっと一定の幅だったので、そこを徹底して攻めさせてもらいました」「というと、どのような改善点がありますかな?」
トルネはどんどん質問していた。すると、リュートも質問をした。
「あの、一定というのは具体的にどのような感じですか?」
ミヤは2人の質問におどおどしていたが、2人の真剣な表情を見て、丁寧に答えていった。
「例えばなんですが、大きく踏み出す時と小さく踏み出す時の2つを混ぜるだけでも全然違うと思います。これは日頃の素振りだとあまり意識できないんです。どうしても自分が1番力強く剣を振れる踏み込みを考えてしまうので…」
「なるほど…日課の素振りが逆に弱点を作っていたと…意味なかったのか…」
その言葉を聞いたミヤはすかさず説明した。
「無駄ではありません。そんなことを言ってはダメです。えっと、今まで続けていた素振りはリュートさんの基礎をしっかり固めています。その努力は絶対に間違っていません。弱点とおっしゃいますが、逆に言えばそこを改善できれば弱点が強みに変わります。なのでそんなこと言わないでください」
その話を聞いたリュートは固まっていた。
「あ、すみません、偉そうなことを言って…えっとつまりですね、基礎練は大事ってことと、えと、基礎が固まったらそこに少しだけ変化を加える事でより戦闘の幅が広がるのではないかと…はい…」
ミヤはモゴモゴと説明をした。トルネはその説明を聞いて、感心していた。そしてリュートは感激していた。
「ミヤさん、すごいです。先ほどの手合わせで改善点を見つけていただいて!間違ってなかったと思えるようにさらに磨きをかけます!まずはどのようなことをすれば良いですか?」
リュートは止まらなかった。トルネが言ったように強くなることに貪欲だった。ミヤもその熱意に応えようと思っていた。
「例えばなんですが、先ほども言ったように踏み込みの幅を変えることですかね。今の踏み込みが大きいとすると、小さく、その中間という2つを混ぜることで相手もタイミングを取るのが難しくなると思います。あとはどの踏み込みでも同じくらいの剣の威力を出せるようになることですかね…大きく踏み出さないと威力がない、となってしまうと相手は大きく踏み込んでくる時だけ注意しておけば良いとなってしまいます。なのでそこも大事かなと」
「わかりました。ではやってみます!」
リュートが走って行こうとすると、ミヤが呼び止めた。
「リュートさん、待ってください」
リュートは止まって振り返った。
「えと、まずは幅を変えるところからやってみてください。いきなりどの歩幅でも威力をあげようとすると多分今の踏み込みの威力も落ちてしまいます。1つずつ焦らずにやってみましょう」「わかりました。ありがとうございます」
リュートは改めて走っていった。その後今までの素振りと踏み込みの幅を変える練習をするようになった。ミヤは大きく息を吐いた。
「ミヤ殿、素晴らしかったですよ」
「本当ですか?ちゃんと説明できてました?」
「はい、初めての指導にしては上出来なのではないでしょうか?」
「よかったー」
ミヤはホッとしていた。
「鑑定をしたのですか?」
「あ、マズかったですか?」
ミヤは不安そうな顔でトルネの方を見た。
「いえいえ、そんなことありませんよ。あまりにも完璧に彼の改善点を浮き彫りにしていたので、そうかな?と思っていました」
「ただ手合わせして終わりっていうのは、私としては嫌なんです。どうせやるなら何か少しでも得られるものがあって欲しいんです。些細なことでも良いから少しでも」
「良い心がけだと思います。ところでミヤ殿、1つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、なんですか?」
「最後にリュートを呼び止めて1つずつ焦らずと言ったのはなぜですか?」
「あー、あれですか。いやぁ、お恥ずかしながら私が失敗した経験がありまして。そうなってほしくなくて言ってしまいました」
「ほぉ、ミヤ殿もそのような経験を?」
ミヤはおじいちゃんたちと特訓していた時の話をした。そして基礎がどれほど大事かわかったこと、そして焦らず1つずつ積み重ねることの大切さを学んだことを話した。
「まあ、リュートさんの場合はあそこまで踏み込みを固められるほど基礎の素振りができているので、余計なお世話だったかなと思いますが」
ミヤが話している間、トルネは別のことが気になっていた。
(カインという名のおじいさん?しかもその強さ。いや、たまたまか…500年前の人物が今も生きている訳ないか)
「良いおじいさんですね」
「はい、自慢のおじいちゃんです」
リュートと手合わせした後から、騎士団員が少しずつミヤとの手合わせを望むようになった。リュートの戦闘スタイルが変化し、今まで以上に強くなっていた。騎士団員が話を聞くとミヤと手合わせをしてアドバイスをもらったということだった。そのため、ミヤと手合わせをすると自分でも気づいていない弱点を克服でき、強くなることができるかもしれないという噂が騎士団内に広がっていた。1人、また1人とミヤとの手合わせを望む者が増えていった。その様子を見ていた豹たちは面白半分で見ていた。しかし豹たちもなんだかんだ強くなることには貪欲なため、自分たちもミヤとの手合わせを望むようになっていた。
「ミヤちゃん次俺な」
「え、虎さんもやるんですか?」
「いーじゃん、たまには俺もミヤちゃんとやってみたいし。魔法も使っていいぞ!」
「え、そこまでやりますか?」
「もち、そこまでやる!」
虎がやる気になって準備していると、訓練場の入り口から凄まじいオーラが溢れてきた。その場にいる全員がピリついていた。そこに立っていたのはアルベルトだった。ものすごく真剣な表情で立っていた。しかしよく見ると何かに怯えている様子だった。騎士団員が不思議に思ってアルベルトの方をよく見た。そして何かに気づいて急いで片付けをしようとしていた。ミヤは何も分からずに立っていた。
「あちゃー、これはまずい」
トルネも何かに気づいて逃げようとしていた。
「トルネさん、どーしたんですか?」
「ミヤ殿、逃げた方が…」
と途中まで言ったあたりで、大きな声が聞こえた。
「私も混ぜろ!」
全員その場に立ち尽くしてしまった。声の主はやる気に満ち溢れ、訓練用の服装に着替えたエリザであった。




