第55話 悩みと鬼姫
虎の部屋
虎はミヤの戦闘を見て、分析をしていた。現在のミヤは自分たちの予想を遥かに超えた所まで成長していた。そしてミヤと別れる前に言った言葉を少し後悔していた。
(はあ、別れる前に驚かしてくれ!なんて言うもんじゃねーな。驚き過ぎて声も出なかった。こりゃ全てにおいて抜かれちまったか?はぁ、自信なくなるわぁ。さて、これからどんな感じで特訓していこうかなぁ)
虎が寝転がって天井を眺めていると、足音が近づいてきた。そして虎の部屋をノックする音がした。虎は目を瞑り返事をしなかった。何か面倒ごとに巻き込まれる気がしたからだ。しかしノックは止まらなかった。虎はだんだんイライラしてきた。だが、まだ無視し続けていた。するとノックの音は止まった。そして1度離れていく足音がした。虎が安心していると、次はたくさんの足音が近づいてきているのがわかった。虎は急いで部屋に鍵をかけた。たくさんの足音は虎の部屋の前で止まった。虎は今回も無視し続けようとしていた。すると扉の向こうから話し声が聞こえてきた。
「か…わん…いっ…おる…あろ…」
「しか…じょ…うさ…しゅう…が…つよう…な…てし…います」
虎は少し気になって扉の方へ近づいた。
「構わん…言っ…おる…ろう」
「です…女王様…ちゃは…やめく…さい。虎さ…が中に…られたら…けんです」
虎はさらに近づいた…
「ノック…ても返事がな…のであろう?鍵も…かってお…なら…叩き斬る…けだ」
(おい、今、叩き斬るって言わなかったか!?)
「どけお前たち、私がやる」
(おいおいおいおい、まさか女王の野郎)
虎は急いで扉を開けた。すると女王は剣を振り下ろしていた。
「おーーーーーい!」
と叫びながら虎は白刃取りをした。
「ほれ見ろ、いるではないか。さっきノックしただろ?なぜ無視をした?」
虎はため息をついた。何もかも女王にはバレていた。ここは正直に話すしかないと覚悟した虎は、自分の気持ちを正直に話した。
「ぜってーめんどくさいことに巻き込まれると思ったから。です」
「わかっているならさっさと来い。もっと面倒にしてやろうか?行くぞ」
虎はため息をつきながら女王に着いて行った。女王はいつもの女王の間ではなく、会議室へ向かっていた。
「おいおい、そんな極秘事項かよ」
虎は嫌な顔をしていた。会議室に女王、トルネとカイル、アルベルト、そして虎が集まった。
「こんな所でこんなお偉いさん達に囲まれるって、俺、ついに処刑か?」
虎はまだ嫌な顔をしていた。
「虎よ、呼び出したのは、ミヤの件だ」
すると虎は一気に真剣な顔になった。
「おい、失礼を承知で言うけど、この国によこせとか言ったら全力で抵抗するぞ?」
虎は怒っていた。その反応を見てトルネがすぐに反応した。
「虎さん、違います、そう言う話ではなくてですね」
虎は少し落ち着いた。そして女王は話を始めた。
「虎よ、すまない。これは女王としてではなく、友人として相談に乗って欲しい」
虎は少し驚いた顔をしていた。
「何だよ、改まって。調子狂うなぁ。まあ、聞くだけ聞くよ」
「ミヤをどう扱えば良いかわからないのだ」
虎はまさかの言葉にキョトンとしていた。女王は話しつづけた。
「カイルとの手合わせ、そしてアルベルトとの手合わせを見て、正直すごいものを見たと湧き立った。しかしその反面ある危険性も頭に浮かんだのだ。ミヤがもし敵となった場合、われらにはどうすることもできないのではないか。と言う事だ。接し方を間違えればミヤと敵対してしまうのではないかと言う不安がものすごくあるのだ。だが、我らはミヤと出会って間もない。それで虎に相談していると言うわけだ」
女王は珍しく不安そうな顔をしていた。虎はいつもの調子ではなく、真剣に答えた。
「まあ、正直俺らもミヤちゃんと出会ってそんなに経ってないんだよ。だから、はっきりとした答えは言えない。でも、俺が思うことはあるぞ」
「それは何だ?」
女王は不安そうな顔で聞いた。
「いつも通りでいるのが1番だと思う。特別扱いや腫れ物扱いじゃなく、1人の人間、【ミヤ】として接してあげるのが1番良いと思う。ましてやあんた達はこの国のトップだ。そんな人間が自分に対して謙ったりしても、ミヤちゃんは喜ばないと思う。だからいつも通り、今まで通りが1番だと思う。でも、正直常識はずれに強いことは認める。俺らも多分抜かれてる。ガンロックのおっさんもな。だからこそ俺はいつも通りでいられるように努力を惜しまないと決めた。この先どれだけ強くなるかわからないけど、追いついてみせるよ。まあ、それは俺のやるべきことだけど。とりあえず、さっきの質問の答えになってるかはわからないけど、そんな感じだな。てか、そんなに気にしなくてもミヤちゃんは大丈夫だよ」
虎の話を聞いて、少しだけ不安が取り除かれた女王達だった。まだ完全に安心できるわけではなかったが、虎が言う大丈夫の一言は今の女王達にとっては不安が取り除かれる言葉だった。
「虎、すまないな、ありがとう」
「良いって、気持ちわりー」
虎は照れ隠しのように言った。
「虎さん、少しお聞きしたいことがあります」
「何だ?」
カイルは今までの重苦しい雰囲気などお構いなしに自分の興味のある事について質問した。
「ミヤさんは今どのくらい強いと思いますか?」
カイルの質問に虎は少し考えた。
「正直、わからん!なんせ俺らも会うのが久しぶりで、どれくらい成長したかが未知数だ。どうせさっきの話もアルベルトさんが俺に話せ!とか言ったんだろうけど、手合わせでも底が見えていないって言うのが本心だな。まあ、女王さんの不安もわからんでもない。単身では勝てる気がしないな。条件次第ではあるが複数人で対応すれば何とか…」
虎は途中で話を止めた。女王達は不思議そうに見つめた。
「虎さん、どうした?」
トルネが声をかけた。すると虎は笑いながら答えた。
「あ、いやすまん、なんか魔王でも討伐しに行くのかって言うメンツを想像しちまった。俺ら3人、ガンロックのおっさんに梅ちゃん、アルベルトさんとトルネさん。このメンツなら倒せるだろ!とか考えてたけど、このメンツで倒せないと魔王どころじゃねーわな。ははは」
虎はそう言いながら、ミヤなら有り得るかもと一瞬思ったが、口には出さなかった。そうなる前に追いついてやると思い直した。
「さて、この話は終わりで良いかな?」
「そーだな、こんなタイミングですまなかったな」
「いいよ、俺も改めて頑張ろうと思えたからな」
虎がそう言うと、アルベルトもやる気を出していた。
「明日から、全員ミヤ殿に手合わせしてもらいましょうか」
「良いですね、私も少し訛っていたと感じていたもので」
トルネもミヤの強さに惹かれていた。
「皆さん、まずは私からでも良いですか?ミヤさんがいる間に少しでも教えていただきたいです。みなさんは実力者なんですから、ご自身で鍛錬しておいてください」
カイルは少しわがままを言ったが、今回ばかりは他のみんなも譲ってくれなかった。ただ、ここで全員が予想外のことが起こった。それは女王の発言だった。
「よし、私もやろう」
全員が女王の方を向いた。
「お、おい、エリザ、何を言っている?」
「母上、落ち着いてください」
「エリザ様、おとなしく玉座に座っていてください」
トルネ達がが止めたのには理由があった。クライ女王国女王エリザ・クライ。母親から女王の座を引き継いだ女性。引き継いだ年齢はなんと15歳。幼少期よりお転婆娘として有名だった彼女。前女王が亡くなったのではなく、血の気が多すぎてそれを抑えるため、前女王に女王としての責任という足枷をつけられたのだ。騎士団の演習に入り浸り、騎士団員をコテンパンにし、不甲斐ないと言い放ち、訓練量を倍にした。そして文句を言わせないために自分も全ての訓練を行なっていた。当時の彼女は周りの者たちに【鬼姫】(きひ)と呼ばれていた。その鬼姫がやる気を出してしまうとどうなるかは分かり切っている。なのでトルネたちは必死に止めたのだ。しかし、女王は完全に鬼姫に戻っていた。




