もんもんぐんぐん
「もしもし?」
「……お前、今何時だと」
「また聞こえるんだよ」
「何が?」
「壁の向こうから」
「……」
「聞こえない?」
「何にも聞こえないよ。冷蔵庫かなんかじゃないの」
「違うって。昨日も鳴ってた」
「どんな音?」
「もんもんぐんぐん」
「変な表現」
「ほんとにそんな感じなんだよ」
「録音すれば?」
「した」
「で?」
「入ってなかった」
「じゃあ気のせいじゃん」
「でも聞こえるんだって」
「疲れてるんじゃない?」
「お前さ、もっとこう……怖がれよ」
「怖がる要素ある?」
「あるだろ」
「ない」
「今も鳴ってる」
「……」
「ほら」
「……なんか、配管?」
「配管が“もんもんぐんぐん”って鳴るか?」
「知らないよ」
「絶対変だって」
「確か隣の部屋ずっと空室だったよな」
「そう、それ」
「何」
「空室なのに聞こえる」
「上の階とか」
「壁の向こうからなんだよ」
「壁ドンしてみれば?」
「した」
「どうだった?」
「静かになった」
「終わり?」
「昨日はな」
「今日は?」
「今日はずっと鳴ってる」
「もんもんぐんぐん?」
「もんもんぐんぐん」
「語感ちょっとかわいい」
「かわいくねえよ」
「スタンプにありそう」
「お前ほんと危機感ないな」
「じゃあ通話つないどく?」
「いいから、来て」
「今から?」
「今から」
「夜中の二時だよ」
「頼むよ」
「……コンビニ寄っていい?」
「なんでだよ」
「お腹空いた」
「早く来いって」
「はいはい」
「チャイム鳴らせよ」
「鍵開けといて」
「怖いから無理」
「なんだよもう、まあ行くから待ってろ」
――
「……着いた?」
「今エレベーター」
「早く」
「そんなビビる?」
「また鳴ってる」
「通話越しじゃ聞こえないな」
「嘘だろ……」
「盛ってない?」
「盛るか!」
「はいはい、着いた」
「早く入れ!」
「うお、すご」
「だろ」
「部屋きったな」
「そこじゃねえよ!」
「どこ」
「壁!」
「……」
「聞こえる?」
「……あー」
「だろ!?」
「ほんとだ」
「な?」
「もんもんぐんぐんだ」
「だから言っただろ!」
「思ったよりもんもんぐんぐんだな」
「だろ!?」
「これは配管じゃないわ」
「どうしたらいいかな?」
「とりあえず壁に耳当ててみる」
「やめろって!」
「なんか喋ってる感じする」
「嘘」
「“もん……ぐ……ん……”みたいな」
「帰れなくなったんだけど」
「動画回すか」
「映るかな」
「知らん」
「おい」
「……あ」
「何」
「止まった」
「え」
「静か」
「ほんとだ」
「気づいたのかな」
「何が」
「こっちが聞いてるの」
「やめろ」
「壁、薄いな」
「触んなって」
「冷たい」
「うわ……」
「……ん?」
「どうした」
「ここ、少し柔らかい」
「は?」
「押せる」
「押すな!」
「うわ」
「何!?」
「へこんだ」
「やめろって!」
「中、空洞かも」
「……なあ」
「何?」
「この部屋さ」
「うん」
「こっち側って、隣ないよな?」
「……え?」
「この部屋、角部屋じゃん」
「……」
「隣、外」
「……」
「じゃあ、この壁の向こうって」
「やめろ」
「ベランダ側じゃないし」
「やめろって!」
「なあ、これ何の壁?」
「知らない知らない知らない」
「待って」
「何」
「今、叩いた?」
「叩いてない」
「でも音が聞こえた」
「……」
「返すなよ」
「返さねえよ!」
「……また鳴った」
「昨日と同じだ」
「会話しようとしてる?」
「やめろって」
「返したらどうなるんだろ」
「絶対返すな」
「でも気になる」
「やめろ!」
「一回だけ」
「おい!」
「……」
「叩くな!」
「……返ってこない」
「ほら見ろ」
「いや」
「何」
「壁、隙間が開いてる」
「は?」
「線みたいに」
「冗談だろ」
「黒い隙間」
「見るな!」
「これは……目?」
「閉めろ!」
「閉まらない」
「なんで笑ってんだよ」
「だって」
「何」
「向こうからも、こっち見て“もんもんぐんぐん”って言ってる」
「は?」
「俺と同じ声で」




