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もんもんぐんぐん

 スーパーもんもんぐんぐん店長、ダニエルの朝は早い。

 

 今日も一張羅(いっちょうら)の全身白タイツを身にまとい、顔にドーランを塗りたくると。ボイストレーニングに余念(よねん)がない。プロフェッショナルの流儀(りゅうぎ)だ。

 

 オープン時間10分前。白くま、末長、曲、楽、髙山らを集め朝礼が始まる。

 今月の売上進捗(しんちょく)理念(りねん)復唱(ふくしょう)。社歌の合唱(がっしょう)

 

 10:00開店。ダニエルの出番は少し後だ。お昼前の惣菜(そうざい)コーナー。それこそがダニエルが最も輝く時間。

 

 だが、その日。一人の女性客の出現(しゅつげん)により、店内の平和は(みだ)された。

 

 ()(くる)うネギの暴風(ぼうふう)により、()(まど)う人々。

 

 ダニエル店長はすかさずバリトンボイスで、危険人物を異空間(いくうかん)へと引きずり込む。店の秩序(ちつじょ)を守るのも店長の(つと)めだ。

 

 ——

 

 スーパーもんもんぐんぐんの真の強さの秘密。それは、店の裏手(うらて)にある広大(こうだい)な牧場にあった。

 

「らぱすてー牧場へようこそ」

 

 案内役(あんないやく)を買って出た末長が、(さく)の向こうを指差(ゆびさ)す。

 

 見渡(みわた)す限りの草原に、無数(むすう)のらぱすてーがのんびりと草を()んでいた。同じ顔、同じ髪型、同じパンツ(()えたてホヤホヤ)をした個体(こたい)が、何百、何千と点在(てんざい)している。

 

「みんな同じ遺伝子(いでんし)から作られたクローンです。品種改良(ひんしゅかいりょう)を重ねまして、現在の第七世代は、パンツの生産効率(せいさんこうりつ)が初代の三倍にまで向上(こうじょう)しております」

「三倍……?」

「はい。もともとのらぱすてーは一日一枚しかパンツを生産できませんでしたが、第七世代は一日三枚。しかも自然放牧(しぜんほうぼく)のストレスフリー環境(かんきょう)で育てているので、パンツの品質(ひんしつ)段違(だんちが)いです」

 

 末長が牧場の一角を指す。そこには、のんびり寝転(ねころ)がるらぱすてーたちに、優しくブラシをかける白くまの姿があった。

 

「ストレスを与えるとパンツの品質が落ちるんです。だから毎朝のブラッシングと、快適(かいてき)な牧草地の提供(ていきょう)は欠かせません」

「なんというか……手厚いな」

「当然です。らぱすてーのパンツはうちの看板商品(かんばんしょうひん)ですから」

 

 牧場の中央には、収穫小屋(しゅうかくごや)があった。定時になると、ダニエルが陣頭指揮(じんとうしき)()り、孫の手部隊を(ひき)いて一斉(いっせい)収穫に入る。

 

「収穫、開始いいいいいいいっ!」

 

 号令(ごうれい)とともに、数百本の孫の手が一斉(いっせい)に牧草地へと伸びる。

 

「んっ」「あっ」「くふっ」

 

 らぱすてーたちが一斉に声を()らすが、()れたもので誰も(おどろ)かない。むしろ、のんびりと欠伸(あくび)をしている個体すらいる。

 

 数分後、収穫小屋には山のようなパンツが積み上がっていた。それらは即座(そくざ)選別(せんべつ)され、洗浄(せんじょう)乾燥(かんそう)、そして陳列(ちんれつ)へと回される。

 

「これが、スーパーもんもんぐんぐんの惣菜コーナーを支える、真の生産ラインです」

 

 末長が(ほこ)らしげに語る横で、髙山がまたスマホで撮影(さつえい)していた。

 

「これ、SNSに上げたら牧場、燃えません?」

「大丈夫です。らぱすてーたちは皆、この仕事に(ほこ)りを持っていますから」

 

 その言葉を裏付(うらづ)けるように、遠くの牧草地から、らぱすてーたちの歌う社歌の合唱が聞こえてくる。

 

 店長であるダニエルだけは、特別にらぱすてーオリジンのパンツを()ぎ取る権利(けんり)(ゆう)している。

 

「そんなパンツでだいじょうぶか」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 こうして手に入れた新鮮なパンツ()を手に、狼藉者(ろうぜきもの)とダニエル店長は対峙(たいじ)する。

 

 ——

 

 無惨(むざん)にも絆は破られ、ダニエルは天高く(かか)げられた。

 

 パンツが落ちたところから小さな()が生える。やがてそれは太く高く伸びていき、『スーパーもんもんぐんぐん本日特売日』と書かれた大きなノボリとなった。

 呼応(こおう)するかのようにショーケースが出現(しゅつげん)し、収穫されたばかりの新鮮ならぱすてーのパンツが所狭(ところせま)しと並べられる。日本全国のらぱすてーがノーパンで過ごす日だった。

 

 ダニエルは決死(けっし)形相(ぎょうそう)でらぱすてーのパンツを振り回す。暴風が()(すさ)び、らぱすてーのパンツが(ちゅう)を舞う。

 綴茶実瑠はそれらを菜箸(さいばし)でつかんでは、フライヤーでカラリと()げる。黒豚ラード100%。

 パンツ(あらし)が収まると、そこには手をぐるぐる回すダニエルだけが残った。

 

 壁のシミから、実態化(じったいか)した白くまと末長が、タックルをしかけてくる。令和の下剋上(げこくじょう)

 だが、ダニエルは毎朝公園での太極拳(たいきょくけん)を欠かしたことはない。手の回転のみで二人を吹き飛ばす。洗練(せんれん)されたエンの動き。

 

 二人の不利(ふり)を見た綴茶によって、揚げたばかりのパンツが投げつけられる。白くまと末長の食欲(しょくよく)刺激(しげき)され、動きが速くなる。

 しかし、それはダニエルの食欲もまた刺激されていたのだ。当社比300%。

 

 いつもの三倍増しの動きで、白くまでドリブルを始めたダニエルが、末長の頭に豪快(ごうかい)なダンクを決める。勝ちを確信(かくしん)したダニエル。だが、綴茶実瑠の目は死んでいなかった。

 

 ブザービートでの敗北(はいぼく)屈辱(くつじょく)の中、揚げパンツを()()めたダニエルは、ネギに(つらぬ)かれ天高く掲げられた。

 

 ——

 

 ネギは言っている。まだ死ぬ(さだ)めではないと。

 

 ——

 

 ダニエルだけは、特別にらぱすてーオリジンのパンツを剥ぎ取る権利を有している。

 

「そんなパンツでだいじょうぶか」

「一番いいのを頼む」

 

 最上級(さいじょうきゅう)パンツの確かな手触り。ダニエルは勝利を確信したが、(ねん)には念をいれる。あのネコミミパーカーの女は一ミリも油断(ゆだん)ならない。

 

 曲と楽を呼び出し、それぞれに二番パンツ三番パンツを持たせる。これぞ日本に古来(こらい)より伝わる必勝(ひっしょう)(さく)、三枚のパンツ。

 

「くらええええええええ!」

 

 ——

 

 ダニエルは、ネギに貫かれ天高く掲げられた。

 残されたのは無惨(むざん)に散った三枚のパンツの残骸(ざんがい)と、バタバタと走り去っていく曲と楽の後ろ姿。

 

 ダニエルは自らの最後を(さと)るとともに、(おぞ)ましい欲望(よくぼう)から解放(かいほう)されたのを自覚(じかく)した。

 

 (ほお)をつたう一筋(ひとすじ)の光。

 

「ありが……とう。つ……」

 

 ダニエルは満足気(まんぞくげ)にまぶたを閉じた。

 

 ——

 

 らぱすてー牧場は解放(かいほう)された。らぱすてー達は服を着る事を許され、自由を取り戻すと、嬉々(きき)としてスーパーで買い物を始めた。

 

 スーパーもんもんぐんぐんは今日も平和だった。

 

 めでたし、めでたし。

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