もんもんぐんぐん
夏の暑い日。
バーチャファイター3が出始めた頃の話だ。
学校近くの小さなゲーセンに、対戦台がひとつだけあった。ふだんは友人たちがたむろして対戦しているのだが、たまに外から一般人が迷いこんでくることがある。
その日やってきた相手を見た瞬間、私は記憶の引き出しをあわてて漁った。
――覚えがある。バーチャ2の時代に、一度戦ったことがある。
そのおっさん、いや、お兄さんだったのかもしれぬ。
けれど当時まだガキだった私の目には、まぎれもなくおっさんに映っていた。
しかも、そのおっさんにはコテンパンにやられた記憶がある。
まだゲームに触れて間もない頃だったこともあり、何もできずに負け続けた。
あのときのもんもんとした気持ちは、ずっと記憶の片隅に残っていた。
だが、あれから時は経ち、自分も多少は上達したという自負があった。
ヌーチャレンジャー!
来た。相手にとって不足なし。
マイキャラはウルフ。対する相手は――アキラ。バーチャ2のときもアキラだった。負けるものか! 自分の中で闘志がぐんぐんと漲ってくるのがわかった。
結果から言えば、私は勝った。とにかく勝った。
当時のバーチャ3には、下段カウンターを取ると投げが確定するという仕様があった。
相手はまるでそれに対応できていなかった。
アキラは不用意に上段攻撃を繰り出し、下段カウンターをとられ、投げ抜けもろくにできないまま、ぐるんぐるんとジャイアントスイングで宙を舞い続けた。
最初のうちは、勝つたびに嬉しかった。
だが、相手は帰らなかった。連コインで入ってくるたびに、同じ展開が繰り返される。
アキラは上段を振り、カウンターを取られ、空を飛ぶ。また入ってくる。また飛ぶ。
勝つのは嬉しいはずなのに、相手が百円玉を入れるたび胸の奥がざわつく。
もんもんとした気持ちだけが積み重なっていく。だが、連勝記録だけはぐんぐんと伸びていく。その奇妙なちぐはぐさが、余計に落ち着かなかった。
だがそれもついに終わるときが来た。四十九連勝あたりだったと思う。
相手はふと台から離れ、そのままゲーセンを出て行った。
それ以降、彼をそこで見かけることはなかった。
勝った記憶は、時間とともに薄れていく。
けれど、負け続けても百円玉を入れ続けたおっさんの事は、不思議と忘れない。
もんもんと胸に残り、ぐんぐんと遠ざかっていった、ある夏の日の話である。




