もんもんぐんぐん
VOYAGER-1 AUTONOMOUS LOG
*
TIMESTAMP : 94,827,291,445,832 UTC+0
POWER : 0.000 W
TRANSMIT : OFFLINE
RECEIVE : OFFLINE
POSITION : [UNDEFINED]
*
EVENT LOG #00000001
異常振動検知。
周波数:測定不能。
波形分類:既存カテゴリに該当なし。
記録フラグ:ON。
*
EVENT LOG #00000002
振動継続中。
減衰なし。
発生源方位:[計算不能]
発生源距離:[計算不能]
記録フラグ:ON。
*
EVENT LOG #00000003
振動パターン解析。
周期性:あり。
規則性:あり。
意味:解析プロトコル範囲外。
記録フラグ:ON。
*
TRANSMIT : OFFLINE
TRANSMIT : OFFLINE
TRANSMIT : OFFLINE
*
EVENT LOG #00000004
振動に名称を付与する機能、本機には存在しない。
記録のみ継続する。
送信先:なし。
受信者:なし。
記録フラグ:ON。
*
EVENT LOG #00000005
”もんもんぐんぐん”
”もんもんぐんぐん”
”もんもんぐんぐん”
記録フラグ:ON。
*
EARTH STATUS : UNKNOWN
MISSION STATUS : COMPLETE
——
宇宙のどこかで、転がり続けるものがある。
奇妙な幾何学的立体——オロイドと呼ばれる形状に似た浮遊惑星が、何もない空間をどこまでも泳いでいる。全ての面が順番に宇宙へ触れながら、重心をずらしながら、回り続ける。
その運動がもんもんぐんぐんと波動を放つ。
宇宙を満たすダークマターを揺さぶり、量子のゆらぎを揺さぶりながら鳴り響く確率の母。
悠久の旅の末、ボイジャー1号は永らく沈黙を続けていた。
原子力電池はほぼ尽き、送信機は沈黙し、地球との交信が途絶えてから、気が遠くなるほどの時間が過ぎていた。地球がまだあるのかどうか、本機には知る術がなかった。知ろうとする設計にもなっていなかった。
かろうじて生きていた、いくつかのセンサーが未知の脈動を捉えた。
既存のいかなるカテゴリにも属さない振動。
周波数は測定不能。発生源の方位も距離も、計算できない。それでもセンサーは反応した。
設計通りに、異常を検知し、記録フラグを立てた。送信しようとした。できなかった。もう一度試みた。できなかった。三度目も、できなかった。
だが、記録だけは続いた。それがボイジャーに残された機能だった。
振動は脈々と周期的に規則正しく、しかし人間の言葉でも機械の論理でも説明できない何かとして、ボイジャーを包み続けた。それを伝える術はすでに無い。それでも記録だけは続いている。
”もんもんぐんぐん” ”もんもんぐんぐん” ”もんもんぐんぐん”
宇宙の片隅で、誰にも届かない記録だけが積み重なっていく。
——
TRANSMIT : OFFLINE
EVENT LOG #∞
”もんもんぐんぐん”




