もんもんぐんぐん
夕方のスーパーに入ると、ふっと肩の力が抜ける。
仕事が終わって、まだ家にも帰っていないのに、ここだけ少し早く“オフ”が始まっている。
その空気の中を歩きながら、私は少しだけもんもんしている。
——今日はちゃんと作るつもりだったのに。
——冷蔵庫の野菜、まだ残ってるんだけど。
——でも、もう包丁を握る気力がない。
そんな小さな後ろめたさが、胸の奥でゆっくり渦を巻く。
惣菜コーナーに近づくと、店員がカチッとハンドラベラーを鳴らす。
半額シールが貼られた瞬間、惣菜たちは新たな魅力を放ち始める。
さっきまで「ちょっと高いな」と思っていた唐揚げが、急に運命の相手みたいな顔をしてくるのだ。
ぐんぐんと勝手に手が伸びる。
理性より先に、身体が「これでいい」と判断してしまう。
もんもんしながら、ぐんぐん進む。
その矛盾が、なんだか可笑しい。
カゴに半額の唐揚げとポテトサラダを入れた瞬間、胸の重さが少しだけ軽くなる。
「まあ、今日はこれでいいか」
その妥協は敗北ではなく、むしろ小さな救済だ。
レジを通り、袋を提げて外に出てみると、日は落ちてすっかり暗くなっている。
少しだけひんやりした風を頬に感じながら帰宅する。
さっきまでのもんもんは、袋の中の惣菜と一緒に少し落ち着いていた。
家に帰って、レンジの前でぼんやり待っていると、もんもんはまた別の形で顔を出す。
——温めたら、皿に盛りつけようかな。
——味噌汁くらいなら作れたかもしれない。
——明日はちゃんとしよう。
そんな小さなもんもんは、立ちのぼる香りとともに、ぐんぐんと食欲に傾いていく。
いただきます。
ささやかな宴が終わると、今日もまた執筆という新たなもんもんが始まるのだ。




