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15/30

もんもんぐんぐん

 西暦二九八九年。


 人類はついに、あらゆるスポーツをやり尽くした。


 陸上は記録が頭打ち。

 野球はルール改正を百回以上繰り返した。

 サッカーもバスケットボールも、戦術が極まりすぎて観客には違いが分からない。

 人々は新しい興奮を求めた。

 

 そして生まれたのが――


 プロもんもんぐんぐんリーグ。

 通称PMG。

 世界最大のプロスポーツである。

 

 競技内容は至ってシンプル。

 選手は巨大なスタジアム中央の椅子に座る。

 そして、もんもん、ぐんぐんを競い合う。


 ルールは単純明快。だが、それだけに誤魔化しが効かず、奥深くもあった。


「さあ始まりました! 第七十五回ワールドもんもんぐんぐん選手権決勝!」


 OEDOスタジアムに実況の声が響きわたる。


 百万人収容のスタジアムは満員御礼。

 誰もが楽しめるように巨大ホロスクリーンが何面も用意されているが、電子双眼鏡を構えている観客も少なくない。中には望遠義眼手術を受けた者すらいるという話だ。

 

 スタジアム中央の椅子に腰掛け、対面しているのは二人の選手。


 日本代表、三連覇中の絶対王者、桜井モモ。ぱっと見は小柄な少女だが、毎回とてつもない力を発揮して勝利を納めている。

 もう一人はアメリカ代表、新星ダニエル・グラント。アメリカ人らしいマッチョな青年で、モモと目が合うと白い歯を見せた。


 カウントダウンが始まると、観客が一斉に息を呑む。騒がしかったドームに静寂が生まれ、緊張感が高まる。

 試合開始のブザーが鳴った。


 モモが目を閉じる。

 その瞬間、スタジアム上空にホログラム数値が表示された。


 もんもん値 128


 観客がどよめく。


「高い!」

「初手から攻めてるぞ!」


 モモの額に汗が浮かぶ。

 将来への不安。

 人生の選択。

 言えなかった言葉。

 あの日の失敗。

 無数の思考が渦を巻く。


 数値が上昇する。


 240……300……410……


「出たァァァァ!」


 実況席が絶叫する。


「十八歳のときの黒歴史投入です!」


 観客席が総立ちになった。


 対するダニエルも負けていない。

 もんもん値が急上昇する。


 450……480……520


「なんだこの選手!」

「新人とは思えない!」

「恋愛系だ!」


 解説者が断言した。


「これは失恋系の大型もんもんです!」


 スタジアムが揺れた。

 世界中で配信を見守っている数十億人もモニターの向こうで興奮状態だ。


 だがまだまだ、もんもんは競技の前半に過ぎない。

 五分経過。前半戦終了の電子音が鳴る。1分間のインターバルを挟んで後半戦がスタートする。


「さあ来ます!」

「ぐんぐんフェーズです!」


 巨大スクリーンの表示が変わった。

 ぐんぐん値 計測開始


 モモがゆっくり顔を上げ、真っ直ぐダニエルを見つめる。


 急速に数値が上がっていく。


 50……120……280……


「速い!」


 ぐんぐんとは何か。

 悩みを抱えながらも前へ進む意志。

 もんもんを推進力へ変換する能力。

 この競技で最も重要な数字だ。


 ダニエルも反撃する。


 300……350……420……


 後半戦、ダニエルが突き放す。

 

 観客席は熱狂していた。


「行けー!」

「そこで立ち直れー!」

「未来を見ろー!」


 残り三十秒。


 モモの数値が突然止まった。


 ぐんぐん値 640


 会場がざわつく。


「まずい!」

「伸びが止まった!」


 実況も焦る。


「王者、まさかの失速か!」

 

 モモが静かに瞳を閉じた。

 ダニエルが勝ち誇ったように、拳を天に突き上げる。

 

 王者陥落か! スタジアムは興奮の坩堝。

 

 そんな中、モモが小さく笑った。

 閉じていた瞳が再び開らかれる。


 スクリーンの数字が跳ね上がった。


 700……820……990……


「ウオオオオオオオァァァァァ!」


 百万人が一体となり唸り声を上げる。その絶叫は巨大なスタジアムを震わせた。


「出たあああああ! 伝説の自己受容コンボ!」


 解説者が立ち上がる。


「過去の失敗を失敗のまま受け入れたァァ!」


 ダニエルも歯を食いしばり必死の形相。額には血管が切れそうなほど浮き出ている。


 910……930……940……


 しかし届かない。


 試合終了のブザーが鳴り響く。


 モモが立ち上がり、ガッツポーズを決める。

 観客は総立ちだった。

 ホロザブトンの雨がスタジアムに降り注いだ。


 勝利者インタビューをするべく実況がマイクを握る。


「四連覇達成です! 今のお気持ちは!」


 モモは汗を拭きながら答えた。


「いっぱい悩みました」


 会場が静かになる。


「でも、悩みがなくなる日は来ません」


 誰も喋らない。


「だから、もんもんするんです」


 モモは笑った。


「それを本当に認めた時こそ、ぐんぐんできるんです」


 一拍遅れて歓声が上がった。

 スタジアムだけでなく、配信をみていたすべての人が、スタンディングオベーションを送っていた。


 その様子をタブレットで見ていた少年がいる。

 学校で失敗したばかりで落ち込んでいた。

 胸の中はもんもんでいっぱいだった。


 だが画面の向こうの王者は言った。


 悩んでいい。その代わり、少しずつ進めばいい。


 少年はタブレットの電源を落とし、机に向かった。

 宿題を開く。

 ほんの小さな一歩だった。

 けれど確かに。

 彼のぐんぐん値は少しだけ上がったのである。

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― 新着の感想 ―
ついに競技になった⁉️ (´⊙ω⊙`)! でも、数値だけで動きはない競技なのかな? なんとなく、DBの気を溜めているシーンが頭に思い浮かびましたよ。 (「`・ω・)「 ぐんぐんに変えてゆけ! (*…
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