崩壊する均衡(カオティック・スウィング)、あるいは聖者の行進を拒絶した青い残響
オクレールから連絡が来たのは、昨夜のことだった。
「ミス・ポッターのリサイタル。日程が決まりました。六週間後です」
六週間。
その数字が、僕の頭の中でずっと鳴り続けていた。
マルレの練習場に着くと、メグはいつものピアノの前にいた。だが今朝は、僕が配ったマルレのスコアには目もくれず、自分だけのフレーズを弾き続けていた。
「——メグ。今日のリハーサルは第三セクションから始める」
「知ってます。でも、今は弾かせてください」
それは、珍しい答えだった。
「弾かせてください」——彼女がそんな言い方をするのを、僕は聞いたことがなかった。いつも彼女は、弾くか、弾かないかのどちらかで、「許可」を求めることなど一度もなかった。
「何を弾いている」
「分からないです。でも、リサイタルで鳴らすべき音が、ここに来ようとしている気がして」
僕は、彼女の隣に腰を下ろした。
彼女の指は、決まったコードを繰り返しているのではなかった。毎回わずかに変えながら、何かを探している。まるで、暗闇の中で壁を手探りしているような音だった。
「——お前は、リサイタルが怖いのか」
長い沈黙。
「怖い、というのとは違います。でも……人前で一人で弾くのは、ショーンがいない時と同じことですよね。私の音を、ショーンなしで成立させないといけない」
その言葉が、心臓に刺さった。
「今まで、キミが私の音を受け取ってくれていたから、私は鳴らせていたんです。でも、リサイタルのステージには、キミはいない。私の音を、観客という見知らぬ人たちの前で鳴らさないといけない」
僕は、自分が何かを誤解していたことに気づいた。
彼女は、僕に依存していた。そして僕は、それを当然のものとして受け取っていた。
「——メグ。今の音を、もう一度弾け」
「え?」
「今手探りしていた音。あれが、お前のリサイタルの一音目になる」
「どうして分かるんですか」
「怖がっている音だからだ。怖くなければ、お前の音ではない」
彼女は少し考えてから、また鍵盤に指を置いた。
さっきより、少し深く。
シモンがそれを聴いて、譜面から目を上げた。
「……あれは、何の曲だ」
「まだ名前がない」と僕は答えた。「これから生まれる」
マルレの練習場に、昨日とは別の種類の静けさが満ちていた。それは、均衡が崩れる前の一瞬の静けさではなく、何かが正しい形に向かって動き始める時の静けさ




