終焉の設計図(ラスト・ブループリント)、あるいは瓦礫の玉座で聴く「慈雨」の如き残響
パリの冬。その静謐は、鋭利な剃刀のように僕の肺胞を切り裂き、無機質な暴力となって降り積もる。
ル・マルレ・ジャズ・オーケストラの常任ディレクター。その椅子は、栄光の座などではない。伝統という名の錆びついた鎖でがんじがらめにされた、処刑台の特等席だ。僕がこの数ヶ月間で行ってきたことは、音楽の創造ではない。それは「古い血」を抜き取り、「新しい毒」を注入する凄惨な外科手術に他ならなかった。
昨夜の公演は、確かに成功だった。
だが、朝のコーヒーの前に届いたオクレールからの電話が、その達成感を一瞬で吹き飛ばした。
「メグ・ポッターのソロ・リサイタルを、六週間後に組んだ。ブルーノート・ワークショップの名前で、パリとニューヨークの批評家を呼ぶ。彼女の音を世界に届ける準備が整った」
電話を切り、僕はデスクのスコアを見つめた。
隣室でローズの音がしている。いつも通りのメグだ。だが、今朝だけはその音が、別の意味を持って聴こえていた。
「……ショーン。聞こえてましたか? オクレールさんの電話」
ドアが開き、メグが顔を出した。彼女の青い瞳は、いつものように静かだった。
「……聞いていた」
「どう思いますか」
「お前の才能にとって、必要な場だ」
「そうじゃなくて」
彼女は部屋に入り、Fender Rhodesの前に座った。
「キミが、どう思うかを聞いています」
「……僕には関係ない。お前のリサイタルだ」
「嘘つき」
彼女が、鍵盤の上で指を静止させた。
「キミはずっと、あたしの音が自分のものだと思っていた。あたしも、そう思っていた。でも——ステージに立った時、あたしは気づいたんです。音は、誰のものでもない。ただ、その瞬間に生まれて、消えるだけ。……キミの設計図の中だけじゃ、鳴らしきれない音が、あたしにはある」
その言葉が、僕の胸に、静かに深く刺さった。
「……分かっている」
「怒っていいですよ」
「怒っていない。——ただ」
「ただ?」
「お前がいない場所で、僕の音がどうなるのか。それだけが、分からない」
メグは、しばらく黙っていた。
それから、ローズの鍵盤を、そっと一音だけ鳴らした。Fの音。それはボストンで僕たちが最初に合わせた音だった。
「——それを見つけるのが、キミの次の仕事ですよ、ショーン」
窓の外では、パリの冬の雨が、静かに雪へと変わり始めていた。




