↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
88/138

終焉の設計図(ラスト・ブループリント)、あるいは残響の中にのみ存在する「愛」という名の即興

パリ、ル・マルレの練習室。空気はボストンの凍土とは異なる、歴史という名の埃で重く淀んでいる。

目の前には、父マックス・ハミルトンがかつて書き残した、黄金のオーケストラ・スコアが置かれていた。それは音楽の「正解」を記述した、完璧な設計図だ。


「この通りに弾けば、世界はひれ伏す」

指揮者の傲慢な声が響く。だが、僕の心は冷え切っていた。


「ショーン、この設計図に、キミたちの音はない」

隣でメグが静かに言う。彼女はスコアに触れず、ただ鍵盤の上に指を遊ばせている。その隙間から漏れる不協和音こそが、今の僕たちの唯一のアイデンティティだ。


僕は決断した。この完璧な設計図を、即興インプロヴィゼーションという名の火で焼き尽くすことに。


「設計図なんて、古い紙屑だ。僕たちが作るのは、その瞬間にしか存在しない『愛』という名の即興だ」


僕はギターを抱え、父の楽譜を譜面台から弾き飛ばした。

メグが打鍵する。今までとは違う。パリの冷たい権威を粉砕するような、凶暴で、それでいてあまりに純粋な旋律。


僕が弾き出すのは、過去の父の影を撃ち抜くような、鋭利なブルーノート。

楽譜の指示など無視だ。僕たちは今、この場所で、過去という名の亡霊を葬り去るための葬送曲を奏でている。


音の渦の中で、僕は悟る。

父が残した設計図は、音楽を閉じ込めるための檻だった。だが、今の僕たちの即興は、その檻を溶かし、愛という名の自由を宇宙へ解放する。


演奏が終わったとき、静寂が訪れた。

床に散らばる譜面は、もうただの紙切れに過ぎない。

メグが僕を見つめる。その瞳には、父でも、過去の栄光でもない、僕という音楽家そのものが映っていた。


「これが僕たちの新しい設計図だ」

「うん。最高に美しく、最高に壊れた、愛のスコア」


パリの夜空に向かって、僕たちは笑う。

完璧な設計図の終焉は、僕たちだけの新しい旅の始まりを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。