錆びついた銀河の葬列、あるいは欠陥品たちが夜明けに鳴らす「究極の不協和音」
パリの石畳は、僕の誇りを冷徹に削り取るために敷き詰められている。
ル・マルレ・ジャズ・オーケストラ。
再建の第一歩として僕が敢行した「偵察」の結果は、控えめに言っても絶望の二文字で塗り潰されていた。
テオと共にパリの路地裏を駆けずり回り、僕が目にしたのは、かつての名門を支えたプレイヤーたちの成れの果てだ。
ある者は場末のナイトクラブで、酔客の騒音に紛れて凡庸なスタンダードを垂れ流し。
またある者は、音楽への情熱などとうに腐らせ、生活のために事務的な「音出し」を繰り返す。
「……フン。やれやれ。歴史の重みに耐えきれず、自ら瓦礫の下に潜り込んだ連中というわけか」
僕は、コートの襟を立てて毒づいた。
テオは隣で、今にも泣き出しそうな顔をして震えている。
だが、僕に同情する余裕なんてない。
僕の耳は、彼らの鳴らす死んだ音に、耐え難いほどの拒絶反応を示していた。
そして――。
「キミ。……そんなに顔をしかめると、パリの夜空に穴が開いちゃいますよ」
隣室の住人であり、僕の人生を狂わせた「野生の傑作」、メグ・ポッター。
彼女は、ボストンから持ってきた薄汚れた『スペース・ごろ太』のぬいぐるみを抱き、無邪気に、あるいはこの世のすべての理を嘲笑うかのような静謐な笑みを浮かべていた。
「メグ、キミは……」
「わかってます。キミの頭の中、今、設計図がズタズタになってる音。私には聞こえます」
彼女は、僕の胸元に指を突き立てた。
青白い肌。吸い込まれるような、それでいて底知れない冷たさを湛えた青い瞳。
コンセルヴァトワールでの初レッスン。
巨匠シャルル・オクレールという高い壁にぶち当たり、彼女もまた「野生」のままではいられない現実に直面しているはずだった。
なのに、この少女はなぜ、こうも泰然としていられるのか。
「……黙っていろ。僕がこの泥船をどう操るか、黙って見ていればいい」
僕は彼女を振り払い、再びマルレの練習場へと足を向けた。
逃げ出す連中を追うのはもうやめだ。
残った連中を、叩き直す。
あるいは、完膚なきまでに破壊してやる。
翌朝。
練習場に漂う空気は、昨日以上に険悪だった。
譜面台を叩き、僕を睨みつける古参の団員たち。
その中心にいるのは、リード・アルトのトーマス・シモンだ。
「ボストンの。昨日も言ったが、君の持ってきたこのスコア……この不自然なテンションは何だ? フランスの伝統的なスウィングを無視する気か?」
「伝統、ですか」
僕は、自分のフルアコを手に取り、冷笑を浮かべた。
「シモンさん。あなたが守っているのは伝統じゃない。ただの『退化』だ。あなたが吹いているのは音楽ではなく、過去の栄光という名のカサブタですよ」
「何だと……!」
一触即発の緊張感。
だが、僕の計算は、さらにその外側から破壊された。
「……うるさい。ノイズが、多すぎます」
練習場の隅。
誰も存在を気に留めていなかったはずの場所に、彼女はいた。
メグが、備え付けの古いアップライトピアノの前に座っている。
「キミ。……この人たちの音、錆びた銀河みたいにギシギシ言ってます。解体しても、いいですか?」
「……好きにしろ」
僕が許可を出すと同時に、メグの指が鍵盤を打った。
それは、ジャズではなかった。
あるいは、既存のあらゆる音楽の定義を超えた「何か」だった。
彼女が奏で始めたのは、僕が以前彼女に教えた――あるいは彼女が僕の部屋から盗み聞きした――最新のモーダル・ジャズのモチーフ。
だが、それはローズの歪んだ音色を彷彿とさせる、暴力的なまでの再構築だった。
伝統的なスウィングを真っ向から否定する、変拍子の連打。
教科書通りの和声を嘲笑う、不協和音のプリズム。
「な……何だ、この演奏は!」
シモンが、楽器を構えることさえ忘れて絶句する。
メグは笑っていた。
玖渚友のような、残酷なまでの純粋さを湛えた笑み。
彼女の指が動くたびに、練習場を満たしていた停滞した空気が、文字通り「物理的に」引き裂かれていく。
それは、マルレという老いた怪物の心臓を、素手で抉り出すような行為だった。
「……見ていろ、老いぼれたち。これが、キミたちが恐れている『今』だ」
僕はフルアコの弦を弾き、彼女の無秩序なプレイスタイルに、僕の論理という名の楔を打ち込んだ。
メグの解体と、僕の構築。
二つの相反する力が激突し、練習場に火花が散る。
団員たちの顔から、余裕が消えた。
蔑みは、困惑へ。困惑は、戦慄へ。
そして、音楽家としての「本能」が、彼らの指先を震わせ始めた。
「……チッ。勝手にやらせろ。だが、このリズムに乗れないなら、今すぐ楽器を置いて去れ!」
シモンが、毒づきながらサックスを口に咥えた。
ノエミが、怒りに顔を真っ赤にしながらトランペットを構えた。
錆びついた銀河が、再び動き出す。
それは美しい旋律ではなかった。
泥濘の中で足掻き、互いを罵り合い、血を流しながら鳴らす「地獄のセッション」だ。
だが――。
その不細工な音の塊の中に、僕は確かに、かつての『マルレ』が持っていたはずの、野心的なブルーノートの予感を聞いた。
「……フン。やれやれ。欠陥品同士、少しはマシなノイズを奏でられるようになったじゃないか」
僕は、汗にまみれた髪を掻き上げ、メグを見た。
彼女は演奏を止め、青い瞳を僕に向けて、無邪気に首を傾げた。
「キミ。……繋がりましたね。設計図が、少しだけ書き換わりました」
窓の外では、パリの冬の太陽が、石畳を白く照らし始めていた。
夜明けは近い。
だが、僕たちの「再建」という名の地獄は、まだ序章に過ぎない。
僕はテオに、震える手で持っていたスケジュール帳を閉じるよう合図した。
「全メンバーに告げろ、テオ。明日から、睡眠時間は半分に削ってもらう。……僕の設計図に追いつけない奴は、一人残らず置いていく」
パリの冷気が、今は心地よい。
僕は、自分の胸の奥で、かつてボストンで鳴らしたのと同じ――いや、それ以上に尖ったスウィングが、静かに鼓動を刻むのを感じていた。




