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終焉のファンファーレ、あるいは僕たちが昨日を撃ち抜いて「青」という名の永遠へ至るための葬送

ローガン国際空港の出発ゲートに、ミルヒーの背中が消えた。


ハンス・アクセル・フォン・シュタイン。世界的なインプレサリオであり、僕の音楽的な心臓を無理やり動かしたあの老いた怪物。彼はターミナルを振り返りもせず、ただ手をひらひらと振っただけで、巨大なスーツケースを引きずりながら人波に溶けていった。


僕は、ガラス越しに、それを見送った。


感慨はなかった、とは言えない。ただ、涙は出なかった。出すべきではないと思ったのではなく、体の中の水分が全部、あの男との日々に使い果たされたような気がした。


帰路、タクシーの窓から流れるボストンの街並みは、昨日と同じ灰色をしていた。しかし、今日の灰色は、昨日と違う重さをしている。それを言葉にすることが、僕にはまだできなかった。


アパートに戻ると、隣室からローズの音が漏れていた。


「……メグ。入るぞ」


ドアは鍵がかかっていなかった。


彼女は、ゴミの山の中央で、Fender Rhodesと向き合っていた。振り返りもせず、ただ淡々と鍵盤を叩き続けている。


「……あは。ショーン。……また、そうやって計算された『死』を抱えてる」


「……ミルヒーが、行った」


「知ってる。……お見送り、できた?」


「背中しか見えなかった。振り返りもしなかった」


「それが、あのエロジジイらしいね」


メグが初めて手を止め、僕を見た。


「……ショーン。泣かなかったの?」


「泣かなかった」


「なんで?」


「……涙が出なかった」


「それは、泣いてるってことだよ」


彼女は何でもないように言って、再び鍵盤に向かった。今度は奏でたのは、僕が見覚えのある旋律だった。ミルヒーがよく口ずさんでいた、どこかのジャズ・スタンダードの断片。


「……お前、あの男のことが好きだったのか」


「好きだよ。エロジジイだけど、音楽は本物だったから」


その一言が、胃の奥に熱く落ちた。


僕は、部屋の隅に立てかけてあったGibsonのフルアコを手に取った。


完璧主義。それが僕の武器だった。彼女の奔放なノイズに、僕の精緻なテンション・コードをぶつける。一分の隙もない、数学的なスウィング感。僕たちは、言葉を介さずに、この狭いゴミ溜めの中で激突した。


「……ショーン。……今、キミの『喪失』が、……青く跳ねたよ」


メグが笑う。その笑みは、世界を解体するような静謐さと、残酷なまでの純粋さを宿していた。


僕は、理解した。ミルヒーが、なぜ最後まで僕にパリ行きの航空券を押し付けようとしたのか。僕に足りなかったのは、アンサンブルを美しく整える技術ではない。楽譜という檻を破り捨て、ノイズさえも音楽に変える、あの「狂気」への没入だったのだ。


セッションの熱が、部屋の冷気を焼き尽くしていく。


「……やれやれ。欠陥品同士、仲良くゴミ溜めで共鳴しようっていうのか」


僕は自嘲気味に呟き、最後のコードを激しく掻き鳴らした。


セッションが終わった後、部屋には再び、凍てつくような静寂が戻ってきた。だが、その静寂は、数分前までの絶望的なそれとは明らかに異なっていた。


「……ショーン」


「何だ」


「ミルヒーは行ったけど、キミにはまだ、行ける場所がある」


「……知っている」


「行こうよ。パリ。私と一緒に」


僕は、ゴミ箱の傍らに転がっていた航空券の控えを、一瞬だけ見つめた。そして、それを拾い上げた。


「……これからは、僕のリードで動く。あのジジイの設計図ではなく、僕が書くスコアで世界を震わせる。——いいな、メグ」


「……あは。……仰せの通りに。……アタシの、……最高に冷酷なマスター」


彼女は、僕の影を正確に踏み、無邪気に笑った。


ボストンの冬は、まだ終わらない。だが、終わりが近いことを、僕たちは知っていた。


黎明の光が、雪に閉ざされた街を青く染めていく。それは、僕たちが「昨日」という名の残像を葬り去り、新しいリズムを刻み始めるための、最高にヒップな弔砲だった。

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