終焉と胎動のポリリズム、あるいは僕たちが「昨日」という名の残像を撃ち抜くためのテンポ
あれは、ボストンを発つ前夜のことだった。
S・ビッグバンドが解散し、僕たちのパリ行きが決まった翌日の夜——レッド・ランタンが、珍しく満席になった。
ライアンが「送別会」と言い張って全員を召集したためだ。僕は「送別会などという感傷的なものに参加するつもりはない」と言ったが、結局、ビルが厨房から出てきて「ショーンの分も作ったぞ」と皿を出した瞬間に負けた。
「……じゃあ、乾杯といこうぜ!」
ライアンがグラスを上げた。マスミがアフロを揺らして続く。ローズが静かに微笑んだ。ジェシカが「行かないで」と泣きそうな顔をした。
「大げさだ。パリは国外だが、音楽でいつでも繋がれる」
「でも、お前はもう、俺たちのバンドのリーダーじゃなくなる」
ライアンが、珍しく真剣な目で言った。
それは正しかった。
S・ビッグバンドは解散した。僕はこの街を去る。彼らはそれぞれの場所で、それぞれの音楽を続ける。
「……お前たちに言っておくことがある」
僕はグラスを置いた。
「ライアン。お前のエフェクターへの執着は最初は騒音だったが、今は『声』になっている。ニューヨークへ行くなら、そのまま持っていけ。ただし、サックスそのものの音を磨くことをやめるな」
ライアンが黙って頷いた。
「マスミ。お前の『人間メトロノーム』は、技術ではなく愛情だ。誰かの音を聴きすぎてタイミングがずれるのは欠点ではない。それがお前の強さだと、今は分かる」
マスミが目に涙を浮かべた。
「ローズ。お前は楽器より大きい。そのまま大きくなれ」
ローズが笑った。
「ジェシカ。泣くな。お前は三ヶ月前と比べると、別人だ」
ジェシカがますます泣いた。
全員を見渡した後、僕は立ち上がった。
「……お前たちの音は、この街に残る。それで十分だ」
「ショーン」
ライアンが言った。
「また一緒にやろうな。どこかで」
「……気が向いたらな」
それが、僕にできる精一杯の「はい」だった。
メグが、隅の席から立ち上がり、何も言わずに僕のコートのポケットに塩タフィーを四粒放り込んだ。四人分だ。
「……アタシの分は?」
「お前は僕と一緒にパリへ行くだろう」
「あは。正解」
ボストンの冬は、まだ続く。だが、翌日の朝、僕たちはバスに乗り込む。その事実が、今夜のこの部屋をいつもより少しだけ、温かくしていた。




