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終焉のファンファーレ、あるいは僕たちが「昨日」という名の残像を撃ち抜くためのテンポ

本番の前夜というのは、人間の本質を露わにする。


S・ビッグバンド最後の公演まで、あと二十時間を切っていた。


レッド・ランタンの倉庫を借りた最終リハーサル。照明はビルが引いた仮設の蛍光灯だけだ。それでも、空間は熱を持っていた。今夜ここで音を出した者だけが、明日のステージに立つ資格を持つ。そういう緊張感が、薄いコンクリートの壁を満たしていた。


「……ライアン。最終確認だ。第三セクションの転調後、お前がリードを取る。そこだけ楽譜通りにやれ」


「楽譜通り? 珍しいな、ショーンが」


「あそこは骨格だ。骨格だけ揃えれば、残りは君たちが肉を付ける」


ライアンが頷いた。彼の目が、最初に会った時とは別人のように落ち着いている。


マスミが、スネアのチューニングを丁寧に確認していた。いつもは大雑把な彼女が、今夜は一ミリ単位で調整している。


「……ショーン様。明日、私、初めてソロがありますよね」


「八小節だ。楽譜にある」


「怖いです」


「分かっている」


「怖いですって言ったんですけど」


「分かっていると言った。怖いのは当然だ。だが——昨日の練習で、君が崩れかけたところで持ち直したあの一打。あれが君の本物の音だ。明日もあれを出せ」


マスミが目を丸くした。そして静かに、スティックを握り直した。


ローズは壁際でウッドベースに額を当て、目を閉じていた。楽器と話しているのだろう。僕には分からない会話だが、邪魔する気にはなれなかった。


「……ショーン」


隣でメグが、Rhodesピアノの蓋をそっと閉めた。


「明日。キミ、泣かないでね」


「——誰が泣くか」


「泣く。絶対。アタシには聴こえる、キミの泣き声の周波数」


「うるさい。寝ろ」


「眠れない。明日が楽しみで」


それは——僕も同じだった。


終わりが近いのに、怖くない。それが不思議だった。始まりは恐怖だらけだったのに、終わりになるほど、何かが研ぎ澄まされていく。明日、S・ビッグバンドは最後の音を鳴らす。その後僕たちはそれぞれの道に散る。バークリーの廊下でライアンと口論した日も、ハリセンに楽譜を投げつけられた夜も、メグが初めてローズで僕の論理を焼き尽くした瞬間も——全部が、明日の一音に向かって収束してきた。


「……全員、今夜はよく眠れ。明日——昨日までの自分を全員撃ち抜く」


それだけ言って、僕は蛍光灯のスイッチを切った。


ボストンの冬の夜が、窓の外に広がっていた。その暗さの中に、明日の光が、確かに含まれていた。

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