黎明のハイウェイ、あるいは僕たちが「自由」という名の地獄へ堕ちるためのスウィング
ニューヨークの夜明けは、ボストンとは違う色をしていた。
ポート・オーソリティ・バスターミナルを出て、まだ眠りの中にある42丁目を歩きながら、僕は自分の足が地面をしっかりと踏んでいることを確かめた。バスの中で数時間眠り、目が覚めたらニューヨークだった。十年間、辿り着けなかった場所に、今僕は立っている。
感慨などない、と思っていた。 だが、吐き出す息が白く凝って消えていく様を眺めながら、僕の胸の奥に、何か熱いものが滲んでいることを否定できなかった。
「ショーン」
隣で、メグが靴の底でアスファルトを叩いた。
「ここ、音が違う」
「当然だ。街の規模が違う」
「違う。そういう話じゃなくて。……ここには、もっといろんな人の音が混ざってる。ボストンより、うるさい。でも、うるさい方が、あたしは好き」
彼女は、目を閉じて路面の振動を感じるように立ち止まった。早朝のマンハッタン。清掃車が遠くで唸り、地下鉄の排気が格子から吹き上がってくる。
「乗り継ぎまで、数時間ある。街を少し歩ける」
「ほんと!?」
「ただし、迷子になるな。時間通りに空港に来い。余計なものを買うな。騒ぐな」
「はーい」
「返事が軽い」
「はい、ショーン様」
「その呼び方もやめろ」
メグが駆け出した。僕は溜息をついて、その後を追う。
今の僕には、かつての恐怖の面影がまだ残っている。空港へ向かうという行為は、十年前の惨劇以来、僕の神経に焼き付いた拒絶反応と一体だったからだ。しかし今日、初めて、その恐怖と向き合うための時間がここにある。ニューヨークの夜明けの空の下で、シャルル・ド・ゴール行きのボーディングパスを胸ポケットに入れたまま、僕は歩いている。
「……ショーン」
メグが、珍しく静かな声で言った。
「飛べない間は、私が翼の代わりになるから」
「……意味が分からない」
「音楽の話だよ。キミが行けない場所の音、私が聴いてきてあげる。それで、全部キミに渡す」
「……お前、そんなことを考えていたのか」
「ずっと前から」
摩天楼の狭間から、空が見えた。まだ暗い、しかし少しずつ青みを帯び始めた空。数時間後、あそこへ飛び立つ。
「……覚えておく」
「うん。覚えといて」




