表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
55/78

黎明のハイウェイ、あるいは僕たちが「自由」という名の地獄へ堕ちるためのスウィング

ニューヨークの夜明けは、ボストンとは違う色をしていた。


ポート・オーソリティ・バスターミナルを出て、まだ眠りの中にある42丁目を歩きながら、僕は自分の足が地面をしっかりと踏んでいることを確かめた。バスの中で数時間眠り、目が覚めたらニューヨークだった。十年間、辿り着けなかった場所に、今僕は立っている。


感慨などない、と思っていた。 だが、吐き出す息が白く凝って消えていく様を眺めながら、僕の胸の奥に、何か熱いものが滲んでいることを否定できなかった。


「ショーン」


隣で、メグが靴の底でアスファルトを叩いた。


「ここ、音が違う」


「当然だ。街の規模が違う」


「違う。そういう話じゃなくて。……ここには、もっといろんな人の音が混ざってる。ボストンより、うるさい。でも、うるさい方が、あたしは好き」


彼女は、目を閉じて路面の振動を感じるように立ち止まった。早朝のマンハッタン。清掃車が遠くで唸り、地下鉄の排気が格子から吹き上がってくる。


「乗り継ぎまで、数時間ある。街を少し歩ける」


「ほんと!?」


「ただし、迷子になるな。時間通りに空港に来い。余計なものを買うな。騒ぐな」


「はーい」


「返事が軽い」


「はい、ショーン様」


「その呼び方もやめろ」


メグが駆け出した。僕は溜息をついて、その後を追う。


今の僕には、かつての恐怖の面影がまだ残っている。空港へ向かうという行為は、十年前の惨劇以来、僕の神経に焼き付いた拒絶反応と一体だったからだ。しかし今日、初めて、その恐怖と向き合うための時間がここにある。ニューヨークの夜明けの空の下で、シャルル・ド・ゴール行きのボーディングパスを胸ポケットに入れたまま、僕は歩いている。


「……ショーン」


メグが、珍しく静かな声で言った。


「飛べない間は、私が翼の代わりになるから」


「……意味が分からない」


「音楽の話だよ。キミが行けない場所の音、私が聴いてきてあげる。それで、全部キミに渡す」


「……お前、そんなことを考えていたのか」


「ずっと前から」


摩天楼の狭間から、空が見えた。まだ暗い、しかし少しずつ青みを帯び始めた空。数時間後、あそこへ飛び立つ。


「……覚えておく」


「うん。覚えといて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ