凍てつく青の狂詩曲、あるいは「座標」を喪失した天才たちのジャム・セッション
中庭に楽器を持ち出した。
宣言通りに。
大学事務局の窓から、職員が三人、こちらを凝視している。僕は無視した。練習室を失ったのなら、空の下で鳴らせばいい。ボストンの冬がマイナス八度だろうと、音楽が凍りつくわけではない。
「……ショーン、本当にやるのか」
ライアンが、テナーサックスを胸に抱えながら言った。息が白い。耳が赤い。だがその目に、怯えはなかった。
「言ったはずだ」
「おう。まあ——俺はいいけどな」
彼はマウスピースを口に当て、軽く息を流した。その音が、冬の空気を鋭く切る。
後ろではマスミが、コートの上からドラムスティックを二本握りしめていた。電子パッドを持ち込んでいる。場所がなければ、何でも叩く。それがマスミの流儀だ。
「ショーン様……外は寒いですけど、あたくしのリズムは、どんな気温でも狂いませんわ」
「分かっている。ベースのローズは?」
「ここです」
ローズが、ウッドベースを抱えて小走りで現れた。弓が震えている。寒さか、緊張か。おそらく両方だ。
「……弦が冷えて固くなる。弓圧を少し上げろ」
「は、はい」
全員が揃った。
僕は、ギブソンのアンプの代わりに、メグから借りてきた小型のパワードスピーカーに接続した。出力は小さい。しかし、これで十分だ。
「最初の曲は何でもいい。ただし——スコア通りに弾くな」
ライアンが眉を上げた。
「スコア通りに弾くなって、それ、お前が一番うるさく言ってたことじゃないか」
「昨日まではな」
「……変わったな、ショーン」
「変わっていない。正確になっただけだ」
事務局の窓が開いた。職員が何か言おうとしている。僕はその方向を向き、一音だけ鳴らした。F♯7(♯9)。歪んだ、しかし反論を許さない音。職員は口を閉じた。
「——始めろ」
ライアンが吹いた。マスミが叩いた。ローズが弦を押した。
そして、練習室の隅からやってきたメグが、抱えてきたローズピアノの鍵盤カバーを外した。彼女は楽器を据え置く場所もないのに、膝の上にそれを置き、素手で叩き始めた。
電気も通っていない。音は出ない。だが彼女の指は、確かなリズムを刻んでいた。
「……ショーン。繋がってる。全員」
彼女の声だけが、確かに聴こえた。
事務局の窓が、再び閉じた。
通りかかった学生が足を止め始めた。一人、二人、十人。
音が、ボストンの冬の空気の中に、白い結晶となって広がっていく。
誰も止めに来なかった。それが、僕たちの宣戦布告だった。




