氷点下の咆哮、あるいはゴミ溜めの聖母に捧げる「無許可」の再起動
窓の外では、ボストンの冷酷な夜がすべてを凍りつかせている。
僕たちが身を潜めるこの練習室は、大学の廃棄物置き場という名目で隔離された、社会の忘れ物たちの「聖域」だ。
「ショーン、見て」
メグが、配電盤の蓋を乱暴にこじ開けた。彼女の手元には、修理を放棄された古い電子楽器の基盤が握られている。
「……何をしようとしているんだ」
僕の問いに、彼女は振り返りもせず、剥き出しの配線を指先で弄り始める。
「再起動するの。この街の論理じゃなくて、私たちが鳴らすべき音楽のためのシステムを」
それは、バークリーの厳格なカリキュラムでは決して許されない行為だ。だが、彼女の指先が触れるたび、部屋の隅に鎮座するアンプが、生き物のように低く唸り声を上げる。それは機械の唸りではなく、呼吸だった。
僕はギターのネックを握りしめ、覚悟を決める。
僕がバークリーを追放されたのは、父の作った「神の筆致」という名の檻を、自ら打ち壊したからだ。であれば、ここでメグと共にシステムをハッキングし、音楽を再起動することに、何の迷いがあろうか。
「メグ、電圧を上げる。この場所を、僕たちの座標に塗り替えるために」
僕がコードを弾く。
理論上はあり得ないテンション・ノートが、空間に亀裂を入れる。その不協和音を合図に、メグが基盤を接続した。
瞬間、部屋全体が青い光に包まれる。
「咆哮せよ!」
僕たちの音は、ボストンの凍てつく夜空を突き抜けた。
それは誰に許可された音楽でもない。社会の片隅で、無許可で立ち上げた僕たちの革命。
聖域となったこの練習室で、機械たちは悲鳴のような歓喜を上げ、僕たちの鼓動と同期していく。
「始まったね、ショーン」
メグが不敵に笑う。
その笑顔を見て、確信した。
どんなに寒くても、どんなに世界が僕たちを排除しようとも、この音がある限り、僕たちは決して凍りつくことはない。
これは再起動ではない。僕たちが、僕たちのルールで生きるための、真の産声だ。




