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宣戦布告のポリリズム、あるいはゴミ溜めの聖母が捧げる「再起動」の祝祭

翌朝のボストンは、夜の間に降り積もった純白の雪に覆われていた。

刺すような寒気が肌を焼き、呼吸をするたびに肺が凍りつきそうになる。だが、僕の血管を巡る血液は、前夜の残響を孕んで異常なほどに沸騰していた。


大学の事務局ビル前、吹き抜けになった中央中庭。

そこは通常、エリート学生たちが小綺麗なコートに身を包み、退屈な講義の合間に優雅な議論を交わすための、調律された空間だった。


「……おい、ショーン。本当にここでやるんだな? 事務のクソ野郎ども、窓からこっちを見てやがるぞ」


ライアンが、かじかんだ手でテナーサックスを握りしめ、不敵な笑みを浮かべながら事務局のガラス窓を顎でしゃくった。

彼の背後には、マスミ、ローズ、そして機材を載せた手押し車を押してきたS・ビッグバンドの面々が揃っている。誰もが寒さに身を震わせながらも、その瞳には明確な反逆の炎が灯っていた。


「見せてやればいい。僕たちが温室育ちの操り人形ではないことを。場所を奪われたからと、黙って引き下がる負け犬ではないことをね」


僕は愛用のギブソンをアンプに接続し、ボリュームのツマミを躊躇なくフルテン(最大)まで回した。

シールドを差し込んだ瞬間の、ブー、という暴力的なハウリング・ノイズが、中庭の冷徹な静寂を切り裂く。

行き交う学生たちが、何事かと足を止め、僕たちを怪訝な目で見つめ始めた。


「……あは。ショーン。世界が、びっくりしてる。みんなの脳細胞が、寒さでパニックを起こしそう」


ゴミの山からそのまま抜け出してきたような、不釣り合いな薄着のメグ・ポッターが、手押し車の上に無理やり載せたポータブルな鍵盤の前に座り、無邪気に笑った。彼女の青い瞳は、この極寒の空よりも深く、そして危険な輝きを放っている。


「ポッター。凍えて指が動かないなんて言い訳はナシだ。君のノイズで、この退屈な庭を完全に解体しろ」


「んー。あたしの指は、もう接続されてるから大丈夫。ほら」


彼女が鍵盤に触れた瞬間、歪んだテンション・コードが寒空に炸裂した。

それを合図に、僕はギターの弦を一気に掻き鳴らす。


$F \sharp 7 (\sharp 9)$


ジミ・ヘンドリックスが愛し、伝統的なジャズが異端とした不協和音。それがボストンの冷気を物理的な圧力として震わせ、事務局ビルのガラスをカタカタと鳴らした。


「おい、お前たち! そこで何をやっている! 許可のない演奏は禁止だ!」


事務局の重い扉が開き、厚手のスーツを着た職員たちが血相を変えて飛び出してきた。

だが、その制止の声は、ライアンのテナーサックスが放った、空気を切り裂くような咆哮によって完全に掻き消された。


テオ・ベルナールが、ポータブルのカホンを力強く叩き、変則的なポリリズムの雨を降らせる。本業はバンドのマネジメントを担当しているが、フランスで叩き上げのパーカッション奏者でもある彼が鳴らす打音は、ライアンのサックスにも負けない凄みがあった。


マスミのベースが、凍った地面を底から揺らすように重低音を刻む。

誰も楽譜など見ていない。僕たちの脳内にあるのは、完璧な理論ではなく、目の前の空間を音の暴力で塗り替えるという純粋な衝動だけだった。


「指示は一つだけだ!」


僕はアンプの歪みをさらに深めながら、メンバーたちに叫んだ。


「昨日までの、誰かに与えられた『S・ビッグバンド』を殺せ! 僕たちがやるのは音楽の再現じゃない、世界の再起動だ!」


職員たちが僕たちを止めようと詰め寄るが、中庭を取り囲んだ何百人もの学生たちの熱気に圧され、近づくことができない。最初は冷やかしの目を向けていた学生たちが、メグの奏でる圧倒的な不協和音と、僕たちの狂気的なスウィングに圧巻され、いつの間にか身体を揺らし始めていた。


伝統という名の檻、ボストンという座標、僕を縛るすべての過去の呪縛が、音の嵐の中で消し飛んでいく。

メグのローズが、僕のギターと完璧に『接続』し、いかなる教科書にも載っていない美しい地獄を構築していく。


寒空の下、僕たちの吐き出す白い息が混ざり合い、熱い水蒸気となって中庭を満たしていく。

これは宣戦布告だ。

僕たちから、僕たちの居場所を奪おうとしたすべての理不尽に対する、最低で最高のインプロヴィゼーション。


最後の一音が、中庭の壁に反響し、ボストンの青空へ向かって突き抜けていった。

一瞬の静寂。

次の瞬間、中庭を埋め尽くした学生たちから、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。


職員たちは、もはや言葉を失い、呆然と僕たちを見つめることしかできなかった。


「……あは。ショーン。接続、大成功。みんな、壊れちゃったね」


メグが、鍵盤の上に突っ伏しながら、満足そうに瞳を細めた。

僕はギターのボリュームを絞り、冷たくなった指先をポケットに突っ込んだ。そこには、いつの間にか彼女が入れたケープコッドの塩タフィーが転がっている。


「……ああ。これで誰も、僕たちの音を無視することはできない」


僕は、事務局の窓を見上げ、不敵に笑った。

許可など最初からいらない。僕たちの音楽は、今、この場所から完全に再起動したのだ。

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