8話
ーー16:30
少し日差しが弱まったころ...
「これお前か...?」
ケニーは怒っているのと哀しみの表情が混ざりあっている。
手には一枚の写真がある。
ボスの妻のアダルト写真だ。
指は写真の中にいる男を指している。
「...なんでだ」
「悪いが俺にはどうもお前にしか見えないんだが...お前か?」
少し空白の時間ができる。
男は言う。
「違うな。それよりも理由が当てずっぽうで俺を疑っているようにしか見え...」
「創立期のお前とそっくりだが...」
またもや空白の時間ができる。
冷たい風が体にしみる。
「勘違いだ。別に俺ではない」
「...そうか」
ケニーは後ろを振り向いた。
「悪かった...カート...」
ケニーの後ろにはカートが立っている。
「いや、別に大丈夫だ。この状況で疲れたんだろ?」
「いいや。ただの勘だよ...」
ケニーはカートに言った。
カートはケニーの肩を叩いた。
「俺らは昔からの仲だ。簡単に裏切るような奴ではないってお互い分かってる...だろ?」
「うん...」
「というかわざわざトイレで聞くことではないな。ハハ!」
「今がチャンスだと思い付いてきたんだ」
ケニーは言いながらドアを開ける。
ギシギシと鉄の音が鳴り響く。
「チャンス?笑えるな」
カートは苦笑いをしながら部屋へ入っていった。
「んー!んーんー!」
「もう始まってたのか」
ケニーは困った顔で部屋を見つめる。
部屋の真ん中にはイスが置いてある。
イスには口をテープでぐるぐる巻きにされた男が座らされている。
生き残りの1人だ。
「早く写真を渡せ!ケニー!」
アドナスはケニーに向かって叫ぶ。
アドナスの横には様々な刃物が入った缶がおいてある。
「待てって...みんなは?」
「外にいる。早く!」
ケニーはアドナスに向かって走っていく。
そんな様子をカートは遠くから見ていた。
「カート何してる?早くケニーとどっか行け!」
「あ...ああ」
カートはサッとケニーとともに外へ出て行った。
「んー!んー!」
男は必死に喋ろうとしている。
目を大きく開けて。
「うるさい野郎だ」
アドナスは呆れた顔で男を見つめる。
「んー!んー。んーー!」
アドナスは眉をひそめながら缶に手を突っ込む。
ガチャガチャと鉄の音が聞こえる。
手はぐるぐると動く。
「さて...」
アドナスは缶から手を出した。
手にはペンチがある。
「この写真のクソ野郎はこの組織の者か?それともベッチか?ベッチだったらうなずけ。俺らの仲間だったら首を横に振れ。」
男は写真を睨みつける。
頭を一ミリも動かさずに。
「あ...?どっちだ?」
男は動かないままだ。
アドナスは深くため息をついた。
「はぁ...面倒だな」
そういってペンチを男へ近づけた...
「ボスの言ってたことは正解だったな”指示では5人組なのに現場は4人組”。おまけに写真の男に既視感。ベッチ?俺らの仲間か?どっちだ?」
ペンチは男の指に触れている。
だが男は微動だにしない。
「そうか」
アドナスは手を強く握った。
バキ...!
指から猛烈な音が響いた。
「んー!!!!うーーーー!!」
男は叫ぶ。
だがテープでその叫びは消された。
「もう一回聞くぞ。どっちだ?!」
「まさかの展開だな」
ローレンスが言った。
「ボスに電話してみたら、こんな事までに発展した」
ウイスタンは残念そうに下を向いている。
「高確率でこの組織に裏切り者がいる」
ケニーは2人に続いて言った。
みんな壁に寄りかかっている。
各々さみしそうな表情をしている。
「裏切り者は殺す。絶対だ。あとは男が吐き出してくれたらな」
ビリーは貧乏ゆすりをしながら言った。
「んー!」
「4本目」
アドナスは力強く握る。
握るたびにゴキッという鈍い音が聞こえてくる。
「んーーー!」
「これでも言わないか」
アドナスは手を顔の前に持っていく。
「変えよう」
手を思いっきり横に動かした。
男の口に巻いていたテープが一気にとれる。
「はぁ!はぁ!ううう!」
男は苦しそうな表情をする。
手は拘束されてるから抵抗は不可能だ。
「言うもんかね...!」
男はアドナスを睨みつけて言い放った。
「お前らみたいなヘタレ組織なんかに...言ってたまるか...!」
目は憎しみそのものだった。
強い意志を感じる。
「あ。そう」
アドナスは男の口に手を当てた。
手は顔に触れ、口を半開きにされる。
もう片方の手には血まみれのペンチを。
ペンチは口にどんどん近づいていく。
「後悔するけどね」
ガチ!
ペンチが口の中に入っていく。
「う...おんあおおい...が...ああ!」
アドナスは目を大きくして手を動かす。
「あ...!あああああ!」
アドナスの手に力が入る。
「があああ!う!ううううううう!」
手の震えが止まらない。
「ぎいああああ!ぎゃあああ!」
ブチ...!
何かがおかしくなった音が部屋中に響いた。
「うおおおおおおおお!」
男は痛みに悶絶する。
アドナスはペンチについたものをそこらへんに払う。
「そろそろ言わないと...」
男は下を向きながら嗚咽する。
口からはポタポタと血が流れる。
男は震えながらゆっくりとアドナスの方を向く。
「あ...ああ...し...知らないね...!」
男は無理やり笑顔を作った。
アドナスの表情は暗く沈んでいった。
「とりあえず、俺はボスに直々に会いに行く」
ウイスタンはみんなに向かって言った。
顔は落ち込んでいるような、暗いような顔をしていた。
「ぁぁぁぁ...!ぅ!」
室内からはずっと叫び声が聞こえる。
この世のものとは思えない叫びだ。
「派手にやってるな...まぁわかった」
「ありがとうビリー」
ローレンスが少し間をおいてから言い始めた。
「俺らは...?どうする?」
「話し合ってみようぜ。念のため皆銃を用意しといて」
ケニーが言った。
「言えるか?」
「う...うう...」
アドナスは見下すような眼で男を見つめる。
椅子には血が点々とついている。
床は灰色から赤に変わっている。
「知らないって言ったら...知らないんだよ馬鹿が...!」
男は大きい声で言った。
声は室内に響き渡る。
「...」
アドナスは無言で奥の部屋へと駆け足で歩いて行った。
足音がものすごい速さで聞こえる。
「知らない!本当だ!知らないんだ!」
男はいすに座りながら犬のように吠える。
ガタガタン...
奥の部屋からは物音がする。
「知らないんだよぁ...うう...!」
男は涙を流しながら必死に訴える。
再度、足音が聞こえてきた。
足音はだんだん大きくなって、こちらに近づいてくる。
「お...おい...」
男は恐怖で震えあがる。
アドナスが再度姿を現した。
男は恐怖で叫んだ。
「嫌だ!やめろ!こっちくるな!おい!やだああ!!」
男はアドナスを見ながら絶叫する。
この世の終わりかのような顔をして。
「やめろ!やめてくれ!知らないんだ!来るなあ!」
アドナスは無慈悲にも男に近づく。
目の前に来たところで手を思いっきり引っ張った。
ブウウウウン...
エンジンがかかる。
アドナスの手にあるものはものすごい速さで刃を回転させる。
「やだあああああ!」
男は叫び続ける。
アドナスの手にあるのがチェンソーだからだ。
「男は誰だ!この組織の者か?!ベッチか?!おい!言え!」
アドナスは叫んだ。
チェンソーを男の顔の真ん前に突き出して。
チェンソーの音がずっと鳴り続ける。
「知らないんだってぇ!本当だ!やめてくれ!」
男は泣きわめきながら抵抗する。
「あ...写真を撮ったのは死んだ!」
「マンション襲撃時にか?!」
「そうだ!もう死んだ!」
エンジンの音が響く。
「...」
アドナスはゆっくりと手を引いてエンジンを止めた。
チェンソーを地面に置き、落胆した顔で男を見つめた。
「さぁな。わかんねえな。」
「わかんねぇなぁ!」
男はそう言うと鼻で笑った。
見つめた後、刃物が入った缶を持ち、後ろを向いて歩き始めた。
「...俺を殺したらどうなるかなぁ...?情報源は消えるぞ!」
男は血まみれのままアドナスを見つめる。
アドナスは少し歩いたら缶を再度地面においた。
「...?」
男は不思議な目で見る。
アドナスも同時にピタリと止まった。
「くそが...」
小さい声でぶつぶつと言っている。
男は眉をひそめて顔を前に出した。
「あああああああ!」
ガン!
アドナスは叫んだ。
そして男の方を振り向いて思いっきり缶を蹴り飛ばした。
刃物は吸い取られるように男の方へと進んでいった。
その瞬間、椅子は血まみれになり、男の体には無数の刃物が刺さった。
「はぁ...はぁ...」
「おい!」
ドアが強く開く。
ドアの向こうには心配そうな顔のメンバーがいた。
「アドナス、どうしたんだ?!凄い叫びだったぞ...お前の声...」
ウイスタンが心配そうに声をかける。
「う...うぇ...」
ジェイが目を大きくして男の方を見ている。
変わり果てた姿に動揺しているようだ。
「殺したのか...?!」
ローレンスはアドナスを睨みつけて言った。
「イラついたもんでね...悪かったよ!」
アドナスは非常にムカついている。
「殺すなよ馬鹿が!貴重な情報源だったんだぞ...!」
「情報源?!こいつは笑いながら”知らない”しか言わなかったぞ?!どんなに痛みつけてもどうせ言わなかったさ!」
アドナスは反論して怒鳴り散らす。
カートはジェイと同様に眉をひそめて男の方を見ている。
ウイスタンはつかさず言った。
「惨いな...何も言わなかったのか?」
「そうだ。何も言わなかった」
アドナスは拳をぎゅっと握る。
「ちくしょうが!こいつは絶対知っていた!なのに言わなかった!ちくしょうちくしょう!」
アドナスはそういうとせっせと早歩きをし、トイレへ駆け込んだ。
ドアを強く閉めて...
「笑ってたなら確定だな」
カートが死体を見つめながら言った。
みんな一斉にカートの方へ振り向く。
「組織内に裏切り者がいる」
カートがその言葉を口にした瞬間、その場の空気は凍るように冷え切った。
皆黙り込み、ずっとカートの方を向いている。
「...な...なぁみんな...」
ジェイが苦笑いをしながら震わせた声でしゃべり始めた。
「その...ちょっとさ...映画でも見て...な?ハハ...」
ジェイは眉をひそめて苦笑いから沈んだ顔へと変わっていった。
皆、暗くて沈んでいる。
倉庫は静かで、誰もいないんじゃないかと勘違いするほど静かだった。




