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6話

ーー9:15



「おえ...」

 家に着いた時にはもうクタクタだった。

 もの凄い量の息を吐く。


「とりあえず...持っていくもの...」


 ベッチは周りを見回した。

 車はなし

 誰かが入った痕跡もなし。


「よし」





 ガラガラ...

 ガラスとガラスがぶつかり合う音が鳴り響く

「シンナー...これは...ナイロングループのもの...これも...必要だ」

 ベッチは必要な荷物をまとめていた。


「くそ...」


 部屋には様々なものがある。

 はっぱ。

 粉。

 カプセル。

 キノコ。


 すべて取引用だ。


「はっぱ...lv100も...あと金だ...」


 ベッチは急ぎ足で金庫へ向かう。


「番号...確か...」

 ぶつぶつ呟きながら金庫室の前へ立った。


「...903584」

 

 手が震えてまともに回せない。


「くそ!901…」


 体全身が震え始める。


「ちくしょう...」






 ピンポーン...

 ベッチはハッとして玄関の方を振り向く。

「あいつらだ...!」


 ベッチは恐怖で固まってしまった。




「...出ねえな」

 アドナスはイライラしながらチャイムを連打する。


「当たり前だろ。出るかよ普通」

 ローレンスはアドナスを突っつく。



「それに、こいつ結構プロの殺し屋と聞いたが...」

 ドア越しに3人の会話が聞こえてくる。


「5歳で弟と母親と医者を殺したと。」

「どうやってだローレンス?」

 ケニーは不思議そうに聞く。


「野球バット。彼は野球が好きだったらしい」

 ローレンスは退屈そうに言った。


「クズ野郎じゃねえか。殺してなんぼだな」

「まぁいい。開けるぞ。どけアドナス」

「俺が行く。ケニー」


 アドナスは扉の前に立つ。


 バキ!

 アドナスは扉を思いっきり蹴った。

 気の破片があちらこちらに飛び散る。



 家の中は静かになっていた。

 不気味なほどシーンとしている。


「...」

 アドナスはゆっくりと足を入れる。


 家の中は散乱している。

 ガラスの破片だらけで、裸足で入ると絶対けがをする。


「構えてろ」

 アドナスは後ろに聞こえるくらいの声でつぶやく。


 続いてケニー、ローレンスと恐る恐る家の中へ入りこむ。


 家の中にいると、朝なのに夜に感じる。


「俺はこっちに行く。ケニーはキッチンの方へ。ローレンスはリビング。確定で家の中にいる」

「なんでだアドナス」

「靴がまだある。それに窓は開いていないし車も外にある。」


 アドナスはゆっくりと洗面所の方へと歩き始めた。

 ケニーはキッチン。

 ローレンスはリビングへ。


「...」

 ケニーはゆっくりと慎重にキッチンへ入っていった。


 キッチンはごく普通のキッチンだ。

 清潔で、汚れが一つもない。


「...?」

 ケニーは目を大きく開けて遠くを見る。

 冷蔵庫に貼ってある複数の写真に気が付いた。


「写真...」

 ケニーは強く銃を握りしめる。


 そして反対の手をゆっくり伸ばす。

 手が震えてまともに取れない。


 ケニーはやっとの思いで写真をとった。

「...なんだこれ...?」


 写真には裸の女性ともう一人の男がベットの上で一緒にいるのが映っていた。

 女性は挑発的なポーズをとっている。


 ケニーは眉をひそめた。

「こいつ...」


 ケニーの目線の方には男がいた。

「...」



 リビング...

 何とも言えない部屋だ。

 そこらじゅうにガラスの破片が落ちている。


「わお」

 ローレンスは惨状を見て声が出た。


 棚は薬物関連のモノでいっぱいだ。

 天井には血のような赤いシミがついている。


「ハッピーな部屋だ」

 ローレンスは苦笑いをしながら言った。




 アドナスは慎重に隅々まで見回していた。

 常に銃を構えて。

 

 玄関の奥には長い廊下が見える。

「ッチ」


 アドナスは舌打ちをして向かっていく。

 胸の高鳴りが収まらない。


「!!」

 アドナスはサッと廊下に飛び出した。

 幸いにも廊下には誰もいないし、影も一つもない。


 アドナスはゆっくりと洗面所まで歩いていく。

「いるんだったら出て来いよ...!」


 大きい声で言った。


 バキ!

 アドナスはドアを蹴り上げた。

「...」


 アドナスは恐怖で震える。

「おい...おい…!」


 洗面所には誰もいなかった。

 鏡は清潔で上品な部屋だ。


 アドナスは息をはぁはぁと鳴らす。

「...!!」


 その瞬間、アドナスは驚いた顔で震えあがった。

「狂ってやがる...!」



 洗面所の棚には、見たことのある女の顔が飾ってあった。

 顔は生け花のように飾られ、染みが顔にちょこちょこついている。


「ボスの...妻...」

 アドナスは口に手を当てた。


「う...うぇ」

 今にも吐きそうだ。

 アドナスは急いで洗面所を出て行った。




「クズだな...!」

 アドナスは吐き捨てるように言ってその場を去って行った。


 そしてそのまま階段へ向かった。



「痛...!」

 ローレンスは足を上げて言った。

 足にはガラスが突き刺さっていた。


「ちくしょういてぇ...」

 恐る恐るガラスに手を伸ばす。


 手には冷たい物の感覚が少しだけできた。

「ぐ!」


 思いっきり手をひっこめた。


 赤い血が透明なガラスの上へ落ちていく。

「いてえ...」



 ローレンスは片足でリビングを出て行く。

「向こうは...」


 リビングの奥に、もう一つ部屋が見える。

 目を大きくして見つめる。

「書籍?」


 ローレンスは足を引きづりながらも進んでいく。

「いたいなやっぱ」


 小言を挟みながらどんどん進んでいく。

 足からは血がポタポタと少しずつ垂れている。


「...わぁ...」

 ローレンスは思わず声を上げた。

 本棚には1000を超える本がずらりと並んでいる。

 四方八方に本棚があり、幻想世界にいるような感覚に落ちる。

「すげぇ...」


 本は様々なジャンルに分かれてる。

 ローレンスは周りを見回した。

「江戸川乱歩...シャーロックホームズ...H・Gウェルズ...」

「”そして誰もいなくなった””宇宙戦争””宝島”」


 ローレンスは本をパラパラと読んでいく。

「”モロー博士の島””人の人体について””セックスと妊娠”」


 ローレンスは不思議そうな顔をした。

「”女と男””生と死””人間標本”」


 ローレンスは眉を顰める。

 異常な本が並んでいるからだ。


「”ロボトミー手術と人体””人の関節部位の秘密””暴力とアルゴリズム”」

「”殺しとは””頭の応急処置””ギャングの世界””薬物と裏社会”」


 ローレンスは恐怖で怯え始めた。


「”最悪な死に方””怪物と言われた男””人の殺し方”」


「”蝶の交尾””子宮の傷つけ方””性器について”」


「”後ろだよ”」

 突然後ろから声が聞こえた。

 ローレンスは瞬時に後ろを振り向く。



「死ねぇ!」

 ベッチだ。

 ベッチは斧を持って、精一杯振りかざした。


「!」

 ドガン!

 斧は本棚に思いっきり当たった。

 紙切れと木くずがあちらこちらに吹き飛ぶ。


「ベッチ...!」

「おら!」

 ドガン!

 さっきより激しく振りかざす。


「くっ...」

 ローレンスはさっと避け、銃を取り出した。

 銃口はまっすぐベッチへ向いている。


 バン!

 白い煙が立ち上る。


「うわぁ!」

 ベッチは顔をそむけた。

 銃弾は斧にあたり、鉄の音が鳴り響いた。


 ベッチは駆け出した。

「まて!」


 ローレンスは少し遅れて追いかける。

 ベッチは廊下をどんどん走っていく。


 家中にガタガタと走る音が響き渡る。

「まてぇえええ!」

 

 ベッチは窓へダイブした。




 ガシャン!

 ガラスが雨のように窓から飛び散る。

 そこらじゅうにはガラスの破片が落ち、それと同時に少量の血も落ちる。


「ローレンス!」

 アドナスが音を聞いて駆けつけてきた。


「ベッチか?!」

「奴は外だ!追いかける!」

「あ...ちょ!」

 ローレンスは走って窓を通っていく。


「ケニー!」

 アドナスは精一杯の声で言った。






「はぁ...はぁ...!」

 ローレンスはベッチを追いかけていく。

 ここの街道は人で混雑している。

 


「どけ...!」

 ベッチは死に物狂いで人を押しまくって逃げる。

 顔は狂気そのものだった。


 周囲の人々は不審そうにガヤガヤとベッチとローレンスを見つめる。


「どけ!」

「いてぇえ!」


 押された人々はベッチを睨む。


「う...」

 ローレンスの足から血が垂れてくる。

 さっきのケガだ。走って傷口が開いたのだろう。

 ベッチはどんどん遠ざかっていく。


「待てこの...!」


 バン!ババン!

 ローレンスは残党めがけて銃を撃った。


 銃声は人々の悲鳴でかき消されてしまう。


 

「待て!おい!おい!おおい!」

 ローレンスは鬼の形相で足を引きずりながらベッチを追いかける。



「はぁ...ちくしょうストーカ野郎が...!」

 ベッチは銃を握って走りながら後ろを向いた。

 バン!

 バンバン!


 街道に銃声が響く。


「!!」

 いくつも人にぶつかりそうになったが、華麗にかわして進んでいく。

 

 その時、足の痛みがローレンスの全身を走った。

「ぐ!」


 ローレンスはその場で蹲ってしまった。


「チッ...!」

 ローレンスは舌打ちをした。


「待てこの野郎ぉ!」

 ローレンスは叫んだ。

 ベッチは視界から完全に消え去った。





「どけこのバカ女!」

「キャー!!」

「どけぇえ!」

「うわあ!」

 ベッチはどんどん進んでいく。


「くそ...今日はことごとく運が悪い!」

 ベッチは呟く。


「どけ!ちくしょう運が悪い!」

 どんどん進んでいく。

 いつのまにか信号まで来ていた。


「運が悪い運が悪い!」

 信号の色は赤だ。

 ベッチは進んでいく。


「運が悪い!」

 迷わずまっすぐ走っていく。




「運が...」

 ドン!


 激しくぶつかった音が鳴った。

 ベッチは軽く吹き飛ばされた。

 ベッチの横には車が一台止まっていた。


「う...ああ...!」

 ベッチは激しい痛みに悶絶している。

 車から男が降りてくる。


「てめぇなにしてんだ!」

「う...」

「俺が悪い判定されるんだぞ?!おい!」

「うぅ...」

 ベッチは地面に這いつくばっているままだ。

 後ろの人々はザワザワとしている。


「ちくしょう...」

「どいてください。どいてくださいー!」

 周囲の中から声がする。


「どいてください!警察です!どいてください!」

 ベッチはハッとした。


「ぐ...!」

 ベッチは痛みにこらえてゆっくり立ち上がった。



(金はたっぷりやるよ。だから協力してくれ)



「...金...!」

「あんた...警察沙汰だとよ...!」

 男はベッチを睨みつけて説教じみた声で言い放つ。


「おい!聞いてんのか?!警察がきたんだ...」


 バン!

 ベッチは迷わず男めがけて銃弾を発射した。

 男はボンネットに激しく倒れるようによっかかった。


 周囲からは悲鳴が聞こえる。

 ベッチはためらいもせず車に乗り込む。


「おい!止まれ君!車から降りろ!」

 警察が到着した。

 警察は4人組で固まっている。


「おい!撃つぞ!止まれ!」

 警察は銃を車に向け、怒鳴り散らした。

 車は勢いよくエンジンがかかる。


「貴様!」

 ベッチは銃を警察へ向けた。


 バン! 

 バン!

 何発も撃ち込む。


「撃て!」

 警察も銃を車に向けて発砲した。


 鬼のような銃声が響き渡り、白い煙があたりいっぱいに広がる。

 金属の音もキンキンと聞こえる。


「ぎゃああ!」

 煙の中から悲鳴が聞こえる。


「くそ!くそ!」

 エンジンがかかり始めた。


「待てえええ!」

 警察は車を全速力で追いかける。

 車が動き出した。


 ベッチは身を伏せながら運転を始めた。


「待てええええ!」

 警察が追いかけてくるのがミラーでわかる。

 次第に声は遠ざかっていき、警察は見えなくなった。


 ...見えなくなると同時に女性の悲鳴とガシャン!という音が鳴り響いた。


「...いてぇなくそ...」

 ベッチは肩に手を押さえ、眉をひそめながらつぶやいた。

 車はどこまでも走り続けた...


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