11話
「おい!」
ドアが強く開く。
「...」
ウイスタンはあちらこちらを睨めながら部屋を見回す。
部屋は誰一人としていない。
水か地面に落ちる音だけが響き渡る。
誰も気配を感じない不気味な空間は暗く沈んでいた。
「...!」
ウイスタンは固まってしまった。
目の前にある衝撃的な光景に驚きを隠せなかった。
「え」
言葉を失い、口を開くことしかできない。
「嘘だろ...」
壁には大量の血とビリーの体...と思わしき物がぶら下がっている。
ロープは地面に落とされ、肉片が巻き付いている。
ポタポタとゆっくり落ちる血は、内臓のもの。
壁に染みついているのは手が潰れた後。
顔は...どれか分からない。
「ビリー...」
金属の冷たさが服を突き抜け、骨に達する感覚
自分でも”刺された”というのが伝わってくる。
腹からは血が出て、目の前が真っ暗になる。
「ごが...!」
ウイスタンはその場で倒れてしまった。
後ろにいたのはカートだ。
カートは倒れたウイスタンへ馬乗りをする。
ナイフを持ち、手をあげる。
そして、思いっきり手を振り下ろした。
ドス!
鈍い音が響き渡る。
気づいたころにはカートのズボンは血まみれになっていた。
カートはウイスタンから降り、ナイフをポイとウイスタンの近くへ放り投げる。
「はぁ...はぁ...」
重々しい空気が漂う。
空気は濁り、じめじめとした感覚に吐き気がする。
「もう終わりかよ...」
ベッチは悲しそうに唾を吐き捨てる。
手は血まみれ、体中ビリーの返り血でいっぱいだ。
「アドナス...?だっけかカート」
「そうだ」
「あいつが持ってたチェンソーは切れ味いいな!貰っていいか?」
「別に」
「こんなんじゃぁあと掃除が大変じゃないか...」
カートは困った顔でベッチに言う。
ベッチはにやけて、機嫌がいいように座り込んだ。
「なぁカート」
カートは目を細くしてベッチの方へふり返る。
「なんだ?」
「なんで裏切ったんだ?」
カートはしばらく黙り込んだ。
次に口を開けたのは一分くらいたってからだった。
「地位が欲しかったから」
「地位?」
ベッチは予想外の答えに少し戸惑う。
「なんで地位なんだ?」
「地位というか...名称。僕はギャングスターになりたかったんだ」
ベッチは更に戸惑う。
「ギャングスター?!ただの一員の事じゃあないのか...?」
「ああ...僕が作った造語だが、僕のいうギャングスターはギャングで一番の事なんだ」
カートは続けて喋る。
「ただの欲求なんだがな...ボス...いやカナフははっきり言ってゴミだ。故人にゴミといっても仕方がないがな。そういや殺してきたのか?ベッチ」
「あぁ...そうだが」
ベッチは迷いなく答える。
ーー18:00
暗いネオンの街を疾走しているのはボスだ。
ボスは、横にあるコンビニエンスストアに目を付け、車を止める。
「ふぅ...」
口から白い煙を流しながら車に寄りかかる。
「...」
暗闇に立つ煙は、どこか不穏だ。
白色の煙が、後ろにいる男にヒットする。
男の手にはビニール袋があった。
「はぁ...」
「う!んーんぁぁぁあ!」
ボスは暴れて車を思いっきり蹴る。
透明のビニール袋が、ボスの頭を包み込む。
「うー!んー!うううう!んぁあ!」
何度も何度も車を蹴る。
だが、車が走る音で叫びとボンネットの音はかき消される。
「は!は!んーーー!」
カートは続ける。
「有り難い。それでゴミの下で働くより、自分がトップになってやった方が良かったからだ。どんなに1人の従業員が優秀でも上司がゴミだと、その従業員は落ちるに落ちていく。優秀でも人ってものはその場に応じて才能が減ったりするんだ」
自信満々に、まるで英雄のように語り始めた。
「だから手順を考え、まず妻を寝取った。なに、洗脳するのは薬とセックスの快感で十分だ。ボスは健康的だったから、健康から外れて多めに気持ちのいいことをさせた。すると妻はどうなったと思う...まるでアホみたいに快感を求めてくる!勿論バレなきゃ意味がない。だから大胆にしたんだ。ただ予想外の事が起きた。オーバードーズだ。薬をやりすぎた。だから少しだけ計画がずれてしまった。アホなボスはそれにノコノコと釣られるから、ショックな時に殺せるから結果は変わらないんだけどね。」
「人はショックな時普段の時よりも混乱するから」
「仲間は何で殺した...?」
ベッチは聞く。
「奴らもアホだからだ。組織に要らない人材として、これから僕のチームになるとき不要だから、始末したんだ。というかこの僕の考えを聞いたら奴らは絶対俺を止めに来る&殺しに来る。だから計画の邪魔として殺した。あと僕は運が良かった。ウイスタンを支えて行動してきたからボスからの信頼も高くなってた。」
「この件は好都合なタイミングで、依頼が来たんだ。最高だね」
カートは言い終わると悔しそうな表情で言った。
「だが...今お金がないんだ...ボスの所から貰って来ればよかったと今更...まぁ。今後考えればいいことだけどね」
「なるほど」
ベッチはすべてを理解したかのようにうなずく。
それと同時に顔が青くなっていく。
「え?」
カートはベッチに心配そうに声をかける。
「どうした?」
「”金をあげる。だから協力しろ”って...」
「あー」
刃が、肉を貫いた。
「忘れてた」




