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ミチシルベの魔法  作者: 咲桜炸朔
第三章 星を描く追憶
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海と陸 ②

 彼女の目には確信に満ちた決意があった。剣を握り、前のめりに沈み込み、口から吐く息に意識を深める。


 戦闘体制になったロザンナに対抗するように、海の魔術師は背中から武器に改造された鎌を取り出した。鋭い刃がつけられたそれは敵を狩ることに特化していた。


「どうせその必勝とやらは、ギートギルスが温帯生息だから氷漬けにすれば勝てるとでも思ってるんでしょ」


 己の策を見抜かれた瞬間、彼女の表情から余裕が消えた。テヘペロと言わんばかりにロザンナは舌を出す。


「あらら、バレてた」


 ロザンナは走り出す。

 海の魔術師が大きく鎌を振りかぶり、ロザンナの頭を貫く勢いで振り下ろす。


「ーーッ!!」


 ロザンナは咄嗟に頭上に剣を掲げ、攻撃を防いだ。

 甲高い金属音が響き、衝突の瞬間に鋭い火花が弾け飛んだ。凄まじい衝撃が剣を伝って腕へと駆け抜け、手首が痺れる。押し潰そうとするような鎌の重みに、足元の地面がわずかに沈んだ。


 それでも剣を離さない。

 刃と刃が噛み合ったまま、互いの武器が軋む音だけが耳元で鳴り続けていた。


 鎌の一撃は、確かに剣で防いだ。

 だが、それだけで終わりではなかった。剣と激しく噛み合った湾曲した刃が、そのまま滑るように軌道を変える。


「ぐッ!!」


 ほぼ死角から迫った鎌の先端が、ロザンナの眼前へと突き込まれ、鋭い痛みが彼女の左の眼球を抉った。

 普通の剣ならば深手を負わずに受け止めきれていたはずだったが、獲物をしつこく狙う蛇のように湾曲した刃は、思いもよらない攻撃となりロザンナを襲った。


「ほら、どうしたの? 必勝があるんでしょ? 使いなよ」


 海の魔術師は鍔迫り合いとなった鎌を、さらに力任せに押し込んでくる。 ギリギリと刃が軋み、拮抗していた剣が少しずつ押し下げられていく。

 その度にロザンナの左目を少しずつ少しずつ深く突き刺さっていく。彼女が痛みに耐えきれず声をもらす。

 その瞬間、海の魔術師はギートギルスたちに命令を下した。


「ギートギルス!! 後ろの聖女に噛みつきなさい!!」


「マズイ!! アルシアさん逃げて!!」


 ロザンナは目を抉る痛みに耐えながら、敵の懐へ踏み込み、至近距離から氷の魔力を解き放った。瞬間、二人の間で凍てつく冷気が爆ぜ、無数の氷塊が魔術師を弾き飛ばした。魔術師が突き刺した鎌は、ロザンナの左目を抉った致命傷を残した。


 しかし、そんなこと気にする瞬間もなく、即座に振り返ったロザンナはアルシアに攻撃を加えようとするギートギルスを氷漬けにしようと手を伸ばした。彼女の手に氷が宿った瞬間、地面を這うように死角から迫った一匹のギートギルスが、突如として身を翻す。鋭い歯が並ぶ顎が大きく開き、彼女の手へと勢いよく食らいつく。突き抜けるような激痛、目を抉られた痛みも重なり、喉が裂けるほどの悲鳴が迸った。


「ああああ!!!!」


 鋭い牙が食い込んだ腕の肉が血に染まり、骨が噛み砕かれてしまいそうな力で噛まれる。血の滲む傷口を押さえることもできず、彼女は歯を食いしばった。

 痛みに震える腕を振り上げ、自分に噛みついたギートギルスに剣を突き立てる。

 それでも牙は離れない。

 激痛に顔を歪めながら、彼女は何度も、何度も剣を振り下ろした。


 ギートギルスの牙が傷口を引き裂くように抜け、彼女の腕が解放される。

 その腕は肉が噛みちぎられ、骨が剥き出しの状態となり、指を動かそうとするだけで激痛が走り、もう使い物にならない。


「アルシアさん、逃げて……」


 その声も虚しく、アルシアは既にギートギルスに噛みつかれていた。

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