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ミチシルベの魔法  作者: 咲桜炸朔
第三章 星を描く追憶
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海底-2m

 警戒はより一層高まる。

 エラフィールは鞘から刀を抜き、自分の間合いに入ってきた魚たちを、逃すことなく切り続けている。


「キリがない」


 幾多の刃を振っても現れ続ける魚たちに、エラフィールは呆れたように息を吐く。

 そんな時、ロザンナが弾んだ声で興奮が抑えきれないという様子で、エラフィールの肩をパシパシと叩く。


「ねぇ見て見てエラフィール!! ふわふわしたかわいいのが泳いでる!!」


 刀を振るエラフィールとは反対に、ロザンナは目をきらきらと輝かせながら、空気中を泳ぐクラゲを指差す。風に煽られながら傘を大きく開き、ゆっくりと閉じながら前に進む。


 ロザンナはまるで博物館に来た子どものように、クラゲたちの側に近づいていった。が、エラフィールがそれをどうにか止めようとする。


「おい待てロザンナ!! そいつらに触れようとするな!!」


 しかしエラフィールの制止の声も聞かず、ロザンナはグラフたちが集まる場所まで駆け寄る。


「大丈夫だよエラフィール、この子たちキレイでかわいいわ。それに見て、このふよふよした部分、私の胸みたい」


 ロザンナがクラゲに触ろうと手を伸ばした時、彼女の手首にまとわりつくように、クラゲの口腕と触手がベッタリと貼り付く。


「イッタイッ!!」


 透明な悪意が肌をなぞったかと思うと、灼けた鉄線を押し当てられたような痛みが弾けた。あまりの激痛に彼女は腕を大きく振り払いながら、地面に転がり込む。


「ほら、だから言ったでしょ、無闇に触ろうとするなって」


 エラフィールは呆れを隠そうとせず、ロザンナが転がってる場所まで歩み寄った。

 見ると、ロザンナの左手はクラゲの毒による赤いミミズ腫れにより皮膚が腫れ上がっている。


「もう私は怒った。ふわふわして私をこんなにも痛めつけるだなんて、絶対に許さない!!」


 ロザンナは立ち上がりながら剣を握りしめ、クラゲたちを目で殺すように睨みつける。


「私の痛みを思い知れ!!」


 剣を振り回し、漂うクラゲたちをバッサバッサと切り払っていく。怒りに任せて、何度も何度も剣を振り続ける。

 ズタズタに切られたクラゲたちの死骸が地面に溜まっていく。最後の一匹を切ると、ロザンナはくるっと回るように、エラフィールの方へ向き直る。


「エラフィール、腕痛いから治してくれない?」


「よくそんな状態で剣を振ったね」


 エラフィールがロザンナの手に触れる。

 彼女の腕に腫れ上がっていたミミズ腫れも、神経を直接攻撃してくるような激しい痛みも一瞬にして全て治した。

 ロザンナは感心するように自分の腕を見つめる。


「ありがとう、エラフィール」


 一仕事終えたエラフィールはタバコで息を整える。


「まぁ、一応負傷は治ったけど、数分間は魔法使えないから気をつけてね」


「え?」


「あれ?」


 エラフィールは目を丸くし、当然知っているものだと思っていた事実を今さら告げられたかのように首を傾げた。


「言ってないっけ? 私の魔法で治すことはできても、そのあと数分間は魔法使えなくなるから気をつけてね」


 気になったロザンナは右手を前に出し、手のひらに意識を向けた。いつも通り魔力を右手にこめるも、まるで自分の腕ではないかのように、何一つ反応がない。


「ホントだ!! 魔法使えないじゃん!!」


「だから、そうだって言ってるじゃん」


「どうするの!? もし今敵が来たら私何もできないじゃん!!」


 ロザンナは不安に駆られたまま声を上げた。落ち着きなくエラフィールに詰め寄る様は、焦りを隠しきれていない。


「大丈夫だよ、何かあっても私がいるから」


 対照的に、エラフィールは距離を置きながら、落ち着いた口調で諭した。

 ロザンナは納得し切れないような表情でエラフィールを小突く。


「別に私魔法なくても戦えるもん……ワブッ」


 二人の上からバケツをひっくり返したような大量の赤い液体が降り注がれた。エラフィールは間一髪で頭から被ることを防いだが、ロザンナはもろに赤い液体を被ってしまった。


「急に何!? この赤いやつとても臭いわ!! それになんだか固まってるし、もしかして血……?」


 エラフィールは自分たちに血をぶっかけた奴を目で追い、服にかかってしまった血をハンカチで拭った。


「ええ、間違いないわ、これは血よ。おかげでタバコの火も消えてしまった」


「そんなのまた吸い直せばいいじゃん。ていうか、私たち血をかけられたってこと……? それ何かマズイんじゃない?」


 ロザンナの予感通り、二人を取り囲むように魚影が森の中を動き始める。その瞬間から、先ほどまで自由に泳ぎ回っていた小さい魚たちは姿を消した。


「おっきな魚が私たちの周りにたくさんいるわ」


 血、魚影、海の捕食者、それらの要素がエラフィールに勘をもたらした。


「ロザンナしゃがめ!!」


 大きな影が木の葉を切り裂いた。猛スピードで攻撃してきたサメは獲物を逃すまいと猛然と突進し、ずらりと並んだ牙をむき出しにロザンナへ食らいつこうと迫る。


 サメがロザンナを食らいつこうと口を大きく開いた瞬間、エラフィールは刀で全身を真っ二つに切る。


「早く術者を追わないと……」


 今度はサメ同士が獲物を奪い合うかのように三方向から彼女目掛けて襲ってくる。エラフィールはすかさず二匹を切り殺したが、最後の一匹に刃は届かず、ロザンナの腕はサメに噛みつかれる。


「ロザンナ!!」


 まるで誰かに操作されているような動きのサメはロザンナに噛みついた後、彼女をどこか遠くに連れ去ってしまうようにその場から逃げ出した。


「このッ!! 離しなさい!!」


 魔法が使えないロザンナはサメの歯が食い込む痛さに耐えながら、ペチンペチンと叩き続ける。彼女の腕深く、さらに歯が食い込む。


「うグッァ!!」


 ロザンナの目の下に涙がたまる。

 もう腕の一本でもくれてしまおうかと諦めかけた時、突如サメの動きが止まる。

 まるでサメだけが時間を止められたように、ピタリと動かなくなり静止した。


「え? エラフィール?」


 そして、それとほぼ同時、エラフィールではない別の女性の声が聞こえた。


「レミン!!」

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