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ミチシルベの魔法  作者: 咲桜炸朔
第三章 星を描く追憶
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鬨の声は突然に

 一夜明け、気持ち良く目覚めた二人は朝食の準備を始めた。準備といっても、全てエラフィールの魔法で作り出すため、ロザンナはハンモックの上で、ぼけっと空を見上げている。


「ほらロザンナ、朝ごはんだよ」


「ん、ありがとう。今日はなに?」


 エラフィールはロザンナに拳よりも大きい程度のおにぎりと紅茶を渡した。パリパリの海苔が全体を覆い、お米は薄い湯気が立つほど熱い。彼女が渡したおにぎりはそれ一つだけで、ロザンナは何か言いたげにエラフィールを見つめる。


「今日の朝ごはんはこれだけ……?」


「朝ごはんなんて、まだ食べたいと思うくらいが丁度良いんだよ。あとあんまり食べ過ぎると、吐くよ」


「まぁ確かに、そうかもしれないけど……」


 彼女は納得はしたものの、どこか物足りないような表情でおにぎりを食べ始めた。が、食べていくうちに、彼女の表情が変化していき、満足したように頬を膨らませていく。


「満足してるみたいだね。それ食べたら、もう出発するから準備しといて」


「了解したわ。ハンモックとかはどこに置いておけばいいの?」


「これ食べたら、魔法で燃やすからとりあえず、その辺置いといて」


 言われた通り、木に縛り付けてあったハンモックを解き、ロールケーキのようにぐるぐるに巻き取った。少し乱暴に見えるが、どうせ燃やすなら雑でもいいかとロザンナは効率を重視した。


「ハンモック全部片付けたよ」


 おにぎりを食べ終え、朝の紅茶を一杯飲んだエラフィールは、胸の内ポケットから取り出したタバコを唇に挟む。


「うん、ありがとう。後片付けしやすくなったよ。それじゃあ、少し危ないからロザンナは木の後ろとかに隠れておいて」


「わかったわ」


 ロザンナは急ぎ足で木の後ろに隠れた。すっぽりと収まった木の後ろから顔だけ出す。

 エラフィールは積み重なったハンモックの隙間に手を入れた。息を潜めるように集中し、鋭く細められた目の奥で、何か絶えず組み立てられているようだった。


 彼女の額に汗が伝わった瞬間、視界全てが真っ白に変わってしまうような閃光、耳をつんざく轟音と、とてつもないエネルギーを持った爆発が起こった。


 ロザンナは思わず目を背け、耳を塞いだ。

 

「ちょ、ちょっとエラフィール!? 何が起こったの!?」


 爆発が収まり、ロザンナは警戒しながら様子を見た。積み重なっていたハンモックは跡形もなく消し飛び、草木は散乱とし、爆心地は抉れていた。

 爆発によって吹き飛ばされたエラフィールは地面に大の字で横たわっている。右腕は吹き飛び、唖然とした表情で空を見る。


「ああ、やらかしてしまったわ……」


 ロザンナはエラフィールの傍らへしゃがみ込み、様子をうかがうように、その顔を覗き込んだ。


「右腕が吹き飛んでしまってるわ!! 早く治さないと!!」


 エラフィールが「ああ」とため息混じりの声を漏らしながら、ゆっくりと身体を起こす。


「失敗した。限りなく質量の小さい反物質を生成して、消してしまおうと思ったのだけれど……思ったよりも対消滅のエネルギーが大きすぎて、計算を見誤った」


 焦るようにロザンナは、エラフィールの背中を支え、彼女の傷の具合にあたふたする。


「そんな説明は後ででいいから!! 今は早く身体を治しちゃってよ!!」


「うん、ちょっと待って、ふぅ、よっこいしょ」


 重たい腰を上げて立ち上がると同時に、エラフィールは自分の身体を完全に元通りにした。

 服に着いた汚れを取り払いながら、血のついたコートを燃やし、また新しいコートを新調する。


「よし、さっきの爆発で周りに気づかれた可能性が高いから急いでここを出よう」


「じゃあ、大体エラフィールのせいじゃん。というよりもなんで反物質なんか生成したの? 普通に燃やしたりすれば良かったのに」


「私が反物質の生成をしてみたくなっただけだよ。あと、それを使う場面が来たときに上手く調整できるようにするためだよ」


「ああ、そう」


 ロザンナは目を細め、呆れるように返事を返す。その時、彼女はふと茂みに隠れるような影の存在を感じた。


「エラフィール、何かが茂みに隠れた」


「え? もう?」


 疑問符を浮かべながら、エラフィールは何かが潜む茂みへ、警戒を滲ませながら静かに近づいていく。

 彼女が腰を曲げ、茂みをかき分けた瞬間、何かが彼女の顔に向かって飛び跳ねた。


「うわっ!!」


 驚きと同時に、彼女の鋭い反射神経により、顔に跳んできた生き物を手で素早くキャッチしてしまった。捕まった生き物は彼女の手の中でピクピクと動き続け、次第におとなしくなっていく。彼女は怪訝そうに、手の中の生き物をじっと見る。


「ん? これって……」


 一部始終を見ていたロザンナは心配そうにエラフィールに近づく。


「大丈夫? 何か跳んできてたけど?」


「ええ、なんともないけど、これを見て」


 ロザンナはまじまじと手のひらの生き物を凝視する。掌で縞模様の殻を震わせたそれが、逃れるようにピクリ、ピクリと跳ねる。


「この子ってもしかして、この島にしか生息してないやつ?」


「いいえ、これは普通の海老よ。おかしいけれど、これは海老にしか見えない」


 まるで理解できないようにロザンナは「え?」とエラフィールの顔を見る。


「いやいや、海老って海の中でしか生きられないでしょ? それにこの子、赤くないから海老じゃないよ」


「--ふふっ」


 エラフィールは堪えきれないといった様子で笑った。


「ロザンナ、確かに海老は海の中でしか生きられない、それは正しい。けれど海老が赤くなるのは焼かれたり、茹でられたときだけで、こうやって生きてる海老は全員が赤いわけじゃないよ」


 ロザンナは慌てて相槌を打つが、耳の先がほんのりと赤い。知らなかったことを悟られまいと取り繕う姿は、かえって図星であることを示していた。


「あーね! し、知ってたよ! いや、ほら、陸地にそもそも生きてる海老がいるのはおかしいから、誰かが食べるために取ってきた海老がそのままになってるのかなって、そう思っただけで、別に海老がみんな赤くないって知らなかったわけじゃないから!」


 その瞬間、二人の間を縫うように、一匹の魚が通り抜けていく。

 もちろん魚が空気中を泳ぐなんてことは魔法でない限りありえない。摩訶不思議な光景、夢の中だとしてもおかしな状況に二人は顔を見合わせる。


「エラフィール!!」


「間違いない、誰かの魔法がすでに発動している。それに私たちはとっくに囲まれているらしい」


 嫌な予感がしたロザンナは、まるで追い詰められた獣のように、周囲へ鋭い視線を送った。


「なによこれ!? 一体何が起こっているの!?」


 そこはまるで海の中のようだった。海水の存在しない海のような、無数の魚たちが銀鱗を煌めかせながら舞うように泳ぎ回っている。

 土の穴からチンアナゴが風の流れに乗って揺らめき、岩穴の中に潜んだウツボは自分の縄張りを守っている。

 まるで当然かのように陸地で海の生物たちが生きている。


「エラフィール、一応聞いておくけど、この魚たちってエラフィールの魔法じゃないよね……?」


 エラフィールは前髪をかきあげ、刀の鍔に指をかけた。


「ええ、こんな魔法見たこともないわ」

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