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全てはあなただけのために―9

≪狐の老紳士≫


 白い地面に崩れ落ちた少女。

 白い虚空に向かい、すすり泣く少女。

 白い空を仰ぎ、泣き叫ぶ少女。


「申し訳ありませんでした」


 私は涙を流す少女たちに向かって深々と頭を下げた。頭を下げたからと少女たちの悲しみが緩和されるわけもなく、それでも申し訳ない気持ちを伝えようとした。


「ご主人様の見ている夢。記憶の最奥にあるその扉を開くため、お嬢様方がご主人様の記憶を辿る必要があり、結果、双方の記憶が混ざり合ったことでご主人様の記憶を追体験する夢となってしまいました。ですがこれまで、凡庸に生きていたご主人様にもこれほどの想いや、挑戦や、葛藤があったのです。それをどうか、ご理解頂けないでしょうか?」


 私は頭を下げ続けた。少女たちが悲しみを乗り越えてくれると信じて。


「私が泣いているのは、自分が情けないからです」


 膝をついていた南雲詩由が立ち上がる。赤く腫れあがった目を恥じらうことなく私に向ける少女は、とても美しかった。


「兄さんを選び続けると心に刻み込んだ誓いは、こんなにも脆く、儚く消えてしまうものなのだと知りました。兄さんを家族としてではなく、一人の男性として私は愛していたはずだったのに、やはり私は、家族としての兄さんを切り離せなかったのです」


 その懺悔は見る者を勇気づけるほど勇ましかった。


「私もそう。自分が好きであるという気持ちを相手に理解されない心の痛みを知った。上乃君は私が絵本が好きだって話を真剣に聞いてくれたのに、私は上乃君の告白を、誰かが好きだっていう恋心を理解しようともしなかった。そんな自分が情けない」


 望月玲は強い眼差しを携え、立ち上がる。


「あたしは……一人じゃ何もできないんだって、簡単に嘆く自分の弱さを知ったよ。何もできない無力さを盾にして、自分に降りかかろうとする面倒ごとを遠ざけようとしてたんだ。その大きくなっていく盾が目の前にある幸せを隠しているんだって気づかないままに」


 坂ノ下夏は幸福の未来に目を向け、立ち上がる。

 目を赤くする三人の少女は向かい合う。お互いがお互いの弱さを見せつけるように。


「あなたたちは強いですよ。本当に――」


 私はそう呟き、少女たちを見下ろした。


「それでは、三人の手が重なるように、手を翳して貰えますか?」


 少女たちは既に知っていたかのように、中心へと手を伸ばす。

 少女たちの身体が青い光を纏い、華奢な体を浮かび上がらせる。まるで、少女たちの純粋な心が重ねた手の中で繋がっているようだ。


「夢から覚めたら、私たちの想いを、兄さんに伝えましょう。ありったけの想いの丈を」


 南雲詩由は、自分の半身を見守るような眼差しで、そう言った。


「きっと、誰が上乃君に選ばれても私たちは一人の喜びを分かち合える。選ばれなかった二人の悲しみもそう、三人で泣けばいいんだよ」


 望月玲は、愛する者に向ける優しい表情で、そう言った。


「三人で手を伸ばしてみよう。そうすれば、届かないものにも、届くかもしれない」


 坂ノ下夏は、白い世界を吹き飛ばしてしまいそうな強い眼差しで、そう言った。

 三人の少女の強固な絆が形を成し、少女たちの前に一つの扉を作り上げた。


「ご主人様はこの奥におられるはずです。迎えに行って差し上げましょう」


 私の言葉に頷いた三人の少女たちは、扉を開いた。


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