選択する僕と妹―1
最近、毎朝の目覚めと同時に胸の奥につっかえのような違和感を感じていた。
変な夢でも見ているのか? でも夢の内容を全く思い出せない。寝ている時に見る夢は起きたらすぐ忘れてしまうって言うけれど、こんなにも思い出せないもんなのか? ……もしかしたら単なる寝不足かもな。
寝ぼけ眼を擦りつけながら僕はベッドから身体を起こした。
「おはよう。兄さん」
「あぁ、おはよ…………って、何してんだよっ!」
ベッドの横に詩由が正座していた。窓から差し込む朝日に照らされて、土下座するように頭を下げるその姿は、控えめにも神々しく見えてしまった。
「昨日鍵を渡してくれたじゃない。せっかくだから部屋まで迎えに来たんだけど、迷惑だった?」
「ああ。どうせなら居間の方で待っていて欲しかったな」
「でも兄さんの寝顔が見れたよ?」
「だから、あっちで待っていて欲しかったんだが?」
「かわいかったよ?」
「感想なんて聞いてないんっだよっ!」
詩由はクスクスと笑い「じゃあ朝食の準備してるから、兄さんは着替えてきて」と、僕の部屋から出て行った。あいつに鍵を渡してしまったのは間違いだったか?
着替えて居間に行くと、二人分の朝食を作り終えた詩由が座って待っていた。詩由と一緒に――家族と一緒に飯を食べたのはいつ以来だっけ? と、家族四人で食卓を囲んでいた頃を思い出しながら、味付けの丁寧な朝食を食べる。
程よい塩味の味噌汁を啜り、詩由は色っぽい吐息を一つ吐いた。
「ふぅ~。こういうこじんまりした部屋で食べる朝食もいいね」
「そうか? 僕は……まあ、慣れてるからなんとも思わないけどな」
「いつも朝食は何食べてるの?」
「パンとか。前日買ってきたおにぎりとか」
「駄目だよ兄さん。ちゃんとしたもの作って食べないと元気でないよ?」
「ん~元気出さないといけないほど、能動的な生活してないからなー。別にいいだろ?」
「全くもう。昔っから大雑把なんだから。だいたい――」
まるで母さんのような口振りでネチネチと小言を言い始める詩由。右から左へと詩由の小言を聞き流しつつ、久しぶりの旨い朝食を味わって食べる。
「なんだったら、これから毎日作りに来てもいいんだけど……」
「僕としてはありがたいけどな。おまえは母さんと食ってくれよ。毎日二人で食事してるんだろ?」
「うん。今日は兄さんに朝ご飯作ってくるって言ったらお母さん喜んでたけど」
「そうか。でも、詩由は母さんの傍にいてやってくれよ。結構さみしがり屋だしな」
「そうだね……わかった。だったら兄さんもちゃんとしたもの食べること。じゃないと今日みたいに無理矢理にでも作りに来ちゃうんだから。鍵ももらったことだしー、これからは朝ご飯のチェックもできるねー」
「うぐ……努力はするさ」
「ふふ。さ、早く食べちゃおうよ」
妹は僕に懐いている。しかし、元々そうではなかった。家族として同じ家で暮らし、同じ生活をしていれば否応なくいろんなことが起こる。僕と詩由はそれこそ喧嘩ばかりで、多分お互いにお互いが嫌いだったのだ。
きっかけは父さんの死――あの時初めて、僕らは同じ痛みを分かち合えた。
まるで遠い昔の記憶を手繰り寄せるように、僕は過去を思い出していた。モノクロの記憶が次第に色彩を帯び、頭の中で再生されていく――。




