第205話 TSネトラレBLもの
こんなちゃんとした装備を身につけるのは初めてだから、なんだか落ち着かない気持ちになる。
装飾が少ないとはいえ、コテコテのファンタジー装備だ。
それこそコスプレでもしているような気分だった。
アンリも同じ気持ちのようで、鏡で自分の姿を見て恥ずかしそうにしていた。
(ミリタリー装備だったら、もっとマシだったんだろうけど……)
作ろうと思えばいくらでも作ることができたのだ。
でも冒険者たちに必要な装備が十全に行き渡っていない現状で、使う予定もない自分の装備を作ることに抵抗があった。
いやというよりも、そんな発想すら湧いてこなかった。
私はともかくとして、アンリの装備くらいは作っておけばよかったなと思う。
一段落したら開発部に連絡しておこう。
ついでにお兄さんの分も。
「似合ってるよ、二人とも」
アマンダさんが私たちの姿を見て言う。
「とっても可愛い」
この人はいつもいつも、こちらが必要としている時に、こちらが必要としている言葉を寄越してくれる。
「アマンダさんも、とても素敵ですね」
「そう? ありがとう」
「でもアマンダさんが、そんなちゃんとした装備を身につけてるの初めて見るかも」
「君を守るためさ。命を懸けずにね」
「えぇ〜? 懸けてくれないんですか?」
「『命懸け』なんて聞こえはいいけど、そんな状況になった時点で君を危険に晒してるじゃないか。そんなヒロイックに酔った言葉なんて論外だよ。安全に完全に君を守ってみせるさ」
「…………」
この人が女でよかったと、つくづく思う。
もし男だったら、お兄さんとアマンダさんが私を巡って争い、大変なことになっていたところだ。
(……ん?)
なんか今、ものすごい論理破綻があったような……。
でもそんなことはどうでもいい。
妄想に論理的整合性など不要だ。
私を巡って争うお兄さんとTSアマンダさん。
夕暮れの河川敷で殴り合っちゃったりなんてして。
そしてお互い顔を腫らしながら、土手で大の字になるのだ。
最初はいがみ合っていた二人だけれど、次第に認め合うようになり、いつしか禁断の関係へと——
……あれ?
おかしい、なんか私が蚊帳の外になっている。
私に都合のいい妄想のはずなのに、結果的にTSアマンダさんにお兄さんを奪われてしまった。
でも、
(……なんか悪くないぞ?)
私の中で『TSネトラレBLもの』という新しい扉が開く。
(TSアマ×ジロか。これは一考の余地があるな……)
「ボス、なんか春奈が急に黙り込んで動かなくなったんですが」
「そっとしておこう。別世界のことや管理者のこと、考えるべきことは山積みだからね」
「そうですね。ジローの父親のことに気づいたのも春奈だし、オレたちにはない着眼点から何かに気づくかも」
「あ、違う違う。ああいう時の春奈って、ろくでもないこと考えてるから。二人が思ってる以上に春奈って変なやつだから」
三人が何か話しているが、私の耳には入らなかった。
準備はとっくにできていたんだけど、私の妄想待ちで五分ほど浪費する。
「……ふむ」
満足して妄想の世界から戻ってくるなり、アマンダさんが顔を覗き込んできた。
「何か思いついた?」
「えっ?」
私はびくりとする。
まさか頭の中を覗き見られたのだろうか。
『ジロー総受け計画』のこととか……。
「別世界や管理者のことを考えてたんじゃないの?」
「あ、そうなんですよっ。すみません、つい考え込んじゃって」
「それで? どんなことを思いついたか教えてもらえるかな」
「あ、いや、わからないことだらけで全然……」
「その割には随分と満足そうに見えたけれど。きっと素敵なことを考えていたんだろうね」
「…………」
アマンダさんはとても楽しそうだ。
頭の中を覗き見られてはなくても、変なこと考えていたことはバレているのかもしれない。
解釈一致のサディスティックな笑みを浮かべている。
さすが、お兄さんを半年間も地下に監禁して好き放題していただけのことはある。
まあ私の妄想の中での話だけど。
「と、とりあえず行きましょうよっ。時間がもったいないし」
「そうだね、歩きながらでも話せるし」
「…………」
まずい。
早急にそれっぽい仮説を考えなければならなくなった。
そんな私たちのやりとりを、 アンリとギンが呆れたように眺めている。
【創作裏話】
本当ならさっさとダンジョンに潜ってラストと遭遇し、ジロー視点に戻るはずだったのですが、書けば書くほど話がとっ散らかります。
なんだ『TSネトラレBLもの』って。
エディタを開いた時にはそんな言葉、頭の片隅にもなかったはずなんだけどなぁ……。
書いている立場としてはとても楽しいのですが、WEB小説は特にテンポ感が大事と言われますし、読者様からするとどうなんだろうと、とても不安でいっぱいです。
そして何が一番問題かというと、もしクレームを入れられたとしても、このスタンスを変える気が私に一切ない点なんですよね。
そのくせ『書きたいものを書くんじゃ!』と完全に開き直れるほどの肝っ玉もない。
読者様の顔色を気にしてビクビクしながらも、一切折れる気はないという、我ながら厄介な性格をしております。
どっちかに振り切れたら楽だろうに。
ともかくテンポ感が悪くなることに関して、読者様に申し訳なく思っているのは本当です。
すみません。
可能な限り更新頻度を維持しますので、ご容赦いただけたら幸いです。




