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第204話 ファンタジー装備、ミリタリー装備

「アンリ、大丈夫そう?」


 私がそう問いかけると、アンリは硬い表情で頷いた。

 全然大丈夫そうじゃない。

 でもアンリにはやってもらわないといけないのだ。


 私は球体ドローンを両手で掴み、胸の高さで固定していた。

 お兄さんが使っているのと同型の最新ドローンだ。

 お兄さんのやつは魔改造ってレベルでカスタマイズされているから、性能は向こうのほうがずっと上だけれど。

 コメントを表示する機能などがいらない分、リソースを他のところに割くことができた。


 より厳密な話をするなら、お兄さん専用に開発したドローンにコメント表示機能などを追加したのがこのシリーズだった。

 お兄さんの動きについていくための追尾性能や映像処理能力は、一般向けにはオーバースペックだから、その辺りをデチューンして価格も抑えている。

 過去にはハイエンドモデルとして販売もしていたんだけど……。

 影みたいに寸分のズレもなく追尾してくるのが怖いとか、映像処理能力が高すぎて動きが鈍く見えてしまうとか、そういった苦情が殺到して廃盤となった。

 

 ともかく完全自立型のドローンだから、わざわざ手で支える必要はない。

 なのになぜハンディカメラのように構えているかというと、配信慣れしていないアンリの緊張を少しでも和らげるためだ。

 アンリには私だけを見るように言っている。

 ドローンじゃなくて、私に語りかければいいからと。


「じゃあ始めるよ。配信スタート」


 私がそういうと、ドローンの一部が開きカメラレンズが露出する。

 開発チーム曰く、愛着を持ってもらうために単眼生物が瞼を開いたように感じるように設計しているとのことだ。

 だがこの状況においては、そのこだわりが悪い方向に作用する。


 アンリがドローンを意識してしまったのだ。

 途端に硬直し、頭が真っ白になってしまったのが傍目にもわかった。

 コメント欄が目に入る。


”誰この子?”

”ジローのアカウントだよねこれ”

”乗っ取り? 通報案件か?”

”ジローのアカウント乗っ取るとか命知らずすぎるやろ”


 予告なしの配信でこの賑わいだ。

 だからこそ、わざわざお兄さんのアカウントで配信をしているのだ。

 無視できなくするために。


 声を出すわけにはいかないから、私は目顔だけで必死に訴える。

 よっぽど酷い顔になっていたのだろう、アンリがふっと吹き出した。

 何わろとんじゃコラと思ったけれど、おかげでアンリは自分の役割を思い出したみたいだ。


「は、初めましてっ! ジローの妹のアンリュですっ!」


 思いっきり噛んだ。

 お兄さんの配信に携わってきて、私はネット民たちのノリを心得ている。


(ああ、これは一生擦り倒されるやつだな……)


 私は配信デビューの一歩目で盛大に躓いたアンリュエッタの今後を憂いた。


     *


 オランダを離れ、お兄さんが話していたダンジョンの管理者に——

 ラストさんに会いにアメリカのラストヘイブンに戻ってきた。

 別にここがUDの本拠地ってわけではないんだけど、私の感覚的にはすでに第二の故郷って感じになっている。

 世界を股にかけるアマンダさんとは違って、私とアンリはお兄さんを追いかけてラストヘイブンに移住し、近くの学校にも通っているのだから。


 戻ってきたからといって、いきなりダンジョンに潜ったりはしない。

 不測の事態に備え、万全の準備が必要だからだ。

 まずはしっかりと休息を取り、それから装備を整えていった。


 冒険者の防具は『ファンタジー』と『ミリタリー』の二つに大別される。

『レディメイド』と『オーダーメイド』と言い換えることもできる。


 ダンジョンで手に入る装備は、どれもファンタジーチックなデザインの物ばかりなのだ。

 華美な装飾が施されていたり、色がやけに派手だったり。


 逆にダンジョンの素材を使って装備を作る場合は、わざわざファンタジーっぽくする必要がない。

 自然とデザインが現代的なものに、つまりミリタリー風になりがちだ。


 当然だけれど、後者の方が圧倒的に値が張る。

 ダンジョン素材の加工技術はまだまだ発展途上で、錬金窟に頼らざるを得ない部分が大きいのだ。


 それにダンジョンで手に入る装備が、自分の体にマッチするとも限らない。

 大きすぎたり小さすぎたりした場合、売るくらいしか選択肢がないから、市場に装備が出回りやすいのだ。

 結果的に値段も控えめになっていく。

 多少のサイズ違いなら、無理して着る冒険者も多いくらいだ。


『トップ層ほど軽装になる』と言われる所以がまさにそこにある。

 もちろんそういう傾向にあるってだけの話だし、軽装に見えるだけで性能はむしろずば抜けて高いんだけど。


 しかも最近は、その言説もかなり怪しくなってきた。

 ミリタリー装備を身につけているだけで周りから一目置かれるようになったことで、性能の低いミリタリー装備が出回るようになったのだ。

 もうただのコスプレ衣装のようなクオリティのものが。


 そんな装備が通用するのは、せいぜい浅層まで。

 つまりトップとボトムがミリタリー装備を、中間層がファンタジー装備を身につけるという、あべこべな状況になっていた。


 ギンの装備が、まさにそのミリタリー装備だった。

 もちろんトップ層のガチのやつ。


 一切の無駄がなく、ただただ機能性だけを追求している。

 それでも野暮ったくならないのは、レーシングカーが美しいのと同じ理由からだろう。

 見た目を真似ただけの装備だと、きっとこうはならないはずだ。


 アマンダさんの装備はミリタリーをベースにしながらも、ところどころにファンタジーの要素も取り入れている。

 だがそれはただのファッションとしてではなく、機能性も兼ね備えているのが素人目にもわかる。

 ギンの装備がレーシングカーなら、アマンダさんの装備はスポーツカーと言ったところだろうか。

 方向性が違うものの、どちらも同じくらい美しく、なによりめちゃくちゃ似合っていた。


 私とアンリはオーダーメイドの装備なんてないから、ファンタジー装備の中から比較的装飾が少ないものを選んだ。

 アンリは動きやすさを重視して、私はそもそも重い防具を着られないから。

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