第203話 ヤッた
アンリとギンも現れて、俺たちの様子を見るなり両サイドから引っ付いてきた。
化学結合ごっこでも流行っているのだろうか。
「くっ、また出遅れた……」
春奈ちゃんが悔しそうに呟き、隙間を探して周りをちょろちょろする。
だが残念なことに、すでに閉殻している。
春奈ちゃんの入り込む余地はどこにもなかった。
(……なんだこの状況は)
さすがに全員が部屋に入ると手狭だから、俺たちはラウンジに移動した。
閉殻状態のままで。
春奈ちゃんだけが、なおも隙間を探して惑星みたいに歩き回っていた。
ゆったりとくつろげる空間を演出しているのだろう、席と席の間がやけに広い。
話し合うには不便だから、ソファを移動させて一つのローテーブルを囲う形にする。
なんとなく給食の時間を思い出した。
三人掛けのソファが一つと、一人掛けのソファが三つ。
みんな離れてくれたけれど、ラストは頑なに俺にしがみついていたから六席あればよかった。
俺が三人掛けの中央に座り、ラストが大人しくなるので左隣に博士が、右隣には春奈ちゃんが問答無用で腰掛けた。
一人だけ椅子取りゲームでもしているみたいな動きだった。
大柄な人が多いオランダの三人掛けソファだ。
四人でも普通に座れそうなくらい大きいのだけど、なぜか中央寄りになって肩が触れ合う。
ラストに興味津々な博士はわかるんだけど……。
どうして春奈ちゃんまで距離を詰めてくるのだろう。
「さて、じゃあ早速本題に入ろうか」
向かいに座るアマンダが口を開いた。
なぜラストがここにいるのか。
というかダンジョンの外に出られたのか。
その辺の話を聞けるのだと思っていたんだけど……。
「どうして二人が同じ部屋にいたのかな?」
「え?」
「それにホテリアから聞いたよ。二人ともバスローブを着ていたそうじゃないか」
みんなが到着する前にホテリエさんが用意してくれた服に着替えていたんだけど……。
受け渡しの際に博士の姿もバッチリ見られていたみたいだ。
「いやいや、今はそんなことどうでもいいじゃん。それよりラストや別世界のことを」
「私もそう思うけどね。それに二人の仲が深まるのは、私にとって寿ぐべきことだし」
でも、とアマンダは言う。
「三人にとっては、そこが最重要事項みたいだよ。別世界のことなんかよりもよっぽど」
「…………」
「まずそこを解決しないと、他の話をできそうにない」
なるほど、通りでずっと視線が痛いなとは思っていた。
「それとも私たちには話せないようなことが本当にあったのかな?」
「いや、そういうわけじゃ……」
ないこともないのが困るところだ。
なにせおしっこを掛け合っている。
でも博士の沽券にも関わることだから、俺の一存では話せない。
「博士、どうします?」
「…………」
小声で話しかけたんだけど、博士はラストを観察するばかりで答えない。
「博士ってばっ」
肩を揺すって、ようやく顔を上げた。
「んだよ」
「だから、どうするのかって」
「あ? 何が?」
どうやら話を聞いていなかったらしい。
俺たちの関係が疑われていると簡潔に伝える。
博士は舌打ちして、
「面倒臭え……」
とぼやいた。
それから彼女たちに向け、簡潔に言う。
「ヤッた」
爆発みたいな悲鳴が上がる。
「ヤッてないっ、ヤッてないからっ」
俺は博士に食ってかかる。
「なんでそんな嘘つくんですかっ」
「あ? 本当のこと話すよりはマシだろ。おしっこ掛け合ったって」
「何言ってんですかっ。そんなわけ……」
……あれ?
確かに一理あるかも。
「てかこっちに説明義務なんてないのに、それを要求してくる連中が悪いんだろ。本当にヤッてたらどうすんだよ」
「…………」
それもその通りだ。
「な、なんで黙るんですかっ」
「お兄ちゃん、まさか本当に……」
「じ、ジロー……」
顔を真っ赤にしながら涙目になる三人。
「だ、だから違うってっ。ヤッてはないからっ」
「『は』って何!? ヤッて『は』って!?」
しまった。
なんか意味深な言い回しをしてしまった。
「ちょ、博士。なんとかして……」
「あー、まあ安心しろよ。一夜だけの関係だから」
「もう黙っててくださいっ」
大騒ぎになって、結局ラストの話を聞けたのは、それから二時間後のことだった。
考えてみたら博士はしょっちゅう漏らしてるんだし、沽券なんて最初からないのだ。
博士にあるのは俺の生殺与奪券だけである。
さっさと本当のことを話しておけばよかった。
とにかく、正直に打ち明けたことで誤解そのものは解くことができた。
けれど、
「……でもおしっこは掛け合ってるんだよなぁ」
三人は絶妙に納得していない様子だった。
でも十代の彼女たちには、その事実をどう受け止めたらいいのかわからなかったみたいで、そのうち三人は考えるのをやめた。




