第202話 自爆サイバイマンスタイル
ガシィ! とラストが両手両足を使って抱きついてくる。
だいしゅきホールド——
というよりは自爆サイバイマンスタイルだ。
俺の両腕を封じる形になってるし。
「ジロー様ぁ! こいつが! こいつがボクをイジメるんです!」
「え? ちょ、何、どういうこと? というかなんでここに……」
落ち着いて話を聞きたかったんだけど、ラストは興奮していて会話ができるような状態じゃなかった。
なんか泣き叫んでるから、力ずくで振り解くのも気が引ける。
どうすればいいかわからず戸惑っていると、アマンダがラストの首根っこを掴んで強引に引き離す。
「こらこら、出会い頭に粗相をするんじゃない」
「離せ雌豚ぁ!」
「全く、また一から躾けなきゃダメかな?」
「ふざけるな! 貴様に躾けられた覚えなどない! ボクを躾けたのはジロー様だけだ!」
「いや俺も躾けた覚えはないけど……」
あまり汚い言葉を使わない方が、みたいなことは言ったことがあるけれど。
しかも全然治ってないし。
アマンダに猫みたいに摘み上げられながら、ラストはギャーギャーと喚き散らす。
俺の横を、博士が弾丸のような速度で駆け抜ける。
そのままラストの横っ腹にタックルをかました。
「うぐぅっ」
ラストが呻き声をあげる。
アマンダの手を離れ、二人は部屋から飛び出して絡れるようにしながら廊下を転がった。
そして博士が、まるでMMAファイターのような滑らかさでマウントポジションを取る。
立ち上がろうとするラストの腕を踏みつけ、
「お前がラストか」
と問いかけた。
俺からは博士の背中しか見えなかったけれど、どんな表情をしているのかなんとなくわかった。
博士が落とす影の中。
自分に馬乗りになる相手を見上げ、ラストはヒュッと喉を鳴らす。
猛禽類に捕まったネズミみたいだ。
いや、モルモットだろうか。
愉快な人だから忘れがちだけれど、博士はマッド寄りのサイエンティストなのだ。
(……博士ってあんなに速く動けるんだ)
今さっきまで二日酔いで辛そうにしていたのに。
火事場の馬鹿力というか、実験動物を前にした研究者というか。
博士と知り合ったばかりのころ、俺も似たような扱いをされてたなぁ、と懐かしい気持ちになる。
まさかあそこから、おしっこを掛け合う仲にまでなるとは思わなかった。
ラストはガチでビビったらしく、暴れたりせず縮こまっている。
さすがに見ていられなくて、俺は博士を抱き上げてラストから引き離した。
「こら、意地悪しちゃダメでしょ」
博士もラストも小柄だから、つい園児の喧嘩を止めるみたいになってしまう。
いつもの博士なら、すかさず突っ込みを入れてくるところだ。
でも俺のことなんて眼中にないのか、俺に抱え上げられながらも、視線はラストに固定されていた。
なんかめちゃくちゃ寂しかった。
博士から解放されたラストがまた俺にガシィ! としがみついてくる。
でも前回みたいに騒ぐことはなく、俺の胸に顔を押し付けて必死に息を殺していた。
本当に、それで隠れた気になっている小動物みたいだった。
博士がそんなラストにリアネイキッドチョークみたいにしがみついて、ゼロ距離から観察し始める。
「ちょ、二人とも……」
助けを求めて振り返ったんだけど、面白がったアマンダも背後から抱きついてきた。
「なんでアマンダまで」
「私だけダメなの? 悲しいね」
「いや、だけっていうか……」
本当に悲しそうな顔をするから、それ以上強く言えなかった。
分子構造の擬人化みたいな状況で困り果てていると、ふと視線を感じる。
そちらに目を向けると、春奈ちゃんが廊下の真ん中に佇んで、ドン引きしたようにこちらを眺めていた。
「…………」
「…………」
しばらく無言で見つめ合ってから、俺は尋ねる。
「一体何があったの?」
「いやこっちの台詞ですから」
すかさず突っ込みが飛んでくる。
さすが春奈ちゃんだぜ。
俺が満足していると、
「なんで嬉しそうやねん……」
と独り言のように呟くのが聞こえた。
素晴らしい。
気持ち悪そうにしているのに、気持ち悪いとハッキリ明言しないところが、博士とは違った春奈ちゃんらしさだ。




