第198話 テーブルマナー
俺たちは席に着く。
料理が大量に並んだ楕円形のテーブルで向かい合うようにして。
料理は大皿に乗せられ、各自で自分の皿に取り分ける方式だ。
多分だけど、相手に毒の心配とかをさせないために、博士がそう取り計らったのだろう。
こっちが俺と博士の二人なのに対し、向こうは四人だ。
ちょっと手狭に見えるけれど、こればっかりは仕方がない。
一人をこっちサイドに呼ぶわけにもいかない。
彼らにとっては見慣れない料理ばかりなのだろう。
おっかなびっくり口に運んでは、一つ一つの料理に感動していた。
かくいう俺も、涙を流しながら食事を味わう。
「なんでお前が一番感動してんだよ……」
「うまい!」
「人の話を聞け」
「うまい! うまい!」
俺がそればかりを繰り返していると、小柄な女性が俺を真似して「……ウマイ」と小さくこぼした。
場が静かになって、自然と彼女に注目が集まる。
彼女が狼狽えるのがわかった。
俺はすかさず、フォークで突き刺した肉を聖火ランナーみたいに掲げて、
「うまい!」
と言う。
面白がった男性二人も、俺の真似をし始めた。
乾杯みたいなノリで、それぞれが突き刺した料理を「ウマイ!」と叫びながら掲げあった。
「はしゃぎすぎだバカ」
「え? でも彼らと打ち解けるのが目的なわけだし」
「……その通りなのがムカつくな」
俺はチラと脱メイルさんの様子を伺う。
彼女は黙々と食事していた。
はしゃぎこそしていないけれど、料理をしっかりと味わっているのがわかる。
さっきまでの不穏な雰囲気は幾分か和らいでいた。
彼女の所作は、一つ一つが美しかった。
マナーがしっかりしているとかってわけではない。
切り分けた肉を、そのままナイフで突き刺して口に運んだりしているし。
でも下品さはまるでなく、むしろ気品すら漂っていた。
少なくとも肉を掲げてきゃっきゃしてる俺なんかよりはよっぽど。
変にプレッシャーを与えないように、意識して粗野に振舞っていた部分もあるんだけど……。
彼女を見ていると、自分がちょっと恥ずかしくなった。
もちろん食事が美味しすぎてテンションが上がったのも、そもそも俺がテーブルマナーに詳しくないってのも本当なんだけど。
でも俺にとっての食事の作法は『食べ物を粗末にしないこと』と『食事を全力で楽しむこと』の二つだけだ。
それ以外はおまけ程度に思っている節が俺にはあった。
もちろんそれは一人きりだった場合の話で、誰かと食事を共にする時は、そこに『相手に不快な思いをさせない』が加わるんだけど。
この状況だと『マナーなんか気にせずに食事を楽しむ』がそれに当たる。
つまり、俺の時間だ。
ヒャッハー!
ステーキの最後の一切れを食べてやったぜ!
そんな感じで、別世界人たちとの食事会は意外なほど和やかに進んだ。
空いた皿は下げられ、新しい料理が運ばれてくる。
こんな幸せなことがあっていいのだろうか。
俺は次々に胃に流し込んでいく。
傷が癒え、失った血が作られていくのがわかる。
しばらくすると、テーブルの上の料理がなくなった。
皿は下げられていくばかりで、新しい料理が運ばれてくる様子がない。
「次のはいつくるんですかね?」
「おい、もうやめとけ」
博士が引き気味に言う。
「随分前から、お前しか食ってないぞ」
「え?」
顔を上げると、別世界の彼らが博士と同じような表情を浮かべて俺を見ていた。
「みんな少食なんですね」
「そうだな。お前に比べりゃ全人類そうだ」
「ま、いいか。腹八分目っていうし」
「お前なぁ……」
博士が別世界の彼らに視線を向け、俺を顎で示しながら、嘆息と共に肩の力を抜いた。
彼らは博士に同情を示すように眉尻を下げる。
(……なんで博士が彼らと通じ合ってるんだ?)
俺は首を捻る。
ところでデザートはまだだろうか。




