第八話 継ぐ者
木立の影から、男たちが姿を現した。
四人。
着流しは泥に汚れ、腰には刃こぼれした刀。
鈴を見るなり、男たちの口元が歪む。
15年前に見た父と母の姿が一瞬にして蘇った。
鈴は胸元へ手をやるが、こけしはもう居ない。
近寄ってくる山賊に後退りする鈴。
木々の溢れ日中で、鈴は腰元に尾違和感を感じた。
左手で確認する。
そこには一振りの刀が差されていた。
見覚えのない拵え。
けれど、その柄に手を添えた瞬間。
なぜか、初めて握る気がしなかった。
そのとき。
鈴は刀を抜いた。
刃が夕陽を受けて光る。
その光景を見た瞬間、不思議と身体が覚えていた。
おかっぱが歩いた歩幅。
足を運ぶ順番。
腰の落とし方。
肩の力を抜くこと。
敵ではなく、その向こうを見る眼差し。
何度も見てきた。
何度も。
何度も。
男の刀が振り下ろされる。
鈴は半歩だけ身を開く。
刃は空を切った。
その勢いのまま、鈴の刀が男の腕を払う。
刀が土へ落ち、二人目が飛び込む。
鈴は息を整え、焦ることはなかった。
おかっぱは、いつも急がなかった。
踏み込みは小さく。
動きは最小限。
それだけで十分だった。
刀があろうがなかろうが、戦いの基礎は同じであった。
男が崩れる。
三人目。
四人目。
鈴にも息の乱れがみえてきた。
腕が重い。
足も震えはじめる。
それでも鈴は退かなかった。
守るために戦う人の背中を、十五年間見続けてきた。
その背中が、今は自分の中にあった。
最後の一人が後ずさる。
鈴も肩で息をしていた。
そのときだった。
男が視線を落とす。
地面へ転がった石を蹴り上げる。
鈴の視界が白く霞み、男はその隙に回り込んだ。
刀を振り上げる。
男が視界から消えた。
鈴の目は砂で開かない。
けれど。
――パキッ。
何かが脳に入り込んできた。
不思議と鈴は瞬時に木が折れたと感じた。
鈴は反射的に振り返る。
身体が先に動いていた。
刀が円を描く。
男の刀が宙を舞う。
切っ先は男の喉元で止まっていた。
男は青ざめ、尻もちをつく。
震えながら立ち上がると、刀も拾わず山を駆け下りていく。
やがて、その姿は木々の向こうへ消えた。
鈴は追わなかった。
刀を下ろしたまま、その場へ立ち尽くす。
今の……耳から…感じるものは…
何だったのだろう。




