第七話 返す日
山は、十五年前と変わらなかった。
木々は空を覆い、細い道は静かに奥へ続いている。
幼い頃には広く感じた坂道も、今は迷うことなく歩けた。
鈴は何度も胸元へ手を添える。
そこには、いつもの重みがあった。
祠は、あの日のままだった。
小さく。
誰にも知られぬように。
山の時だけを見つめながら、そこに在り続けている。
鈴は戸に手を掛ける。
ほんの少しだけ、ためらった。
胸元からこけしを取り出す。
木肌には、十五年という歳月が刻まれていた。
小さな擦り傷。
何度も握りしめた跡。
雨の日も。
雪の日も。
眠る夜も。
いつも一緒だった。
鈴は、そっと微笑む。
ありがとう。
その想いだけを胸に抱き、戸を開いた。
思わず息をのむ。
祠の中には、無数のこけしが並んでいた。
新しいもの
古いもの
色褪せたもの
皆、誰かに抱かれ、誰かを守り、ここへ帰ってきたのだろうか。
鈴は、自分のこけしを両手で包む。
幼い日の温もり。
悲しみ。
寂しさ。
守られた日々。
そのすべてが、小さな木の身体に宿っている気がした。
ゆっくりと
一番手前へ置く。
木と木が触れ合う。
鈴はしばらく、そのまま見つめていた。
もう胸元は軽い。
少しだけ、
寂しかった。
けれど不思議と、失くしたような気持ちにはならない。
ここへ帰ってきた。
そんな気がした。
鈴は静かに一礼すると、祠をあとにした。
山道を下る。
夕陽が木々の間を赤く染め始める。
その時、
木立の奥で、人影が揺れた。




