第三話 十五年
季節は巡った。
春が過ぎ、夏が訪れ、木々は色づき、また雪が山を覆う。
その繰り返しの中で、鈴は少しずつ大人になっていった。
町で子どもが転べば、鈴は真っ先に駆け寄った。
泣いている理由は聞こえない。
それでも、小さな手を握れば安心することを知っていた。
ある日、酒に酔った男たちが店先で揉み合っていた。
鈴は慌てない。
胸元からこけしを取り出し、足元へそっと置く。
転がったこけしの胴から、墨で描かれた扇の絵が静かに消える。
その直後だった。
黒く艶やかな、おかっぱ。
女物の小袖。
しかし、その立ち姿は武士そのものだった。
男たちが振り向く。
勝負は、一息のうちに終わる。
裾がひるがえり、男たちは次々と膝をつく。
町人たちが息をのみ、守り人を見つめる。
誰一人、その姿を笑わない。
ただ、不思議なものを見るように道を開ける。
守り人は刀を納めると、乱れた袖口を静かに整えた。
それだけで、歩き出す。
鈴も何事もなかったように、こけしを拾い上げて後を追う。
それが二人の日常だった。
夏の日。
橋のたもとに吊るされた風鈴が揺れていた。
町の子どもたちは、顔を見合わせて笑っている。
鈴も風鈴を見上げた。
細い短冊が、風に合わせて踊っている。
どんな声をしているのだろう。
そう思った。
秋。
山道で盗人が旅人を襲っていた。
鈴がこけしを置くより早く、おかっぱは一歩前へ出る。
月明かりを受けた刀が一筋の線を描く。
盗人は刀を取り落とし、その場へ崩れ落ちた。
守り人は振り返らない。
いつものように、遠くを見つめていた。
その視線の先には、山があった。
鈴も、その方角を見る。
何があるのだろう。
何度見ても、おかっぱの視線は同じ場所へ帰っていく。
冬。
冷え込む夜。
鈴は眠る前に、こけしを布で丁寧に拭いていた。
小さな傷が増えている。
自分と同じように、この子も十五年を生きてきたのだ。
そう思うと、自然と微笑みがこぼれた。
胸元へしまう。
目を閉じる。
夢の中でも、おかっぱは山を見つめていた。
季節はまた巡る。
幼かった少女は、もういない。
鈴の歩幅は大人になり、その眼差しには迷いよりも優しさが宿っていた。
そして、おかっぱは、
十五年前と何ひとつ変わらぬ姿で、今日も山を見つめていた。




