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第7話 少し、近づいた





 一番鶏が鳴く前に、ボクの瞼が開いた。

 まだ空は暗色。

 陽はこれからのようだ。



 今朝は、空が……遠い?



「……ジェ、イスぅ。ちゃんと……食べな、さい」



 アンジュさまのお声。



 すぐ傍で……聞こえた、ような?



 声がした方へとゆっくりと顔を向けた。


 肩が暴れ出す。


 なぜなら、ボクのすぐ近くにアンジュさまのお顔があったから。


 アンジュさまの、長い睫毛が揺れました。



「……あ、れ?ボクはどうして、アンジュさまの隣で……寝て、いるんだ?」



 膝を抱えるように、小さくうずくまるアンジュさま。


 じっくりと確認すると、唇が動く。

 夢の中でお食事でも召し上がっているのだろうか?



 安心しきったお顔で眠るアンジュさま。

 何だが、起こすのは気が引ける。


 ボクの都合で起こすのは可哀想だ。


 では、と打開策を思いついた。

 ボクは落ちてある枝を拾うと、サラサラと一文字一文字大きく地面に書いていく。



『 森にいます。ジェイスより 』



「……よし、これで心配をかけない、はず」



 枝を持つ手を軽く上げ、書いた一文を眺めた。


 そして、ボクは簡単に身支度を整え終えるとまた秘密の作業場へと直行した。




 ぱちりと何か、開いたことも気付かずに。









 作業場に着くと、朝日が木々の葉の隙間から放射状に差し、地面には白い靄が漂う。



 腰を落とし、木肌に手を添えた。

 しっとりとした感触。



「……ひとつの工程が、短縮できた」



 風が吹き、靄がかき消されていく。

 木肌にささくれが浮き上がる。


 ボクは着ていた上着の襟を両手で掴み、腕を抜く。脱いだ上着を何も考えず、木肌に当てた。

 そのまま木目に沿って、一定の力を込めて擦る。


 飛び出てたささくれがが少しずつ、布によって削れて滑らかになっていく。



「……あの知恵がここで役に立つ、なんて……。雑用してたかいがあったな」



 この時のため?なんて事が頭に過ぎった。



 正面が終わると、木の位置を変えようと側面に両手を当てた。


 腰を落として、押す。

 足先が土に食い込み、靴底が浮く。



 ───ビクとも、動かない。



 削ったといっても重さはそこまで変わらない。



「ハァハァ…。そう簡単に動かないか……」



 頭を左から右へとゆっくりと動かし、見逃さないよう辺りを見回す。


 そこに、ここだよと自ずとアピールしているような丈夫そうな長い棒。



「……あれ、なら」


 ボクはその場を離れ、その木まで真っ直ぐに進む。

 腕を伸ばし、指先が掠めたその時。


 ボクの手を、……逃れ、た?


 頭に幾つかのハテナが湧く。



「……ど、どういう、こと?」



 目頭に力を入れ、その正体を確かめる。

 更に、一歩踏み出す。



 ギョロっとした目玉が奇しく、───光った!



 ボクの足が固まった。

 無意識に身体が後ろに仰け反り、ふたつの目玉がボクを静かに見ている。




 ───な、な!?



 ボクの腰が砕けた。

 手に土が付く。




「な、なん…て…、大きさなんだ……?」




 昨日より更に大きい.......




「.........ビッグドナルード」



「ギョ、ギョ、ゲェェェオ──」




 太陽が地平線から全貌を現した。






 ズイっとボクの鼻先に嘴を寄越す。

 その大きさは、僕を丸呑みできてしまうほど。



 ベタつく汗が流れる。

 視線を超大型ビックドナルードから離せない。

 少しでも隙を見せようものなら……



 ゴクンっ。

 喉が鳴った。


 馬鹿にするように小刻みに首を傾げるビッグドナルード。その度に真っ赤な鶏冠がブルンと揺れる。



「…………グェェェビィィィィ?」



 ……ど、どうす、る?

 この状況……、下手したらヤラれる



 何か武器になるものは無いかと、指先が地面を彷徨う。

 触れるのは土や木の葉のみ。



 ボクの加護(スキル)が、

 あんなのじゃなきゃ……



 唇を噛む。



 嘴から覗く、舌。

 ボクを見下ろす、剥き出した目玉が歪んだ。


 鼻先から離れていく嘴。

 次の瞬間……


 ボクを目掛けて一直線に飛んでくる。



 指先が土を食む。


 ボクはその大きい目玉に土を投げ付けた。



「グヒョョョョヨ!!!」



 怯んだビッグドナルード。

 ビッグドナルードの足が二、三歩、後ろに下がった。


 目玉に入った土を取ろうとぶんっぶんっと首を盛大に振る。



 風圧で木々が激しく暴れ出す。



「お、お前の……朝メシになるつもりは、ない」



 膝を立て、地面を蹴る。

 ビッグドナルードを背にし、ボクは物陰に身を潜めた。







「グギャャアアアア」



 ドシンッ!

 ──ド、シンッ!



 執念深く、ボクを探すビッグドナルード。

 あれからずっとこの辺りを行ったり来たりしている。



 諦めて、どっか行ってくれないかな……



 チラッとビッグドナルードへ目を向ける。


 そこで、目が合ってしまった。

 さっきの超大型ビッグドナルードてはなく、昨日いたビッグドナルードに。



「グェ?」


「あ。……や、やあ?」



 手を軽く上げ、やり過ごそうとしたが……



 みるみる小さくなる瞳。

 嘴を天へと向け、断末魔のような叫び声が放たれる。



「グビゃぁぁぁぁぁぁ───!」



 勢い良く振り返る超大型ビッグドナルード。


 見つけた──っ!

 というかのように、そちらさんも叫ばれた。



「グゲェェェェェェ───ッ!!!」




 あ、ここで終わる、みたい、です

 ボクの最期は……

 超大型ビッグドナルードの朝食か……




 目を閉じる。

 その時が来るのを沈黙し、待った。






 ─────ドン!



 地が、揺れた。

 思わず、ボクは薄目を開ける。



 ボクの前に立つ。

 麗しき……美魔女。




「え……」



 瞳がハッキリと捉えた。

 ボクは魅入られる。





「─────ジェイスを、イジメちゃ……ダメ、でしょ!!」



 バチ───ンっ!!!




 空を裂く、破裂音。


 木を薙ぎ倒しながら、吹き飛んだ。



「グゥ……、ぐぇ」



 コテッ、と超大型ビッグドナルードの頭が芯を失った。


 それを一部始終見ていたビッグドナルードは、耳を劈く声を上げながら光の速さで走り去った。



「……ア、アンジュ……さま」



 ボクはその偉大な背中に言葉を投げ掛けた。

 ゆっくり、彼女は振り返る。



「───ジェイス!今日は朝から鶏の唐揚げよ!!」



 とびっきりの輝かしい笑顔を向けながらアンジュさまは僕にそう言葉を掛けられました。

 ノビている超大型ビッグドナルードへと足先を向けるアンジュさま。



「あ、でも、朝からじゃ……」



 言葉を詰まられ、足が止まりました。

 視線が例のものに注がれております。



「……それって───まさか?」



 ボクへと移ったアンジュさまの瞳。

 瞳の中が揺れてます。



 ……完成してから、見せたかったなぁ




「……まだ、途中なんですけど、ね」



 照れくさくて、視線を逸らし頭を掻く。


 アンジュさまの反応はない。



 なんだか、不安になって顔を見上げる。


 アンジュさまの表情は固まっていた。



「……アンジュさま?」


 思わず、声が出た。



 ……気に入らなかった?

 やっぱり、実物じゃないから……


 頭の中でぐるぐると回る。



「す、すごい、わ……」



 アンジュさまの吐息と共に零れた声。



「し、信じられないわ!!諦めていたのに!しかも、私の大きさには合わせて作ってくれたなんて……」



 声に熱が入るアンジュさま。

 瞳がキラキラとお星様がおられます。



「───最高。こんな素敵なプレゼント、初めての経験だわ!!」



 マジカルんステッキとボクを交互に見るアンジュさま。



「ありがとう!ジェイス!!」



 目を細め、頬を上げて、弾けるような笑顔を見せてくれたアンジュさま。



 まだ完成したわけじゃないのに

 ここまで喜んで頂けるなんて……



「絶対に、完成させたい……!」



 指を折り力を込める。



「アンジュさま、もう少し待っていてください。あとはこれで全体を撫で付け、魔法石を……」



 ボクはその先が言えなかった。

 不甲斐なくて頭が下げた。



 その問題をクリアしていな───



「あ!魔法石の代わりね。なら、私、良いの持っているわ」



 ボクはガバッと顔をアンジュさまへと向けた。



「ほ、ホントですか……?」



 ええ、と肯定するアンジュさま。

 その返事にボクの心が軽くなっていく。



「では、早く終わらせなくては……」



 早速、ボクは地面に落ちている上着を手に取った。そのまま、ステッキをひっくり返そうとする。


 重くて出来なかった事をすっかり忘れて。



「……うっ、動けぇ」



 ヒョイっとステッキが動いた。

 ボクの手では一ミリも動かなかったステッキが、紙のようにフワッと浮いた。



「私も、手伝っても良いかしら?」



 その言葉にボクの手が熱を帯びる。


 ボクはその問いに小さく頷いた。



「……も、もちろん、です」



 


ボクとアンジュさまの距離が、少しだけ縮んだ気がした






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