第5話 想いを形に。マジカルんステッキの図案
夕日が地平線へと沈んでいく。
そこに立つ、大きな大きな........
──────アンジュさま。
「おーい、ジェイス〜」
腕をいっぱいに伸ばし、ボクへと手を振るアンジュさま。
……まだ、こんなに遠くにいるのに、
アンジュさまは、目が良いんだなぁ
逆光でアンジュさまのお顔がハッキリと見えないのが、とても残念です。
遠慮気味に、肩ぐらいの位置で弱弱しく手を振り返すボク。
「遅いから、迎えに来ちゃったー!」
少し前に屈み、両手を口に添えたアンジュさま。
声量の大きさに、ボクの鼓膜は大変喜んでます。
突き破れるほどに。
「返事がないわね?ジェイスー、聞こえてるー?」
ボクの目が直線になる。
不意に顎を引く。
ボクはすかさず、腕をピンッと天へと刺した。
アンジュさまに向け、親指を掲げる。
アンジュさま、大丈夫で……す
……ちゃんと、聞こえてます
感動した耳から流れ出た何かを、ボクはそっと拭き取った。
アンジュさまのお声は、
────最高です
アンジュさまは二歩で、ボクのもとまでお越しになられました。
アンジュさまは、歩くのがお速いようです。
「ほら?こちらにいらっしゃい」
しゃがみ込まれたアンジュさまは、すぐさまボクの足元までお手を降ろされました。
「自分で歩くって言うのはナシよ。もし、私の隣を歩いたら、……踏んづけちゃうかもしれないわ」
いたずらっ子のように微笑むアンジュさま。
いや、ボク……
アンジュさまに、踏まれるの……
────本望、かも?
「おーい。ジェイスくん?」
「あ、すみません……」
「ほら、踏まれたくないなら早く乗りなさい」
一旦、考えるボク。
頭を横に振り、ボクはアンジュさまのお手に乗り上がった。
アンジュさまは、ボクが手の平に乗ったのを確認すると、そのまま静かに直立された。
木より高い視線。
地平線の彼方まで人工物がない、世界。
夕日に染まる大地。
雄大に流れる大河。
壮観な眺めに、息を呑む。
見る位置が違うと、こんなにも見方が変わるのかと胸を打った。
この広い世界に、
ボクとアンジュさまだけ……みたいだ
「……凄い綺麗、です」
「へっ?そう、かしら………?いつもと変わらないと思うけど」
アンジュさまは眉を寄せ、どこかを眺めておられました。
「じゃあ、急ぐわよ」
その掛け声と共に、ボクの身体はアンジュさまの手によって、押し込められた。
ここが、正解だというかのように。
温もりのある........
───ぷるん
───────ぶるんッ!!
と、張りのある部位に。
この温もり……
身に覚えが、あるような……
え……?
────ハッ!
全身が反応する。
身体が沸騰したように熱い!
「ア、アンジュさま〜!!」
宙を、彷徨うボクの手。
触れ……
いや、触れたらイケナイ気が……する!
両手の平で目を覆う。
「ここに挟んじゃ、ダメ、ですよ───!!」
夕空に向けて、吠えたボク。
揺れる膨らみに容赦なく、しごかれた。
「え?ダメ…なの?」
アンジュさまの吐息という名の突風。
髪が激しく乱れる。
「ダメです!ダメです!」
早口になるボクの言葉。
「……仕方ないわね」
歩き出した足を止められました。
ボクを迎えに来たアンジュさまの指先に飛び掛る。
ガシッ、ガチッ。
「まぁ、せっかちさん」
ふふっと楽しそうに微笑まれました。
ゴウゴウと轟音の如く、燃え盛る炎。
それを前にしながら、ボクとアンジュさまは並び合っています。
その間にドドーん!!
モクモクと膨らんでいる入道雲のように盛られた白飯。
持っていた箸(拾ってきたふたつの枝)が地面へと音を立て落ちていく。
口をあんぐりと開けたボク。
見上げた首が痛くなりそうです。
アンジュさまの笑顔トッピングが加わりました。
「それと…これ。わかめのお味噌汁と、川魚」
ドンッ。とん。
……何人用の、───お風呂ですか…?
……く、黒い…炭?
「そして、我が家直伝の……」
バンっ!!
「──────お漬物よ」
煌々と閃く………輪切りの“何か”
喉が鳴る。
「はい、どうぞ。たくさん、召し上がれっ」
手を、合わせる。
「い、いただきます……」
落ちた箸を指で掬い、袖で拭う。
「あ、ジェイス、これ使って」
そうだそうだと、アンジュさまが背を向けられました。大きいカゴをガサゴソガサゴソと引っかき回されてます。
「確か……ここに、
────あった!」
輝く瞳の先にあるものは……
────小さな、お椀と皿……?
「幼い頃にじい様が作ってくれたの。よく、これでままごとして遊んだわ。……これでも、ジェイスには大きいかも、だけど」
「……アンジュさま」
どうぞ、とボクに手渡された。
両手から腕に掛かった、ずっしりとした重さ。
よろめいた足。
「やっぱり、大きいわね」
ボクとあまり変わらないサイズ感に、アンジュさまは口元に手を添えて、クスッと笑われました。
「ジェイス。食べられるだけ、そのお皿に取り分けてみて?」
「あ、はい」
ボクはアンジュさまの仰られたように、入道雲へと箸を突き立てた。
お米の粒がひとつひとつ大きい。
ひと粒で、ちょうど良いおにぎりサイズ。
黙々と、取り分けていくボク。
「え!?それだけで、いいの?!」
ビクッと肩を揺らし、まじまじと眺めるアンジュさま。
「はい…。これくらいで、大丈夫です」
「し、信じられない……」
長い睫毛を何度も伏せられたアンジュさま。
「……人間族って、少食なのね。小さい理由が分かった気がしたわ」
うんうんと首を縦に頷かれてます。
いや、アンジュさま……
そこは関係はない気が、します
夕食が終わり、火を眺めるボク。
視界が弾んだ。
「アンジュさま、お片付け……ありがとうございます」
ペコと頭を下ろす、ボク。
隣に腰を掛けたアンジュさま。
「大丈夫よ。ジェイスの適量がよーく分かったわ」
明日から任せて、と拳を握り息を巻くアンジュさま。
「はい。ボクもお手伝いします」
「ホント?助かるわ」
目を細め、唇は半円が描かれました。
パキっン。
薪がふたつに折れた。
「……あの、アンジュ、さま」
「ん?どうしたの?」
「……魔女っ子マジョコの話、なんで──」
「何なに?!マジョコちゃんがどうかした!?」
瞳から幾つもの一等星が見えました。
アンジュさまの熱量に押されたボク。
次の言葉を出すのに、間があきました。
「ご、ごめん。私ったら、取り乱しちゃったわ」
冷静さを取り戻したアンジュさま。
気まずそうにコメカミを指で撫でられてます。
「……あ、大丈夫です。あの、アンジュさま……、ボクのお願いを聞いてくれますか?」
真っ直ぐにアンジュさまを見つめる。
そのボクの瞳を受けるアンジュさま。
「内容によるけど、私に出来ることかしら?」
「はい。アンジュさまにしか、できません」
ボクはハッキリと告げた。
アンジュさまは、次に紡がれる言葉を黙って待っておられます。
「アンジュさま。マジカルんステッキを、描いてくれませんか?」
アンジュさまは一瞬、何ごとかと固まられました。
「……?マジカルんステッキを描けってこと?」
反芻するアンジュさま。
ボクは静かに、力強く頷いた。
「はい。どうしても、詳しく見てみたいと思いまして」
迷いなくアンジュさまを見つめるボク。
アンジュさまは、そんなボクを温かい目で見つめ返してくださいました。
「ジェイスも、マジカルんステッキ……欲しかったのね」
いや、そういうワケでは、ないのですが……
ドオ─────んッ!!
ボクの腰が数十センチ、浮き上がった。
「任せて!!今、描いてあげるからッ!」
アンジュさまの声が弾んでおられます。
その足でアンジュさまは、地面に細かく絵を描き始められました。
アンジュさまの解説は夜明けまで続きました。




