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第4話 想いを形に。ウジウジ虫、動き出す。







 ……カサッ。


 ──────バキッ!




 薄暗い森を歩く。

 昨日の雨のせいで、土に足が取られる。

 粘つく土が、ボクの靴にベッタリと張り付いた。

 どんどんと厚くなる靴底。

 そんな靴を落ち葉の上に乗せた。



「───あッ!」



 目線がガクンッと下がった。

 ドンッと腰に来る鈍い衝撃。



「……くぅっ」



 吐息が漏れ出た。

 尻もちをついた腰を擦りながら、ボクの目に《《あるもの》》が飛び込んで来た。



「───あっ、これ」





  ──────使えるかも。










「もう!ジェイス!どこ行ってたのよ?」



 怒気をほんのちょっぴり含ませた声に、ボクは顔を上げた。


 眉を寄せ、頬を膨らませて少しご機嫌がナナメなアンジュさま。



 大鍋?いや、ボクの実家くらいの大きさの鍋をアンジュさまが、木べらを使い、かき混ぜておられます。


 モクモクと空に上がる蒸気。


 グツグツと音を立てながら、スパイシーな匂いが鼻腔を突いてくる。



 昨日の残りでしょうか?



「……あ、す、すみません。少し、探し物を」



 視線を地面へと向ける。



「まったく、黙ってどっか行っちゃダメ。何があるか分からないんだからね」



 いい?と人差し指を差して、念を押すアンジュさま。



 ボク、一応……男ですし、

 こう見えて、セイフティです。


(雑用係だったけど……)


(戦闘中は後ろで見守ってたけど……)



「……お返事、は?」



 アンジュさまのかき混ぜていた手が止まりました。

 ちょっと目元に陰が……



「あ、以後、気をつけます」



 じーっとボクを見つめるアンジュさま。


 ゴクリと息を呑んだ。



「そう。じゃあ、約束よ」



 そう言ってアンジュさまは、僕に近寄ってくる。


 視線が上下に揺れ、太陽が隠された。



「はい。約束の儀式」



 真っ直ぐ伸びてきた、ボクより大きい小指。


 ボクは、何の意味か分からず、まじまじとその小指を見つめる。



「あら?もしかして……ジェイス、知らないの?」


「……え」



 ボクは、アンジュさまの顔を仰いだ。



「約束の契約よ。もし、その約束を破ったら罰を受けるの。そうね……罰は、何にしようかしら?」



 頬に指先を当て、小首をかしげ思案するアンジュさま。そして、少し悪いお顔をしておられます。



「そうこれにしましょ!……ジェイス、破ったら、恥ずかしい話をひとつ、暴露する!どう?」




 恥ずかしい、話か……


 そうだなぁ……


 ............仲間から追放された話、とか、かな?




 そんなことを考えていると、アンジュさまはボクの返事を今か今かとお待ちになっておりました。



「わ、分かりました。それで大丈夫です」


「ホント?!じゃあ、ジェイスも小指を出して」



 アンジュさまに言われるがまま、ボクは小指を出した。



「そしたらね、お互いの小指と小指を……絡ませ……」



 アンジュさまの声が小さくなり、ついには消えてしまいました。肩も少し落ちたような気がします。



「アンジュ、さま?……どうしました?」



 思わず、声が出た。



「あっ、大きさが違うから……」



 しょんぼりしたお声。

 眉が垂れ下がっておられるアンジュさま。



「アンジュさま、こうでは……いけませんか?」



 ボクは、アンジュさまの小指に両手を添え、包み込んだ。



「大きさの違いは……どうにもなりませんが。


……工夫すれば……、何とかなります、よ」



 気恥ずかしくなってゴニョゴニョと呟いた。

 アンジュさまの顔が見れない。





「…………うん。ありがとう」





 ジュッ!ボ────



 アンジュさまとボクの間に漂う匂い。

 焦げ臭い……



 ボクとアンジュさまはふたりして顔を見合せ、そして、顔をある場所へと向ける。



「い、イヤ──────ッ!大切な食料がぁぁぁぁあ!!」



 頭を抱えるアンジュさま。

 アンジュさまの悲痛な声が森を抜け、その先まで響き渡った。










「アンジュさま、少し森に行ってきます」


「え?いまから?」



 焦げ付いた鍋をゴシゴシと洗うアンジュさま。



「あ、はい」


「……マジョコちゃんの話、聞きたかったんだけどなぁ」



 明らかに落ち込まれたアンジュさま。鍋を擦る力も半減されたように思えます。


 そのお姿に……胸が痛む、ボク。



「日が暮れるまでに、戻りますから。そしたら、たくさんお話しますから」


「ほ、ほんと?!んじゃ、私、水汲みしながら待ってるわね」



 アンジュさまの動きにキレが出ました。


 感情の切れ替えの速さにボクは感心しながら、ボクは森へと再び足を踏み入れた。











「はあ、はあ……」



 ポツ。ポツと汗が垂れた。

 汗で額に張り付いた前髪を手の甲で拭う。



「ふう……」



 先ほど、偶然見つけた倒木。

 誰かが薪にしようと倒したのか、試し斬りなのか。

 意図は不明である。



 最後の一筋。

 皮と幹の間に刃を入れる。



 ザクッ!!

 刃をズラし、皮との間に隙間を作る。

 そのまま、刃を押しつけていく。


 ガジィ───ッ。


 長い長い木の皮がベロンと横たわった。


 固まった腰を伸ばし、溜まった息を吐き出す。



 木の皮が、やっと剥がし終わり、美しい白い木肌の全貌が露わになった。



「……今日は、もうちょっと、進めたいんだけど」



 手の内にある剣を見下ろす。

 セイフティの戦闘部隊に支給される剣。


 ボクは、あからさまに目を逸らした。



「加工しやすい木を、選んだつもりだけど……」



 長いこと同じ作業を繰り返した腕と手はブルブルと小刻みに震えている。限界は近い。



 ボクの周りは既に更に暗くなっている。




「……アンジュさまとの約束もあるし、今日はここで終わりにしよう」




 それに……



 ────ボクは今、悩んでいた。




 記憶にある『 魔女っ子マジョコ』の“マジカルんステッキ”の形があやふやなのだ。



 王都にまで行ったにも関わらず、とんぼ返りをしたアンジュさまを思うと完璧を、目指したい。




 目を瞑り、顎に手を当てる。



 思い出そうとしても頭に浮かぶのは……

 マジョコの真似をする母の顔。





 私の魔法は、


 ────恋の味っ!


 ミラクルんミラクルらんらルー☆





 ボクの顔から表情が、消えた。






 あ、そういえば……父さん、元気かな?




 木々の間から、良い匂い。

 お腹がぐぅぅぅぅと鳴った。



「今夜は、……何かな?」


 そう考えながら、ボクはアンジュさまが待つところに足先を向ける。



 また、マウント・〇〇が出たらどうしよう?と考えながらボクは足を動かした。









 Ⅹ Ⅹ Ⅹ Ⅹ Ⅹ Ⅹ







 王都 グランドリア





 妖精族が高らかに鎮魂の調べを唄う。



 啜り泣く参列者。

 黒いベールに顔を隠し、涙を拭うご婦人たち。

 流れる涙を流さぬよう天を仰ぐ紳士たち。


 そこに並ぶ、黒い正装。胸には黄金。


 皆が囲うは、白い柩。

 その中に横たわる者はいない。


 空っぽの柩。



「それでは、皆さん───」



「ま、待て、アレは……国王陛下じゃ!」




 ひとりの獣人族の兎老人が声を暴ぜた。

 その声に、一同が兎老人の視線の先へと注視する。



「ほ、ホントだわ!奥さん!マーガレットさん?!」



 傍にいたゴブリン族のおばさんが、マーガレットの肩を叩いた。



 憔悴仕切った顔を上げ、こちらへと迷いなく進む国王陛下。

 靡く鬣はいかにも王たる風格を醸し出している。



 マーガレットの前に立つ。



「……ソナタが、ジェイスくんのご両親か?」



 カーフマン(ジェイスの父親)に肩を抱かれ、かろうじてそこに存在しているマーガレットの瞳に枯れていた涙がまた溢れ出す。



「こ、く王……陛下……」


「……私も、花を贈っても……良いだろうか?」



「……えっ、」


 言葉に詰まるマーガレット。

 啜り泣くカーフマンの唇が震える。


「も、もちろんです……。息子も、喜びます」


 目からとめどなく溢れる涙を、そのままにカーフマンは頭を下げた。


 膝を落とすマーガレット。


 従者のドワーフが白い華を手渡す。



 ガシッ!!


 国王の眉が跳ねた。



 マーガレットの指先が国王の紅いマントを掴みあげた。白くなる指先。



「────そ、ソナタ!死にたいのか?!」



 控えていた騎士たちも、剣に手を掛けた。


 スーッと上がった毛深い手。



「良い。……皆の者、控えろ」


 ギロッと光った鋭い瞳。

 その命に、騎士たちは剣から手を離す。



「……王さま。私の子、ジェイスは……死んでなどおりません!……必ず、どこかで……あの子は、生きています!」



 恐れもせずに、マーガレットは国王へと見据える。

 その断固したる強い瞳、国王は身震いし、圧倒された。



「この私を、そのように見たのは王妃とソナタぐらいだ。………良いだろう」



 国王は一旦、目を伏せると、ガバッと見開く。


「皆の者ッ!この式は取り止めよ!切なる母の望みを叶え、捜索隊を組織せよっ!」


 国王は咆哮を天へと向けた。


 その声に、騎士は一斉に御意!と礼を取る。



「やれやれ……悪い陛下の癖が出おったなぁ」


腕を組みながら口を突き出し、そうボヤくドワーフ。







「………ウソ、だろ?」



 ボソッと声が漏れた。

 涙ではなく、汗を垂らした男はその場から立ち去った。








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