第33話 白銀が飛び立つ理由
あの瞳が、嫌いだった。
我を見下ろす、あの冷たい金色が……
────心底、大嫌いだ。
我が飛龍族の掟。
それは、弱きモノは排除される。
弱きは悪だった。
孤高であり、強さが全てである我ら一族は弱味を見せてはいけない。
見せた先に待っているのは死。
そんな世界に我はいた。
族長の息子として、敬われていた我。
我は次期の長として、強さを誇示し皆に認めさせなければならなかった。
そう、あの日に。
我の前に引き摺り出された同じ仲間であるドラゴン。
そのドラゴンは、我の友でもあった。
ここで負けてしまえば、弱者となる。
そして、この場にはいられない。
弱者は淘汰される運命。
だが、我は族長の息子。
皆の期待を一身にうける者。
負けることは、許されない。幼い頃からの教え。
負けは死と同義。
父の望みを叶えなければならない。
でもそれは、友に牙を剥かねばならぬ。
我にはそんなこと、出来ない。
狂気に蝕まれたような叫びが反響する。
殺れ!
殺せ!
耳を疑う声が濁流のように流れていた。
萎縮する友は目を丸くし、周りを警戒しながら我を見る。その目はもう、友を友として見ていなかった。
己を殺そうとする相手を瞳に焼き付けていたのだ。
互いを傷つける強さなど……
「無意味では、ないのか?」
零れた疑問。
その答えは一族者たちは一生知ることはないのだろう。
揺れる瞳に我が映る。
そこにいた我は、非常に穏やかな顔をしていた。
これから戦うモノの顔ではない。
「ガルガァァァァア───!!」
耳の奥まで劈いた野太い叫び。
早く始めろと、金の瞳が告げた。
その声に背を押された友が我に牙を突き立てる。強く強く、持てる力を牙に込め我に喰らいつく。
痛むのはそこでは無かった。
我が痛いのは心だ。
双眸が必死に訴えかけてくる。負けたくない!、そう口にしなくても友は我に伝えてきた。
我は反撃をしなかった。
友を傷つけることなど……
我には、出来ない。
それが、我の出した答えだった。
「アルヴァイン……?」
懐かしい声がした。
遠くで我を呼ぶ声が。
重たい瞼を開ける。
そこで我のあるモノを映した。
「……お前、か」
我を、呼んだのは……
「なぜあの時、私なんかを……助けたんだ?」
「……意味など、聞くな」
「教えて、欲しいんだ。君の口から」
真っ直ぐに我を静かに見つめてくる蒼龍。
面と向かって話すのは、なんだが癪に触った。
傷ついた身体に力を入れる。
地につけている足がぐらつく。
揺れた視界の端に映る蒼き鱗。
その蒼龍に我は小さく言葉を吐いた。
「そんなの……お前が」
首を上げ、向けられた双眸を向かい受ける。
「────我の友だから、だ」
蒼龍は目を見開いた。
瞳孔が鋭利に細くなる。
父上がそんなことを聞いたら生温いと一喝するだろう。
我も何だか気恥しい。
こんなことを簡単に言えたのは、アイツの存在のせいだ。
あのちっぽけな存在が、我の中ではこれ程大きく影響している。
でなければ説明がつかない。
「アルヴァイン……」
「なんだ?」
「君がいなくて、私は毎日が退屈だ」
細められた瞳。
穏やかな性格の友には辛い掟。
その中にまだ彼は置かれたまま。
「なら、我と来るか?」
蒼龍の鱗が脈打った。
我はそんな彼の言葉を待つ。
「……それも、良いかもしれない、ね」
「退屈はしないだろう。毎日がめちゃくちゃだ」
「フッ、それは楽しみだ」
和らぐ瞳。
数ヶ月ぶりに見た心安らかな笑みが、とても胸に沁み渡った。
目端に映るハエのよう集る同族。
その先に、我を友と呼んだ者がいる。
そして、父上もそこに。
足が震える。身体はあの瞳を拒む。
行かなくていい。
このまま、ふたりで何も無かったと逃げればいい。
弱い自分がそう囁く。
だが、そんな恥ずかしいことはしたくない。
胸の奥に燻る火種。
その火を起こす。
「────ペンドラゴンっ」
我を呼ぶ声が、聞こえた気がした。
いや、呼んだのだ。我を、あの者が。
あの者たちが。
頭より身体が動く。翼が風を掴む。
「アルヴァイン?どこに……」
見上げられたその瞳は心配の色が見える。
しかし、我は動かないわけには行かない。
「大切な友を助けに、だ」
風を地面へと叩きつけ、バンッと白銀の身体が宙に浮く。
鈍い光は立ち消え、神々しく輝く鱗。
あの曇った瞳にも輝きが戻る。
待っておれ。今、我が行く。
落ち着かない鼓動を、活力にペンドラゴンは天の座のふもとへ。ジェイスのいる先へと鼻先を向け飛び立った。
お読み頂きありがとうございます。
ブクマや評価頂けると嬉しいです!
次回もお楽しみに☆




