第31話 シュワシュワ泡と無数の金色
「オースティン、ペンドラゴンどこ行ったか分かるか?」
鼻息が荒いオースティンへとマリオが声を掛けた。
「あ"?脱皮しに行ったんじゃないのか?」
チラッとマリオを肩越しで見やると、オースティンは少しも気にもせず、アンジュたちへとすぐに向き直る。
マリオはそんなオースティンの態度など、目もくれずに周辺を足を使って探し始めた。
「さっきまで隣にいたんだが……」
岩の裏や陰を覗き込むが、ペンドラゴンの姿は見えない。オースティンの耳に届かない呟きが宙に浮かんだ。
「ペンドラゴ──ン!!どこ行った?!」
「クソッ!あのゴマ人!!!」
オースティンとマリオの叫び声で音が掻き消えた。
ドンドン。ドン!!
地をならしながらオースティンはボクへと一直線にやって来た。
その顔は人を殺せますよ……オースティンさん
「この、ゴマ人───」
眉を寄せこちらへと迫るオースティンにアンジュさまが呼び止める。ニコニコと微笑むアンジュさまを前にオースティンが丸くなっていく。
「あ、パパ!!良いところに来てくれたわ」
「アンジュ!なんでお前がそんな肉体労働を……」
ギロッとボクを睨み付けてくるオースティン。
威圧的な目にボクは狼狽えてしまった。
うっ、
すみません……
「パパ!ジェイスを威嚇しちゃダメ!!それより手伝って!!」
アンジュさまは麻袋をオースティンに渡すと、オースティンの手を引く。
「この白いヤツを砕いて渡した袋に入れてね。マリオも手伝って欲しいんだけど」
遠くにいるマリオに腕を大きく振り、合図を送るアンジュさま。
「あ、気付いた!おーい!!マリオ、こっちに来て!」
マリオは首を傾げながら、納得のいかない表情を浮かべている。
「マリオさん?どうしました?」
ボクは気になってマリオに問いかけた。マリオは後ろを気にするようにしてボソッと声に出す。
「いやな、ペンドラゴンがいないんだ」
「え?ペンドラゴンが!?」
ボクは握っていた剣の柄が指を滑るようにして地へと落ちていった。
カンカラーン。
地へと転がるボクの剣。
アンジュさまは目を見開きながら、その剣を拾い上げるとすかさず、頭上から声を放った。
「ジェイス?!危ないじゃないの!」
「あ!ごめんなさい……」
アンジュさまの指先に乗っている剣を受け取ると、オースティンが息をするように答える。
「だから、脱皮しに行ったんだろうって」
オースティンは目の前に倒れている白い石灰岩に腰を落とす。
「騒ぎすぎだ。羽トカゲも俺たちに脱皮を見られるの嫌なんだろう」
「……そう、か。着替えを見られるようなものか」
マリオは納得したのか、オースティンの傍に腰を落とした。
「そのうち戻って来るから、気にすんな」
オースティンは持っていた袋からレモンデを取り出すと、慣れたように皮を剥く。
「え?パパ、何してんの?」
「……何って、水分補給だよ」
綺麗に薄皮を剥き、果汁がの雫が指から石灰岩へと垂れ落ちた。
────ポタン。
シュワシュワ!!!と音を上げながら石灰岩から泡が湧き起きた。
「───なあッ?!?!」
オースティンはその泡に驚き、目を見開くと後ろへと跳んだ。
「パパ───っ!!」
アンジュさまは、オースティンへと駆け寄られました。
「───ちょ、ちょっと、なんなのコレ?!」
そのぶくぶくと湧き上がる泡を目を丸くして眺めているアンジュさま。オースティンは腰が抜けたようにその場から動けない。
ボクはゆっくりと近寄ると、慌てる背中に声を投げる。
「あ、石灰石ですからね」
その声にふたりが同時に振り向いた。その顔を見ると親子なんだなと思えてしまう。
「どういうこと……?泡を噴き出す石なんて!」
「これ、モンスターだろ!!!」
驚く顔が全く一緒、です
アンジュさまとオースティンはシュワシュワと言っている泡を覗き込んだ。
「オースティンさんが食べていたレモンデの果汁のせいですよ」
「え!パパのせいなの?!」
「な、なんだって!?どういうことだ?!」
オースティンとアンジュさまは顔を見合せ、アンジュさまの眉根が皺を作ろうとしていた。その気配にボクは口を動かす。
「化学反応というヤツです。酸っぱいレモンデの果汁が石灰石を溶かしただけですから」
「と、溶けたの?」
「はい。石灰石か分からない場合はこうやって確かめるそうですよ」
アンジュさまたちから焦りの色が消えいく。オースティンは安堵の息を吐いている。
「はー、たまげた」
「何でもなくて良かったわ。それにしても、ジェイスは本当に物知りね」
「そんなことないです。ただ、色々と経験しましたから」
押し付けられた雑用の知識は、
この時のため、だったのかな?
そんなことを考えていると、カンカーンという音が耳に入った。
音のする方へと視線を移すと、マリオが大きめの石灰岩を叩いている。
「マリオも始めたみたいね。私たちも負けてられないわよ!!」
アンジュさまはスクッと立ち上がると、拳を作り腕を曲げられた。
「ええ、そうですね。ペンドラゴンの脱皮が終わり次第、帰れるように作業を終え────」
ボクの上に大きな影が通り過ぎた。空を見上げる。
そこには青い空が広がっているだけ。影になるようなモノはない。
……今、のは?
風が流れた。
いや、流れたというには強い。
暴風が吹き荒れた。
目が開けられない。
砂や塵が舞い上がり、目を開けていられない。
腕で目を守る。口にジャリと鳴った嫌な音。
──ドシン。
───────ドンッ!ドン!
──────ドシーン!
重たい音があちらこちらから聞こえてくる。
ボクたちを囲うように。
風が止む。
ボクは腕を下ろす。
ギラッと光る何かをボクの瞳は捉えた。
「……ウソ、でしょ?」
アンジュさまの声が漏れる。
その声音は少し、震えているようだった。
「グカァァアァァオオオ!!!」
天へと穿たれた鼓膜を揺らす咆哮。
ボクたちの目の前にいたのは、
「ペンちゃんが……、増殖してる!!」
いや、アンジュさま……
それはないと思います
ボクたちを見つめるいる既視感のある金色の瞳。
だが、友ではない。
それは、無数の飛龍族の群れだった。
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