第29話 天の座、目前!!立ちはだかるミクイバ地獄
目の前にある天の座。着々とボクたちは目的地に近づいている。
目に映る光景はとても素晴らしい。
雲ひとつ無い晴天のお陰か、白い槍と空の青がよく映えている。
ボクは一生、忘れることはないと思う。
この苦しみと共に。
「ウグゥ!?」
誰かが呻き声を上げた。
腐った匂いが空気に漂っている。
この匂いのせいで、誰も言葉を発しない。
息を吸うのをはばかられるほどの濃縮された香。
ボクには身に覚えがありすぎた。
視線を下へと向ける。
足場を埋め尽くすミクイバの葉。
それを踏み抜くアンジュさまたち。
ぬちゃ。
───ヌチャー。と音が立てながら、前を歩くオースティンの足裏が糸を引く。
香りがまた一段と強くなる。
全身でミクイバの香を浴びながら、ボクは天の座を見つめる他なかった。
ズルッ!
ボクの視界が揺れる。
「イ、イヤァァァ!!」
アンジュさまの悲鳴が天と大地に轟く。
「ア、アンジュさまッ!!!」
足をミクイバの体液に取られて、アンジュさま体勢が後ろへと崩れ始める。
焦るアンジュさまは目を見開き、何かにしがみつこうと手を前に出す。
思わず、ボクはアンジュさまの服にしがみつき次の衝撃に備える。
ふわんとボクの足が宙へと浮かび上がった。
「アンジュ────ッ!!!!」
「オッ、マジか!?」
ドン。ドン。とこちらへと引き返すオースティンとマリオ。
差し出されたオースティンの腕を掴もうと、アンジュさまは必死に手を伸ばす。
……しかし、その願いは叶わなかった。
ドド──ン。
地が上下に震動する。
ベチャリ。
アンジュさまはミクイバの上に腰を打ち付けた。
潰れたミクイバから溢れた粘着液がアンジュさまに襲いかかり、服に染み込み広がっていく。
「もお!最悪!!」
アンジュさまは目を伏せて、力無く天を仰がれております。目尻にはキラッと光った雫が見えました。
「アンジュさま、大丈夫ですか?痛いところなどは?」
ボクはアンジュさまの肩へと飛び上がると、クスンと落ち込む彼女に声を投げ掛けた。
「……良かったわ。ジェイスが無事で。だけど、」
アンジュさまの首がガクッと芯を失ったかのように垂る。
しばらく時が止まったアンジュさま。
そしていきなりお顔を天へと向ける。
「おかしりが痛いのと、このヌチャヌチャで私が汚れたのが許せない─!」
本当に嫌そうなアンジュさま。
アンジュさまは顔を歪ませて、ミクイバの葉の上に不可抗力で置いてしまった手を引き上げた。
手にべたぁーと伸びる粘着液を口端をひきつかせながら、眺めているアンジュさま。
「すんごい、嫌なんだけどぉ!!」
温和なアンジュさまが、こればっかりは声を荒らげるしかないようです。
「アンジュ!今、綺麗にしてやるからな!」
オースティンは背負っていた袋へと手を突っ込む。詰め込んであるレモンデの実を手にすると、慣れたように皮に爪を立てて、皮ごとふたつ割いた。
ツーンと匂う、腐敗臭以外の爽やかな香りに心が癒さたような気がする。
オースティンは両手を使いレモンデを握り締めた。酸っぱい果汁がアンジュさまの手に注がれていく。
べたぁーとアンジュさまの手を侵食していた粘着液がボト。ボト。と綺麗に剥がれはじめる。
「とりあえず、手は大丈夫だな。他は……」
オースティンはアンジュの身体をキョロキョロと見渡す。
「だ、大丈夫……。天の座まであと少しだし、ミクイバでまた汚れると、思うし……。手だけでいい」
アンジュさまは思い切り落ち込まれ、オースティンの目も見ずに、小さく返事をした。
「……そうか。分かった」
オースティンはアンジュの頭をポンポンと触れると、そっと離れた。
あ、なんか……
オースティンさんが、お父さんしてる
「だから、オースティン!!そっちじゃないって!!」
マリオの悲痛な叫びがミクイバの葉を揺らした。
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