第28話 閉ざされた瞳
朝を迎えた大陸。ボクたちはこの山頂で、朝を迎えた。山裾に雲海が広がっている。
朝食を終えたボクとアンジュさまは、顔を見合わせる。
彼の前にある朝食は、置かれたままで手付かずだった。
「ペンちゃん、顔色……悪いわよ」
朝日を背に受けながらアンジュさまは膝をついて、地に寝そべるペンドラゴンの顔を覗き込んだ。金色の瞳は半分閉ざされ、身体を縮こまらせている。
美しい白銀の身体をアンジュさまは指先で撫でてやるが、ペンドラゴンの反応は薄い。
「これ、食べる?」
アンジュさま優しい声を掛けながら、バッグの中からビッグドナルードのジャーキーを取り出す。ペンドラゴンの鼻先に持って行くが彼は顔を背けてしまった。
「ペンちゃんの大好物なのに───た、食べないですって……」
アンジュさまのお髪が激しく流れた。驚きのあまり、唇が離れる。
「ジェイス、これは重症よ!ペンちゃんがジャーキーを食べないわ!!」
アンジュさまは蒼白した顔をボクに向ける。
その顔を受け止めたボク。胸が、締め付けられた。
ここ数日、ペンドラゴンの元気はなかったけれど食欲だけはあった。
「どうしたの?ペンドラゴン……?」
ボクはペンドラゴンへと視線を移す。どことなく、煌めく白銀の鱗がくすんでいるように見える。
ペンドラゴンは動かない。
いつもなら首を持ち上げたり、尻尾を振ってみせたりしてくれるが、今朝はそんな素振りも見せない。
「病気、なのかな……」
ボクの眉が急降下する。
ペンドラゴンの様子が、おかしいって気付いていたのに……友として失格だ
顔が俯き、唇を強く噛む。
握り締めた拳が小刻みに揺れた。
「……心配いらないぞ」
そんな様子を耳にしていたオースティンは平然と身支度を整えながら声を上げた。
「どういうこと、パパ?」
アンジュさまは訝しげな顔をオースティンへと向けた。オースティンは至極当然だと口を動かす。
「脱皮、するんだろう」
「だ、脱皮?」
オースティンは続いて、袋にたくさんのレモンデを詰め込んでいる。アンジュさまはピンと来ていない。
「よく見てみなさい。羽根トカゲの身体の色が鈍い。そろそろなんじゃないか?」
「脱皮って、なんなの?」
「あ、脱皮というのは……」
ボクが説明しようとすると、オースティンは口早に話し始める。
「脱皮は成長の証。鱗を持つモノは、今ある皮を破り捨てて、身体を大きくさせるんだ」
最後の1個のレモンデを袋に入れ終わると、オースティンはその袋を背負った。
「新しい姿に生まれ変わるって、こと?」
「ん?いや、違う、そうか?ん?違わないか?」
「……オースティンさん。脱皮を終えたら、ペンドラゴンは元気になりますか?」
まだ心が晴れないボクはオースティンの背に言葉を投げた。オースティンは振り返らない。だが、小さく言葉を返す。
「………脱皮は、病気じゃないからな」
オースティンは一歩を踏み出した。
「お、おい。オースティン!お前は先に行くのは許さんぞ」
マリオがオースティンの前に立ちはだかる。
オースティンさん……
天の座とは真逆、ですよ
マリオも後片付けを済ませ、出発の準備が完了したようだ。
「オースティン、天の座はあっちだ!」
マリオはオーバーな手振りで指を天へと差した。
指先が示す先へとボクは目を向ける。昨日のように靄などかかっていない。
幾つもある白い槍と座が堂々と構えている。
この距離にも関わらず、何かを感じ取ったのかボクの身が少し震えた。
マリオはペンドラゴンへと手を伸ばし、ヒョイと持ち上げ掌に乗せられる。
「さあ、出発しようぜ。天の座へ!」
マリオは声を掲げ、その声にボクは頷いた。
ペンドラゴンは何もせず黙ったまま、マリオに身を任せ金色の瞳を閉ざした。
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