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第26話 亀裂。トイレに行ったら食われました









「もう、やってられないわよ!!!」


 自慢だった髪が焼け焦げたフィーネは深くフードを被り、テーブルに突っ伏した。その瞳からは涙を浮かべている。


 そんなフィーネを眉を下げ、眼鏡越しに眺めているのは副リーダーのサリア。


「ホント……どうしちゃったのかしら、ね。私たち……」


 サリアは手を伸ばした。フードの上からぽんぽん。とフィーネの頭に触れた。



「サリア、フィーネ……」


 サリアたちの名を呼ぶ声が静かに響いた。サリアはその声の主へと顔を向け、フィーネは視線をその者へと移す。


「アーバイン、リーダー見つかった?」


 フィーネは抑揚もない声で、アーバインに問いかけた。


 アーバインは小さく頷いたが、顔の表情は曇ったまま。ふたりもアーバインと同じように、顔を曇らせる。


「……全く、で、グラッドは何処にいたの?」


 サリアは肘置きに身を預け、頬杖をついた。その目は期待もしていない色。アーバインの答えが分かりきっているようだった。


「また、酒場……。喧嘩はまだてない、はず」


 はあ。と大きな溜め息が更にこの空間を淀ませる。


「グラッド、荒れすぎでしょ」


 フィーネはのそっと上体を起こす。フードから覗いた頭は坊主になっていた。


「……ねえ、やっぱりさ」


 アーバインは何気なく言葉を発した。サリアとフィーネはものを言うアーバインへと意識を向ける。



「グラッドは言うなって、言ったけど」


 アーバインは目を伏せた。


「何が言いたいの?」


 サリアの眼鏡の奥にある瞳が強くなる。

 アーバインは気にせず、言葉を紡ぐ。



「……いなくなってからだよね?」



 ふたりの肩が微かに揺れた。



「オレ達が……おかしくなったのって……」




 遠くの方でゴロゴロと雷の音がする。


 嫌な沈黙が続く。

 その言葉にたいして、誰も否定する者はいなかった。









 ***







「 …………。」



「 ──────。」




 ボクは火もついていない焚き木を見つめた。

 目の前にいるのは、アンジュさまの父親 オースティンが胡座をかき、頬杖をつきながら遠くを眺めている。



 き、気まずい……

 ただただ、気まずい


 何もすることもないボクは、その場から立ち上がった。こちらを気にするオースティンの気配がするが、彼は声を掛けてはこない。



「オースティンさん、ちょっとトイレに……」


 オースティンへと声を発したが、空に手を振るだけで済まされてしまった。


「……じゃあ、行ってきます」



 とぼとぼと足を動かす。溜まっていた息をここぞとばかりに吐き出す。



 アンジュさま、申し訳ございません

 生理現象のため、一旦見張りを離脱します


 ボクは物陰へと駆けた。




 所用を済ませたボクは、来た道を引き返そうと身体を捻ると、見たこともない植物を目そにした。


 ギザギザした歯のような大きな葉が二枚。ボクが寝そべっても問題ない大きさの葉が空へと口のように開いている。


「こんな植物、図鑑にも載ってないよ。葉の表面が光って見えるのは……濡れてるからかな」


 ボクはその葉へと近寄った。 加護(スキル)が植物に関するものだからか、植物には目がないのだ。



「ヴッ!」


 急に脳天を突くような嫌な臭いが鼻についた。ボクは、鼻を指先で摘んだ。


「スゴい、臭い……」


 物が腐ったような腐敗臭。むせ返るのを我慢して、ボクは更に近寄る。


「この臭いは……キミなのか?」


 臭いの元はこの植物からだった。

 よーく見ると大きく開いた葉の上に小さな羽虫が飛び回っている。


 そして、その葉の濡れた表面には虫たちが張り付いていた。


「食虫、植物………?」


 その声に葉の口がボクへと向く。葉の棘から虫と共に垂れ下がる透明の液。それは、獲物を前にする魔物に見えた。



 あ、キミ……素早く動けるんだ



 そう感心していると後ろから地響きとともに、大きな叫び声が耳を劈いた。



「おい、ゴマ人!!!そこから離れろっ!」


 オースティンがボクへと手を伸ばす。

 でも、それより食虫植物の方が速かった。


 ヌルッとした粘着した液体がボクを絡め取る。逃がさないように、棘の牙がボクへと食らいついた。



 あ、ヤバい……?



「お、おい!?ゴ、ゴマ人ッ!!!」



 葉が閉じる瞬間のオースティンの唇は、ボクの名を呼んだように見えた。



 ボクの名前、呼んでくれたんですね



 腐敗臭が一気に濃くなる。頭から被る粘ついた液。点々とある黒い柄。そして、ポンッと肩に乗った何かだった物体。



 葉の外から聞こえるオースティンの声と、騒ぎに気付いたマリオとアンジュさまの声。



「オースティン?!」


「パパ!どうしたの?!」


 焦る皆の声が聞こえてくる。

 そんな皆の顔が頭に浮かぶ中、ボクは意外と焦ってはいない。



 ちゃんとペンドラゴン、そこに居るかな?



 なんて。

 ボクは呑気なことを考えているとは誰も思ってない。



「もお、なんでパパが問題起こしたんじゃなくて、ジェイスなの!?」


「ア、アンジュ?!パパのたいして酷くないか!!」


「今度はオレじゃなくて、ミクイバとはな……。ジェイスって、食われるのが好きなのか?」


「ちょっと、マリオ!変なこと言わないの!!ど、どうしよう!?ペンちゃん?!」


「ガルガァ?」

(燃すか?)


「そ、そうね。落ち着くべきよね!!」


「この際、切り刻むしかねーんじゃねぇか?」


「ルガ……」

(あ、ああ……)



 ボクの救出について盛り上がっているようだ。



 皆、有難いな……


 ボクは滑る指先を折り込んだ。

 顔にへばりつく液体を手の甲で強引に拭うと、ボクは声を張る。



「大丈夫です!!自力で出ますから!!」



 ボクの声に皆の視線が集まった気がした。


 見えてないけど。










お読み頂きありがとうございます。

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次回もお楽しみに☆

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