第25話 天の座へ。羽トカゲ、元気がありません
靴紐も指でキツく縛る。
「ジェイス、行くわよ」
アンジュさまは腰にマジカルんステッキを据えた。
あ、ステッキ持って行くんですね
当たり前のようにボクへと差し出されたアンジュさまの大きい掌。
ボクも慣れたもので、そっと乗り上がった。
「ペンちゃん?」
アンジュさまがボクの背後へと声を投げた。ボクはゆっくりとペンドラゴンの方へと顔を向ける。
地につきそうなほど下がっている首。
覇気のない瞳。脱力した翼。
「何が、あったのかしら?」
アンジュさまの美しい表情が歪む。
眉尻を下げ、ペンドラゴンを心配そうに見つめている。
「ご飯足りなかったの?ペンちゃん?」
アンジュさま、違うと思います
ガサゴソとアンジュさまは腰袋に手を入れて何かをお探しになってます。
「ほら?ペンちゃん、元気を出して」
ペンドラゴンの口元に持っていかれたものは、
「貴方が好きな、ビッグドナルードのジャーキーよ?」
少し上向いたペンドラゴンの瞳。鼻先でクンクンと匂いを嗅いでいる。
「アンジュさま、たぶん……食べないと思い──」
ペンドラゴンが醸し出す気配を察し、ボクはアンジュさまへ進言した。だが、ペンドラゴンへの気遣いは無用だったようだ。
バクッ。
カリカリと音を立てながら咀嚼するペンドラゴン。
「た、食べるんだ」
ボクの口から言葉が漏れた。
ドシン。ドシン。と地響きを立てながら、巨人三人とボクとドラゴンは天の座を目指し歩いている。
アンジュさまたちは、深く茂る木々を倒さぬように慎重に歩く。進むにつれて、木より大きいキノコや、花や草。そして、ボクより何倍もある大きな獣に出会した。
そんな出会いに行く手を阻まれながらも、ボクたちは前へと突き進む。
「マリオさん。随分と距離を移動して来ましたが、あとどれくらいでしょうか?」
先陣を切り、皆が歩きやすいように草を薙ぎ倒しているマリオへと声を発した。しかし、その問いに答えたのはなぜか、オースティンだった。
「肩に乗っているだけのゴマ人が、そんなことを聞いてどうするんだ」
アンジュさまの前を歩いているオースティンがボクに悪態をつく。
その位の言葉は、ボクには効きません
「パパ、今のはよろしくないわ。それに、どうして道を逸れようとするの?」
オースティンはボクたちの進行方向ではなく右へと行こうとした。
アンジュさまに腕を掴まれたオースティンは向きを矯正される始末。ボクはそんなオースティンをただ静かに眺めていた。
「ホント、パパは目が離せないんだから」
溜め息混じりに声を吐いたアンジュさま。
「本当にダメだな、オースティンは」
ガハハハと大きな笑い声を出すマリオに再度、声を掛けた。
「マリオさん、」
「ああ、すまない。俺たちの足だと、明日には着くんじゃないか?」
「まだかかるんですね」
「そりゃあ、そうだろ。天の座はこの辺境の端にあるんだからな」
マリオはボクへと顔だけを寄越した。その顔は、とても輝きに満ちていた。
なんだか、マリオさん
楽しそうだな
「あの丘を越えたら、少しは見えるかもな」
マリオは指を前へと差した。
いや、丘じゃなくて
山です
人と巨人族の大きさの感覚の違いを見せつけられた瞬間だった。
「そうなの!それは楽しみ!私、ワクワクが止まらないわ」
アンジュさまの瞳には、キラキラと星が瞬いてます。そのすぐ麓で、アンジュさまの肩で蹲る白銀の身体。
あれ……
ペンドラゴンの身体、少し濁って見える
ボクの視線に気づかないペンドラゴン。今日はペンドラゴンの金色の瞳を見た気がしない。
「……ペンドラゴン」
ボクの声にも彼の反応は無かった。
丘と呼ばれた山の頂上に着いた。
生憎の空模様で天の座は雲で隠されている。
「残念でしたね、アンジュさま」
「ええ……でも、それもそれで楽しみが増えたってことよね」
「あ、それ良い言葉ですね」
「ふふ。そうでしょう?」
天の座の方向を眺めるボクとアンジュさま。なんだか、あの日を思い出す。
「ご、ゴホン」
ボクとアンジュさまを邪魔するようにひとつの咳払いが、辺りに響いた。
振り返らなくても相手は分かる。ペンドラゴンとマリオと一緒に今夜食べる食材を探しに行った。となると、残るのはあの人しかいないわけで。
「アンジュー。パパと火起こし、しないか?」
猫なで声でオースティンがアンジュさまに声を掛けた。
「え?わざわざ火起こしなんてしなくても、ペンちゃんがいればすぐに解決よ?」
「羽トカゲは便利アイテムじゃないぞ。ほら、冒険の醍醐味だろ、火起こしは!」
「えー私、いい。火起こしは日常生活だったから」
「確かにそうですね」
ボクはアンジュさまに加勢した。オースティンは更なる手を打ってきた。
「じゃあ、薪を集めよう!」
「…………」
「……アンジュ?」
ふう、とアンジュさまは長く息を吐いた。
「薪集めは私がやるから、パパはとりあえず、何もしないでここで待ってて」
アンジュさまはボクを地へと下ろす。
「悪いけど、ジェイス。パパひとりだと、何しでかすか分からないから一緒にいてね」
え?
ちょっと、それは……
威圧感たっぷりの視線がボクへと注がれる。
身体に、穴が空くかも
「そういうことだから、パパ。それとジェイス。お留守番頼んだわよ」
「ア、アンジュ?!」
「アンジュさま!?」
オースティンの手が虚無を掴む。ボクも、ボクで消えていくアンジュさまの背を見つめていた。
取り残されたボクとオースティン。
き、気まずいです……
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