第24話 白い石の在り処、羽トカゲの震え
「な、なんだゴマ人っ!!!」
なにふり構わず走ってきたボクをオースティンは、虫の如く手で払おうとする。
「パパ!!ジェイスは虫さんじゃないの!!」
その大きな手から守ってくれたアンジュさまの手。指先から生の玉ねぎの香りがします。
「っくぅ……、このゴマ人の分際でぇ」
オースティンはギリギリと奥歯を鳴らした。
「で、ジェイス?そんなに慌ててどうしたの?」
アンジュさまの手に掬い上げられたボクは、目の前にある白い石に目を向けた。
「アンジュさま、あの白い石、もっと近くで見ても?」
ええ、いいわよ、とアンジュはそのままボクを石のもとまで連れて行く。
オースティンは心底嫌そうな顔を浮かべているが、アンジュさまの圧力に屈し、腕を組みながら成り行きを見守っている。
アンジュさまたちにとっては石でも、ボクとっては大岩。焚き火の火によって影が妖しく動く。
ボクは手を伸ばした。岩肌に沿うように撫でると、サラッとした質感。
スっと手を離すと、ボクはその掌へと視線を落とす。
あ、これ……
白い粉がボクの手に張り付いていた。
「ア、アンジュさま!!これです!!ボクが探していたのは!!」
ボクの喉が張り裂けそうになる。
オースティンに負けないくらいの声を張った。
「ホント?たまにはパパも役に立つのね」
ボソッ零れたアンジュさまのひと言が、オースティンの心に突き刺さったようで、胸を押さえている。
「アンジュ……辛辣」
そんな痛みに打ちひしがれてるオースティンにボクは声を掛ける。
「オースティンさん、これをどこで?」
その問いにアンジュさまもマリオも顔色を変えた。アンジュさまは眉根を寄せ、大きく溜め息を吐く。
「アンジュ、さま?」
「ジェイス……パパにそういうこと、聞いても無駄なのよ……」
「え?どういう……」
またここで大きな溜め息が。
「……アンジュの言う通りだぞ、ジェイス」
空気が淀む中、話の原因であるオースティンの口角を引き上げた。
「ふふ、皆で俺の話をするんじゃない」
「パパ、褒められてないって分かってる?」
「そうだぞ、オースティン!ここに来るのだって、何日彷徨ったんだ??普通に来れば二時間程、だというのに……」
「……まさか、オースティンさんて……」
ボクの高まった熱が、急に冷めていく。
「うん……方向音痴。度を越すほどの、ね」
アンジュさまの瞳は何も映していない。ただオースティンへ向いているだけだった。
「そ、そんなぁ……」
ボクの足は力を失い、この場にへたり込んだ。
「雨季が始まる前にどうにか、手に入れたい。アンジュさまが、雨に打たれなくて済むように……」
指先が土を抉る。なかなか顔が上げられない。
「ジェイス……」
アンジュさまがボクの姿を見て、心が傷むのか切なげな声が降ってくる。
バンッ。
肉を打つ大きな音。
マリオの瞳から滝が流れ出した。地へと落ちる大きな雫でお風呂が入れるかもしれない。
「おい、オースティン。ジェイスのこの思いを聞いて胸が痛いだろッ!この石を見つけたところに何があったか思い出してみろ!」
バシバシとマリオはオースティンの背を叩く。オースティンの記憶を呼び起こすかのように。
「────はっ!?」
オースティンの顔が固まる。
「もしかして、パパ!!」
皆の目がオースティンへと向かう。オースティンの唇が開くのを今か今かと待っている。
マリオの喉が動いた。
「……た、確か、天から槍が」
オースティンの腕が静かに上がった。指を差した方向は……
「───え、空?」
オースティンが示したのは空だった。
「パパ、夢でも見てるの?空に陸なんか───」
「いや、ある!!」
マリオが口を挟んだ。その顔からはすっかり涙は消え、眉根の皺を深くする。
「アンジュは知らないかと思うが、天の座という陸があるんだ」
「……天の座?そんなこと、ボク初めて聞きました」
初めて出た単語に、胸が少し踊った。セイフティとして、国中を転々と回ったがそんな陸地も話も聞いた事はない。
「ハッ、ゴマ人め、知らなくて当たり前だ。暗が森を越えた我らの土地。辺境と呼ばれる地に足を踏み入れる者などいないからな」
少し、オースティンが
自慢気に見えたのは何故でしょうか……?
「あ、ちなみにそっちじゃなくて……コッチだからなオースティン」
マリオはオースティンが指を差した逆を示す。それを見たアンジュさまは、息を吐きながら頭を支える。
「マリオが居てくれて……本当に助かったわ」
「天の座、か……」
鋭い風がボクの頬を掠めた。ボクはその風の先へと目をやる。
「ど、どうしたの?ペンドラゴン?」
金色の瞳が小刻みに震えていた。どことなく、呼吸が荒いように感じる。
平静ではないペンドラゴンにボクは手を伸ばした。触れた先がブルっと白銀の鱗を震わす。ボクの手を伝って激しく打つ鼓動を感じる。
「ペンドラゴン?」
今一度、彼の名を呼ぶ。ペンドラゴンはビクッと身体を揺らした。
「……何か嫌なことでも、あった?」
ボクはペンドラゴンの瞳を覗き込む。だが、ペンドラゴンはあからさまにボクを避けた。
「……ガルガァ」
(……何でもない)
そう低い声でひと鳴きすると、ペンドラゴンは弱々しい足取りでこの輪から離れて行った。
「どうしたの、ジェイス?」
アンジュさまの問いかけはボクの耳には届かない。
孤独に見えたペンドラゴンの背中から、ボクは射止められたように目を離せなかった。
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