第23話 家=嫁!?お父様、結婚騒動
オースティンは鬼の形相でボクへと迫る。その顔の迫力はボクの知る鬼の何百倍。
ボクの足はビクビクと笑ってます。
「キサマのようなゴマ人と、ウチの愛娘との結婚など認めぬッ──!!」
えっ、結婚?!
「ボクが、アンジュさまと結婚……?」
オースティンの荒い鼻息でボクは飛びそうです。その後ろで呆れたように、アンジュさまは頭を抱えておられます。
「オイ?!その言葉を口にするのは許さんっ!!」
「あ、す、すみません……お父様」
オースティンの額にボコっと青筋が浮き上がった。
あ、マズイ……
「「「────だから、そう呼ぶなッ!!!」」」
気まずい空気が漂う中、ボクとペンドラゴンは焚き火越しにある光景を見守っていた。
空には星が瞬き、夕食の香りが空いたお腹を刺激してくる。
地に額を擦り付けるのはオースティンがアンジュさまを前にして土下座を繰り返すこと……早三十分ほど経った。
「なぁ、アンジュ?……機嫌を直してくれ。この通りだ!」
額についた土が落ちる。そんなの気づいているのか、それとも気にしないのかオースティンはひたすらにアンジュさまへと謝罪を続ける。
コト。コトコト。
大鍋をかき混ぜているアンジュさまの耳にはオースティンの言葉は筒抜けのようです。
「……アンジュ?アンジュちゃーん?」
そう何度呼んでも、アンジュさまは返事を返さない。
「おい、アンジュ?もう許してやったらどうだい?」
ボクと一緒に成り行きを見守っていたマリオが、見かねて声を発した。アンジュさまはため息をつくと、仕方ないといった具合に口を開いた。
「……パパ。私とジェイスはそんな関係じゃない。ママにも変なこと話したら許さないから!」
お玉をオースティンに向け、念を押すアンジュさま。腕を組み、睨むお姿もなんだか凛々しく思います。
「だが、家を作る。イコール、嫁に来い!だよ?」
まだ納得のいかないオースティンの眉が寄る。大きな瞳がボクへと向いた。
ビクッ。
その視線……痛いです
「それは巨人族の話、でしょ?ジェイスは、人間族なの」
アンジュさまは、差し向けたお玉を鍋に入れ、一掬いするとお皿に本日の夕食が盛り付けられた。
大きなお皿から上がる湯気。そのお皿をはい、と無愛想にオースティンに手渡されたアンジュさま。
盛られたスープの中にゴロゴロとした野菜が入っている。たくさんの野菜たちのお陰で主食もお腹がいっぱいになりそうな一品だ。
「はい、マリオの分。これは、ペンちゃんの分ね」
順々に料理が手渡される。そして、最後はボクの番になった。アンジュさまは僕専用のお皿を出すと、野菜を細かくしてくれた。
「たくさん食べてね、ジェイス」
そう言いながらアンジュさまはは、ボクに優しく微笑んだ。焚き火の向こうからじーっと見てくるオースティンの視線を避けるとボクは、アンジュさまの手料理を口へと運んだ。
口に入れた途端に、野菜たちが溶け合った甘みのあるスープが口の中を潤す。胃へ流れていくだけで、身体が冷えていたのを感じた。
じゃがいもを口へと放る。入れた瞬間にほろっと崩れていく。続けて、人参、玉ねぎを次々に口へと運ぶ。食感が異なる野菜たちを噛みしだく。そうすることで、甘みが更に強くなる。
「……美味しい、です。アンジュさま」
ボクはそう、アンジュさまへと告げた。彼女は本当に嬉しそうに目元を和らげた。
「うっ、ウンッ!!」
大きな咳払い。
焚き火の火が大きく揺れる。
傾けた器から細められた大きな瞳が、ボクへと注ぐ。
だから、視線が痛いですって…
「たくさん作ったから、モリモリいっぱい食べてね」
そんなボクの現状に気づいていないアンジュさま。ボクは引き攣る笑みをアンジュさまに向けた。
「はあ。居心地悪いな……羽トカゲ……」
そう零しながら、マリオはペンドラゴンに助けを求める。
「ガルアウ!」
(我は羽トカゲではない!)
「だよな。この空気感をどうにかして変えような」
「ガルゥガァァァ!!」
(訂正しろぉぉお!!)
「おっ!羽トカゲもやる気だな」
「ガルゥア」
(違うわ)
「よし、ここは俺に任せとけっ!」
マリオは胸をドンと拳で叩いた。
「なぁ、ジェイス?」
「なんですか?マリオさん」
ボクは手にしていたお皿を地に置いた。オースティンの隣に座るマリオへと視線を上げる。
「さっきのよ、レンガ?で、どうやって家にするんだ?」
オースティンの眉が跳ねた。
マリオは気にも留めず、ボクの言葉を待っている。
「あ、そうですね……」
オースティンの目が鋭く光る。チラッと横にズラせば、その眼光とぶつかった。
気を逸らそうと、しばらくご無沙汰だった手弄りで誤魔化す。
「もう!パパったら!!ジェイスを虐めないで!」
「うっ、アンジュ、それ痛い……」
オースティンは脇腹を押さえながら、悶え苦しんでいる。どうやら、アンジュさまの鉄槌が炸裂したようです。
「ジェイス?勿体ぶらないで教えてくれ」
「あ、はい」
マリオはそんなオースティンにも目もくれず、ボクを真っ直ぐに見つめている。ボクは息を呑んでから、口を開いた。
「積み上げていきます」
「積み上げる?それで家になるのか?」
「そうですね。まあ、雨は凌げるようになるかと思います」
オースティンとマリオが目を丸くした。
「おい、ゴマ人!雨が凌げるだと……」
オースティンの低い声が、重く腹に響いた。
「え、あ、はい。家はそういうものですから」
ボクは平然と言ってのけた。
ふたりの顔が険しくなる。
「おい、それが出来たら……」
マリオは顎を何度も撫で付け始めた。
「それ……嘘ではないのか?」
オースティンが唇を動かす。
「嘘じゃありません。立派な物は出来ないですが、雨は問題なく凌げるはず、です!」
ボクはいつの間にか、その場に立っていた。
オースティンは、ボクへと強い眼差しを当てつける。
「俺たちの家の常識。巨人は屋根ナシという家の概念を覆すことができるのだな!」
目を逸らすことの出来ない視線。ボクの足は今にも震えだしそうになる。だが、ここで引いたら……
ボクは指先に力を込めた。
「覆してみせます!!アンジュさまのために」
アンジュさまの髪が揺れた。
「ふん。ゴマ人がどこまでやるのか、見ものだな」
「そうだな!ジェイス、楽しみにしてるぞ。となると……オースティン?」
「なんだ?」
「ジェイスが本当に出来たら、アンジュはジェイスの嫁ってことか?」
「………………は?」
間の抜けた声がオースティンから出た。
「そんな家作っちまったら、嫁にやるしかねーだろ?」
得意げに口角を上げたマリオは、オースティンの肩を大きな手で叩きつけた。
「あ、ちょ、ボク、そんなつもりは……」
ボクの手が勝手に宙を舞う。
プルプルと震えるオースティンの唇。
その背後では、顔を真っ赤にするアンジュさま。
パキッ。
焚き火の中の木が折れた。
「もお────皆、嫁嫁うるさーい!!!」
アンジュはすくっと立ち上がると、腕の先に力を込めて声を張り上げた。
「出掛けた先でも言われるし、ここでも言われるし!!本当にやめてぇぇえ!!ジェイスは私のペットなの!!!」
ハアハアと息を荒く吐くアンジュさま。
あ、だから、
お昼の時おかしかったんですね
そう納得するボク。
アンジュさまの噴火にマリオの身体が後ろへと仰け反る。
「ア、アンジュ、すまない!あっ、そうだこれ、綺麗な石を拾ったからアンジュにあげよう!」
オースティンはポケットからゴソゴソと何やら取り出した。その石を見て、今度はボクが声を荒らげた。
「そ、それは────っ!?」
ボクは一気にその石へと駆け出した。
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