第22話 お父様、襲来。ボク、嫌われてます?
「ガフッ!……ガルゥゥ」
(ゴフッ!……ガス欠か)
ペンドラゴンの口から白炎が途切れた。
白銀鱗の目元がクマがあるように思える。
「……少し、休んだ方がいいよ。ペンドラゴン、きりもいいし、休憩にしようか」
持っていた割れたレンガを地面に置くと、ペンドラゴンが意気揚々と向かって来る。
アンジュさまと違う足音で。
「ガル?!──ギャルガァ!」
(何?!──休んでいいのか!)
あ、ペンドラゴンの目が輝いてる
ボクはうん、と頷いた。
ペンドラゴンは尻尾をブルンブルンと激しく左右に振る。
あ、その仕草……
犬のペンドラゴンそっくりだ
そうとも知らないペンドラゴンは、日陰に入っていく。
そこには、乾燥中のレンガたち。
陽の光を遮った布が風を受け、揺らめく。
身体を抜けていく風が心地良い。
「……どう?ちゃんと張ってる?」
アンジュさまが戻ってきた。
しゃがみ込み、指先で布屋根を少し持ち上げながら張り具合を確かめられてます。
「お疲れ様です、アンジュさま。問題なしです」
「うっ、──そ、それは、良かったわ」
アンジュさま、ボクの顔を見るとすぐに視線を逸らされました。
あれ……?
なんか、様子が……
朝、別れてから、何かあったのかな?
「全く、……嫌になっちゃうわ」
しゃがんでいたアンジュさまはそこに腰を据える。不貞腐れているアンジュさまは頬づえをつきました。
「……どうか、しましたか?お買い物で、不手際でも?」
ボクの顔を一旦見たアンジュさま。
また、すぐにプイッとそっぽを向かれました。
「……アンジュ、さま?」
……え?
それ、かなり傷つきます
じーっとボクはアンジュさまへと視線を注ぐ。
ん?顔が、紅い……?
疲れが出たのかな
気まずい沈黙が続く中、
「……グガぁ、グゥ──」
ボクの背後で何も知らないペンドラゴンが、いびきをかき始めました。
ぎこちない空気が漂う中、ボクとアンジュさまは何も喋らないまま、共に時間を過ごした。
「────そろそろ、始めましょうか」
ボクは膝に手を付き立ち上がる。この掛け声でペンドラゴンが瞼を開けた。
まだ夢の中にいるようで、瞼は重量に逆らえない。
「……あんなに頑張ってくれたから、もう少し休んでて構わないよ」
「グルルゥ……ガルア……」
(何を言う……我は……)
あ、寝ちゃった
「え、じゃあ、──何する?」
急いでその場に立ったアンジュさまは、ボクに背を向けたまま。
ボク……
何かしてしまったのかな
アンジュさまの態度に切なさを覚えながら、ボクは口を開いた。
「今日はこれから、石灰石を取りに行きたいと思ってます」
「……石灰石?それ、美味しいの?」
やっと、アンジュさまと目が合った。さっきまでのことなど忘れてしまわれたご様子。
アンジュさまは爛々の瞳をボクに送っている。
「ふふっ。アンジュさま、食べ物じゃないんですよ。───石です」
「……い、石?」
そう呟きながら、地面に転がっている石を眺めるアンジュさま。
「この石ではなくて、真っ白い石です。そこで、お聞きしたいんですが……この辺りで草が生えていない岩山などありませんか?」
「……んー。ごめん、ジェイス。私、そういうの詳しくないの……。そういうのは……」
ボクの靴に小石が当たった。
大地が震える。
この、感覚は────
「「「────なっ、なっ、なんなんだ!!このヘンテコな岩はっ!!!」」」
鼓膜を突き破る声量。
眠っていたペンドラゴンが、飛び上がる。
「ガルガァアァァ!?」
(せ、戦争かっ!?)
耳に手を被せ、自衛しながら声の主へと目を凝らす。斜め目で見えたアンジュさまは肩を落とし、ため息を吐いている。
どんどん近づいてくるその方は、どこが面影が重なった。
まさか……?
「「「────やっと、見つけたぞぉ!!!」」」
勢い良く駆出す。一歩、地面を踏み付ける度にガタガタと揺れ動くボクたちの結晶。
このままでは……!
ボクは声を張ろうとした刹那。
「「「───パパっ!!ストップ!!」」」
これまた大きい咆哮が穿たれました。
「もう!!パパったら、何しに来たのよ?!」
アンジュさまの前で正座をして、お叱りを受けているのは……
「よお、ジェイス!元気にしてたか?」
「マリオさん!!」
あの日、藁を分けてくれ巨人族マリオが遅れてやってきた。背中にはたくさんの藁が見える。そして、腰には───、
「あ、歯ブラシ、使ってくれてるんですか?」
「ああ!このお陰で、女房が話をしてくれるようになった!ありがとうな!」
ガバガバと豪快に笑うマリオ。見えた歯は白く健康的に見えた。
「それは良かったです」
ボクは目元を緩ませた。
「……にしても、オースティンの野郎。着いてそうそう。アレなのか……」
「あ?アンジュから聞いてないのか?」
マリオは眉を跳ね上げた。
「お父様と、だけ」
「なんだ、知ってるじゃねーか」
言葉通りだと言って、マリオは背負っていた藁をドンと置いた。まだ、アンジュさまによるお父様の説教は終わりが見えていない。
「んで、コレは何なんだ?」
マリオは焼き上がっているレンガを持ち上げていた。
「これ、食えるのか?」
あ、なんか既視感が……
「食べられませんよ。コレはレンガです」
「レンガ……?」
初めて口にするのか、なんだか音調がおかしかった。珍しいようで、横にしたり透かして見たり、投げてみたり……
「あ、投げちゃダメです!!」
ボクの声が爆ぜた。
宙に上がったレンガをマリオは急いでキャッチした。
「あ、わりぃ悪ぃ」
ばつが悪そうにマリオは後頭部をかく。
その光景を見ていたアンジュさまの目が光っていたのは、ここでは内緒にしておきます。
「で、これは、──何なんだ?」
マリオが目と共に問われると、ボクは滑るように口から言葉を流す。
「これは、このレンガは、
──────お家になるんです!」
「……あ?」
瞬きを忘れたマリオは目を点にする。
ピクッと動いた大きな耳。
ボクの声を聞きとったもうひとりの巨人が鬼の形相で、這ってきた。
「「「───おのれ!貴様、今なんと言った!」」」
血走る大きな瞳。
そんな目に見据えられたボク。
鼻息で遠くへ飛ばされそうです。
「おい、オースティン。落ち着け」
「そ、そうですよ、───お父様」
カチンっ。
オースティンの額に筋がボコッと浮き上がる。
「「「キサマに、お父様などと呼ばれたくはないわ!!!」」」
静かな森にオースティンお父様の声がコダマした。




