第21話 レンガ爆発事件
コロコロと岩が滑るように転がっていく。
「……おい、このデカイ穴いや、谷は……、な、なんだ?」
息を呑む。
目の前の大地が抉り取られていた。
「誰か、ここで……転んだ、のか?」
そんな馬鹿な話がある訳もなく。
「この前はこんなんじゃ無かったはず、だが……、も、もしや───?!」
「……ん?あ、あの後ろ姿は────」
縁で立ち尽くす、木より巨大な男の名を呼ぶ声が谷に響いた。
ⅩⅩⅩⅩ
─────パンッ!!
「アッ!」
アンジュさまはしゃがむと、割れたレンガの欠片を指先で掴む。眉尻が下がり、そのレンガを見つめている。
「……ごめん、ジェイス。手がすべちゃった……」
アンジュさまの身体が縮こまる。
ボクはその隣に経つと、そっと声を掛けた。
「いえ、逆に丁度良かったです」
アンジュさまの潤む瞳がボクを映す。
「……丁度良い?どういうこと?」
アンジュさまは、ボクの言葉の意味が分からず首を傾けた。
ボクはアンジュさまが持っているレンガの割れ目へと視線を送る。
色に違いが無い
芯まで乾き切った証拠だ
「ジェイス……?」
口を閉ざしたボクの顔を覗き込むアンジュさま。
不安の色が見えます。
ボクはそんなアンジュさまを真っ直ぐ見つめた。
「大丈夫ですよ、アンジュさま。ちゃんと芯まで乾いてます」
「え?…あ、…だけど、」
「大きいサイズですし、芯まで乾いたのか見極めるために、どれかを割るつもりでした」
「そ、そうなの?じゃあ、これは……」
欠片を寂しそうに見下ろすアンジュさま。
ボクはアンジュさまの指にそっと手を置いた。
「アンジュさま、失敗じゃありません。そのレンガも使い道があります。なので、元気出してください」
「ガルル。グルゥ、ガルゥアガルル」
(そうだ。また、レンガに戻るのだ)
「ジェイス、ペンちゃん……」
アンジュさまの表情から悲しみの色が消えていく。
「ありがとう。……じゃあ、このレンガはどのようにするの?」
「木っ端微塵に、砕きます」
アンジュさまが、固まった。
「ジェイス……ストレス、溜まって、る?」
レンガを運び出す。
ボクがひとりで持つのは不可能なので、ペンドラゴンのサポートに回る。
レンガにロープを巻き、そのロープをペンドラゴンが持ち、空に舞う。
「乾くと少し、小さくなるのね」
アンジュさまがレンガを抱え、言葉を漏らす。
「そうですね。水分が抜けるのでその分、小さくなるんですよ」
「へぇー。ジェイスって、物知りね」
またひとつアンジュさまの腕の中にレンガが加わる。
「そんなこと、ありません。アンジュさまの方こそですよ。レンガを切った業……初めて見ました」
丸太と蔓を使った業。
「え?そう?巨人族では、当たり前の光景だけど……」
「暮らしの知恵ですね」
「そう、ね。私たちの暮らしは、ジェイスたちとは……あ、なんでもない。気にしないで」
アンジュさまは、レンガを落とさないように慎重に立ち上がる。
ボクの位置からは彼女の表情は見えない。
アンジュさま……
ボクとアンジュさまとの見えない壁を感じた。
乾かす場所によって乾燥中に割れたり、ひびが入った物が多数あった。
「日陰に置いてあるものは割れがない。それに比べて……日向は割れが多い…。屋根、作った方がいいかな?」
新たな発見が出来た。
「ガル?」
(まだか?)
「あ、ごめん。じゃあ、ペンドラゴン。焼き頼むよ!」
「ガルルゥ!!……ガルガ」
(誰に言っている!!……任せておけ)
ペンドラゴンが無数のレンガの前に立つ。
精神統一?だろうか、ペンドラゴンは目を閉じ胸を上下させる。
ペンドラゴンの首が後ろへ引かれた。
刮目し、牙を向く。
「ガゴゴゴオオオオオオオオ────!!!」
キラキラとした白爆炎が噴き出す。
周りの熱を一気に上げる。
炎の中のレンガが姿が変わっていく。
あの試作品のように……
ピキッ……
業火の音の中に微かに聴こえた音…
ボクは爆炎の中を食い入るように目を配る。
次の、瞬間─────!!?
バゴォーン!!!という炸裂音。
ボクの目の前で、レンガが爆発した。
飛び跳ねた熱き破片。
その一つが、かの場所へ一直線に飛んでいく。
危ない!
「ア、アンジュさま───ッ!!!」
ボクは無意識に足が出た。
ちっぽけなボクの足じゃ、一歩が遅い。
伸ばした手は届くことはなく……
無情にも、彼女を守れない。
「……くそッ、」
なんて、ボクは小さいんだ!!
その時、視線の先に一輪の花。
ボクは願いを込め、加護を使う。
彼女を、アンジュさまを助けて!!!
風がそよぎ、花を揺らす。
みるみる成長し、大きくなっていく。
熱い破片が花弁を撃ち抜き、地面へと落下した。
「……え?今の……何?」
アンジュさまは花と腰を交互に見やる。
その腰にあるのはマジカルんステッキ。
「……よ、良かった」
ボクはその場にへたりこんだ。
轟音が止む。
ペンドラゴンが、仕事を終えたようだ。
「ガルルゥルゥ」
(何かあったのか?)
「まだ完璧に乾燥し切ってないのが、紛れてたみたい。ほら……」
視線をそこに向ける。
鈍く光るレンガの中に、ひとつだけ破裂したレンガが。
「ガルゥアガ?」
(なぜ破裂した?)
「芯に水分があると、蒸発した空気が逃げ場を失って爆発するんだ」
「ガルッ?!」
(なにぃ?!)
「焼いてる時は、離れた方が良いね。怪我をしないためにも」
「ガルア」
(そうだな)
ペンドラゴンは爪の長い手を寄越した。ボクはその手を躊躇いもなく重ね合わせた。
「ジェイス!!マジカルんステッキ振ってないのに、魔法使えたんだけどぉ───!!」
アンジュさまが、息を荒くしてこちらへと叫ぶ。ボクは思わず、笑いそうになる。
でも、グッと我慢して言葉を投げた。
「え、そうなんですか!!さすが、アンジュさま」
「不思議よ!!……時間差?かしら」
いつの間にアンジュさま、振ったんですか?
「ガルルガァ」
(バカか、こやつら)
焼き上がった艶やかなレンガたち。
ボクたちの家創り《スローライフ》は、まだ始まったばかり。
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