第19話 泥遊びとレンガ創り
「これが、レンガっていうのね」
アンジュさまの人差し指に、ちょこんと乗せられた小さな小さな試作品。
サイズが小さすぎてビンと来てないアンジュさま。
小首をかしげている。
「はい。これは、試作品で。これから、アンジュさまに合わせた大きさで作ります」
ボクの前に差し出された人差し指。
その上に乗った僕にとっては普通サイズのレンガ。
両手を伸ばし、落とさないように指先で掴みあげる。
目の前のアンジュさまの指が勢い良く戻った。
胸の辺りで軽く握り込まれた指先。
天高くから弾む声が、
「───私も、手伝う!」
アンジュさまの明るい瞳と目が、合った。
「ええ。一緒に、作りましよう」
ボクはこくりと頷いた。
「ガルルゥガ……」
(我はもう休……)
「そうね!ペンちゃん!ドンドン、やりましょ!!」
「ガルッ?!」
(おい、違っ?!)
「さあ、ジェイス。私は何をすれば良いのかしら?」
ボクの声に耳を傾けてくれるアンジュさま。
ちゃんと、ボクの言葉を待ってくれる。
そんなこと、初めてです
「じゃあ、まずは……粘土を集めましょう」
「わかったわ!ペンちゃん、一緒に行くわよっ!」
「ガルルゥアアガル」
(我はここに居たい)
「うん、絶対たくさん持ってきましょうね!!」
アンジュさまはペンドラゴンを軽々しく肩に担ぐと、そのまま森の中へと入っていく。
木より大きいアンジュさま。
時たま振り返り、ボクに手を振る。
その間にボクは藁を切ることにした。
藁といっても軟な代物ではなくて、そこらに生えている木より少しばかり短いだけ。
太さもボクより細いくらい。
茎の中は空洞だが、厚みもあるわけで……
簡単に切るといっても、人間族のボクにとっては重労働なことには間違いない。
「……ん─。試作品は細かくしたけど、大きい物を創るわけだから……」
このくらい、かな?
一本の藁を八等分にすることにした。
腰に携えている剣を出す。
手のひらに刃を乗せる。
先程、研いだ刃はくすみが取れ、キラッと陽光を反射させた。
「……良い仕事が出来そう」
しっかりと柄を指で握る。
大体の大きさを決め、刃を当てた。
刃が茎に食い込む。
そのままは刃を地面へと落とすように裁断する。
───ジャクン。
「……あれ?今日は何だか、切り味が違うかも」
改めて、刀剣を眺める。
なんか、軽く感じるかも?
気のせいかも、しれないけど……
「アンジュさまたちに負けないように、さっさと片付けよう」
ボクは藁切りに精を出した。
「ジェイス───!」
アンジュさまの声が飛ぶ。
ボクは顔を上げ、ニコニコと微笑むアンジュさまへと身体を向ける。
「おかえりなさい」
────ドドン。
震動と地響き。
山の如く積み上げられた粘土。
この土地に藁山と粘土山のふた山ができあがりました。
「ふぅ、また足りなくなったら取りに行くからね」
額にかかる前髪を指先で払うアンジュさま。
よく見るとアンジュさまのお顔が泥だらけです。
「アンジュさま、お顔に泥が……」
「え?そう?……まあ、良いわ。そういうジェイスも藁まみれ……クスッ」
クスクスと口元を隠すように小さく笑うアンジュさま。
自分の身体を確認し、アンジュさまへと声を投げる。
「な、なにか……変ですか?」
「ごめん、ごめん。……ふっ、なんか、鳥の巣の雛鳥みたいで……ふふっ」
あ、ボク……
ピィピィ鳴いて、みましょうか?
「グァァオ」
(我を置いてくな)
遅れて飛んできたペンドラゴン。
持っていたカゴを地面に置く。
その中にもたくさんの粘土が詰められていた。
「ありがとう、ペンちゃん。よしよし」
アンジュさまはペンドラゴンの頭を撫でて、ます。
別に、うやましくなんか……ない
それをジーッと見つめるボク。
不服そうに目を細くするペンドラゴン。
「……ガルル」
(……悪くない)
ボクの視線に気が付いたアンジュさまが、次は?と目で訴えかけてきた。
ボクは指の背に顎を乗せた。
粘土、藁と来たら……
「……練りましょうか」
「練るのね!泥遊びなんて、久しぶり!」
「はは、泥遊び。なんかワクワクしてきました」
「私もよ」
「ここに、ある藁と粘土を混ぜて作ってみましょう」
ボクはシャツの袖を引き上げ、藁の作業に戻る。
ペンドラゴンが翼で風を巻き起こし、天へと押し上げる。
舞い上がった藁がふわふわと雪のように……いや、槍のように降り落ちた。
粘土山に次々とぶち刺さっていく。
ボクの藁を切る手が止まった。
……イガグリ?
その藁槍を薙ぎ倒し、捏ねくるのは我らがアンジュさま。
イガグリ山が一気に丘へと変わり、藁が飲み込まれていく。ピョコンと悔しげに出る藁も観念したようにひしゃげている。
「こんな……もの、かしら?」
泥だらけの手をパンパンと弾くアンジュさま。
ボクは剣を地へと刺した。
「───上出来です。アンジュさま」
均一に混ぜ合った粘土と藁。
こうなれば、あとは形成になる。
だけど、全て均等にしなくちゃ……
差がでないようにするにはどうしたら?
腕を組み、頭を捻る。
「……木枠が、無いし」
「どうしたの?……もしかして、私……やらかした?」
「い、いえ?!違うんです。ただ、均等に創るにはどうしたら良いか考えてて……」
「そうね……何か良い案があれば良いんだけど……、あ!ちょっと待って!!」
アンジュさまは急に走り出した。
地面を震わせ、髪を鞭のようなびかせながら。
ボクはその後ろ姿を眺めながら、その場に立ち尽くした。
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