第18話 試作品にドラゴンブレス
朝日の眩しさで目が覚めた。
今日もボクは、アンジュさまが木に縛ってくれる即席ハンモックから起き上がる。
腕を空に差し伸びをし、ふうーっと息を吐く。
まだ冷たい朝の空気を肺に取り込む。
なんだか、空気が湿っている気がした。
「……この土地は王都と比べて、雨季が来るのが、早いのかな」
「モォ─、じぇいす、……どこ?」
……ん?
アンジュさまも、起きたのかな?
地面に目を向ければ、アンジュさまが猫のように丸くなり寝息を立てていた。
寝言、かな?
「……どんな夢を、見ているんだろう?」
また、ボクが迷子とか……?
視線を感じる。
その視線を辿ると、ペンドラゴン金色の瞳とぶつかった。
身体も首も岩のよう、ただ瞳だけが動く。
「おはよう。ペンドラゴン」
挨拶をすると、ペンドラゴンは瞳を閉じた。
「ドラゴンも冷えると動きが……鈍るんだね」
セイフティの採用試験の問題集に載っていたことを思い出した。
「ガフゥ……」
(黙れ……)
「じゃあ、ボクは……試作品を見に行って来るかな」
掛けていた布を畳む。ひょこと顔を出す。
ボクはアンジュさまの寝顔を眺めたあと、ハンモックから飛び降りた。
───シュッ
足が着く。
膝を曲げ勢いを殺し、手を地に添える。
土が舞い上がり、ボクの髪がふわっと風にさらわれる。
ドシッ。
朝日を浴びて、七色に光る鱗。
「ガフゥ」
(我も、行く)
「ペンドラゴン……」
「ガウ、ガルルガル」
(別に、お前が心配だからではないからな)
そう鳴くと、ペンドラゴンは顔を横に逸らした。
「あ、トイレ?トイレは、ね……」
指を差そうとすると、ペンドラゴンは翼をはためかせ、空へと飛び立ってしまった。
ボクは顔を空を仰ぐ。
「……ギリギリ、だったのかな」
キラッと煌めくペンドラゴンをボクは姿が見えなくなるまで見送った。
「ふん?……あれ、じぇいす……?朝、早いわね……」
眠気まなこのアンジュさま。
まだ夢心地の彼女へと身体を向き直す。
あ、起こしちゃった
「おはようございます。アンジュさま」
ゴゾゴゾと起き上がると、朝日に照らされたアンジュさま。
「うん、おはよう」
神々しいアンジュさまの笑顔を見れたので今日も一日、ボクは頑張れそうです。
「────!!」
ボクの足が勝手に走り出す。
「ハァ、ハァ……」
ごくん。
震える手でボクはその長方形に手を伸ばした。
「────せ、成功だ」
目頭が熱くなる。
まだ完成したわけではないのに、涙が出そうになった。
「あとは、焼くだけ」
バサっ。
─────バサッ。
風が巻き起こる。
後ろを振り返るとそこにはボクの友がいた。
「……ナイスタイミングだよ。ペンドラゴン」
プイッと顔を斜めに放るペンドラゴン。
き、機嫌が、悪いかも……?
「ぺ、ペンドラゴン……、来てくれて嬉しいよ」
金色の瞳が細く鋭くなる。
「……ガゥ」
(……ふん)
「見て、試作品のレンガだよ。見てよ」
手に持っていたレンガをペンドラゴンに差し出した。
細い瞳が少し動く。
「割れて、ないでしょ?まだ、完璧に乾いた訳じゃ、ないんだけど」
ペンドラゴンは鼻先をレンガに近づけた。
クンクンと匂いを嗅ぐと、細く息を吹き付ける。
「な、にを?」
レンガを持つ手が軽くなった気がした。
「もしかして、乾かして……くれたの?」
そのボクの言葉にペンドラゴンは首を縦に一度動かした。
「……君って、本当に」
真っ直ぐペンドラゴンを見やる。
そんな彼はクイクイと顎を振った。
ボクはうん、と頷くとレンガを地面に置く。
そこから離れると、ペンドラゴンの首が後ろに下がると大きく口を開いた。
噴き出したドラゴンブレス。
眩い純白の火炎がレンガへと放たれた。
炎の中のレンガの色が変わっていく。
ドラゴンブレスが途切れた。
そこにあるレンガは、
「……えっ」
ボクは言葉が出ない
この仕上がりに、
────言葉を失いました
「グルゥ?……ガルル」
(どうした?……失敗か)
「……ごめん、いきなり黙るから怖かったよね」
ガラスのような質感に鈍い光沢。
ボクの雑用人生では見たこともないレンガ。
「美しい仕上がりに……言葉が見つからなかったんだ」
「ガフゥ、ガァルルア」
(ったく、我にかかればこんなこと)
ボクは後ろに手を回す。
柄に掴み、剣を抜いた。
切先をレンガへと定める。
両手で柄を握り込む。その指が白へと変わる。
「ガルッ?!ギュガァアア!!」
(ジェイス?!気でも触れたか!!)
ボクの渾身の力を込めて、天高く突き刺した。
カキィ────ン!!!
鼓膜を突き破るような高い音。
切先を弾き飛ばした。
剣が小刻みに共鳴している。
「……有り、得ないよ」
眼下に威風堂々と鎮座するレンガ。
その表面は、
「────傷、ひとつない……」
持っていた剣の先へと視線を送る。
ジェイスの目が丸くなった。
「今まで使ってきて、刃こぼれなんて……、一度も無かった、のに……」
刃を手のひらに置く。
見事に刃が負けてしまっていた。
「────これも、全て」
ペンドラゴンへと視線がいく。
「君のおかげだよ。こんな強靭で強固なレンガを創り出せたのは……全てペンドラゴンが手伝ってくれたからだ」
「……ガルルガォ」
(……褒めるでない)
ペンドラゴンの頬が色付いたように見えた。
あ、照れてる
また目を合わせてれないや
熱が残るレンガへと視線を落とし、他に控えている試作品へと目を向ける。
「ペンドラゴン、あと一回焼いてもいいかな?」
「ガルルガ、……ガウル」
(まだやるのか、……我はもう、)
「良いの?じゃあ、早速お願いするよ!」
「ガルッガルルァ?!」
(ひと言も言っておらぬッ)
「試作品を全部焼いてみて、同じクオリティを出せるか見てみよう!」
ボクはペンドラゴンの指を手にすると、試作品たちのもとへと急いだ。
ひとりの人間とドラゴンを見守っていたレンガが淡く光を放つ。そのことに気付いた者は誰ひとり、この場にはいなかった。
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